
【川腰和徳②】企業の課題解決ができるデザインの作り方
構成/黄 孟志、菱山恵巳子 撮影/林 直幸
デザインでのアプローチが課題解決の近道
眞鍋 前回、クライアントやメンバーにも「ビジュアルイメージ」でゴールを示しているというお話がありました。直観的に分かりやすいコミュニケーションが取れるのは、自分でデザインができるアートディレクターならではの大きな武器ですよね。
川腰 実は「言語」よりも、「視覚」と「聴覚」の情報の方が、人の印象に残りやすいといわれています。
印象操作に関する「メラビアンの法則」という法則があるのですが、人間は外部とコミュニケーションを取るとき、言語・聴覚・視覚の3つの情報から印象を判断しており、その際、言語情報が7% 、聴覚情報が38% に対し、視覚情報が55%も印象操作に影響を与えているそうです。
眞鍋 なるほど。広告はコピー主導になりがちな側面もありますが、視覚・聴覚主導の方が伝わりやすい。だとしたら「デザイン」を軸にしたクリエイティブ・ディレクターがもっと増えてもいい気がしますよね。
川腰 そうですよね。人がものを選ぶとき、無意識的に視覚情報で好き嫌いを判断することは多いと思います。デザイン性の役割というものは今後もっと重要になっていくと思います。企業のブランド成長のためにも、まずはそこを改善することが一番の近道なのではないかと思っています。
伝わるものは、ロジックで作られている
眞鍋 では、デザインの作り方についてもお聞かせください。
以前、川腰さんは「デザインは客観性だ」とお話しされていましたよね。
川腰 そうですね。広告デザインは、作ったものが相手に伝わらないと広告としての意味がないので、世の中を意識しつつ客観性を大事にしています。
デザインは「考え方の整理」だと思っていて、デザインを考えるときは伝えたいコアのメッセージを明確に整理することから始めます。
そのメッセージがすべての土台なので、それを伝えるために一番分かりやすい表現モチーフ、一番伝わりやすい色や形をうまく積み重ねながら、伝わるデザインを検証していきます。伝わるかどうかの判断は客観性を基準に、見る人の視点に立って考えます。

デザインが感覚的なものという誤解をされないように、実はロジカルに考えながら一段ずつ積み上げているということだけでもお伝えできればと思います。
プロとして「庶民感覚」を忘れないことが大切
眞鍋 「客観的なデザイン」に関して、最近の川腰さんはさらに磨きがかかっているように感じます。
川腰さんが「富士急ハイランド」などのアートディレクターをしていた時は、一目見ただけで「川腰さんらしさ」が表れていました。でも、クリエイティブ・ディレクターになって以降、少し変わってきているような気がしています。
コロナ禍の初期に世の中を勇気づけたドラえもんの「STAY HOME」プロジェクトや、映画『君の名は。』の新聞広告で、光にかざすことで2人の主人公が出会うように見える仕掛けなど、ヒットした広告を後から川腰さんの仕事だったと知ることが多くて。
制作を行う上で、何か変化した点はありますか?
川腰 ありがとうございます。たしかに「世の中とのコミュニケーション」を、より意識するようになりました。自分の力だけで突破したいという時代は終わったと言いますか。
広告デザインの一番の目標は、話題になること・商品が売れることなので、そのために必要なデザインを考える必要があると思います。ある程度のデザイン性と大衆性を折衷した広告を意識するようになりましたね。
眞鍋 商品のコンセプトや価格帯ならではのベストなアートディレクションはありますからね。
川腰 そうですね。2016年からアートディレクターとして担当している「湖池屋」でクリエイティブ・ディレクターを務めた篠原誠さんは、そのバランス感覚が素晴らしかったです。
ハイレベルなクリエイティブを作りながらも、ある意味で「普通のおじさん」のような庶民感覚も忘れていない方です。
「KOIKEYA PRIDE POTATO」の候補パッケージデザインを数種類見せて相談すると「こちらの方が手にとりやすい」「こちらの方がおいしそう」と、ユーザーファーストの目線でもディレクションしていただき、店頭で売れるためのパッケージデザインとは何か?を意識しながら候補を絞っていきました。
眞鍋 その感覚、すごく大切ですよね。広告クリエイティブの文化や常識を疑って、いかに普通の生活者のプロでい続けられるか。
川腰 プロとして、世の中の方がどこで喜ぶか、楽しいと思うか、手に取りやすいかの感覚を持ち続けなければいけないと思います。
眞鍋 「感度が高い人だけに伝わればいい」というデザインは、広告クリエイティブとして危険なこともありますよね。