
【川腰和徳①】「デザイン」が軸足のクリエイティブ・ディレクター
構成/黄 孟志、菱山恵巳子 撮影/林 直幸
現代における、クリエイティブ・ディレクターの仕事とは何なのか。どのようなスキル、センス、マインドが求められるのか。電通の眞鍋亮平氏が対談を通して解き明かす。
今回のお相手は、アートディレクター出身で、2019年にクリエイター・オブ・ザ・イヤーを受賞した川腰和徳氏。

クリエイティブ・ディレクションにおいて「デザイン」の技術はどのように活かされるのか、語り合いました。
スペシャリスト思考のゼネラリスト
眞鍋 広告においてビジュアル領域の責任者といわれる「アートディレクター」。
そのポジションで素晴らしいアウトプットを生み出し、数々の賞を受賞してきた川腰さんですが、そこから「クリエイティブ・ディレクター」になったのが2020年1月。川腰さんから見て、2つの職種の違いはどこにあると感じますか?
川腰 前者はスペシャリストで、後者は全体を見渡すゼネラリスト。後者の方が明らかに仕事の幅は広いですね。
しかし、肩書きが変わっても今まで積み重ねてきた技術は活かせると思っているので、自分の強みである「デザイン」という軸足をしっかり活かすスペシャリスト思考のゼネラリストを目指していきたいと思っています。
眞鍋 たしかに、川腰さんがクリエイティブ・ディレクターとして手掛けたNTTドコモ「ahamo」は、デザイン性を大切にしながら全体の設計をされていますよね。
川腰 デザインを軸にしているからこそ、アウトプットにもビジュアルだけで伝わるコミュニケーションを意識していています。
ビジュアルイメージでコア・アイデアを示す
眞鍋 ビジュアルでのコミュニケーションは、チームのディレクション面でも意識されていますか?
川腰 そうですね。メンバーとの最初の打ち合わせの時までに事前にビジュアルを描いたり、イメージを作ることがありますね。
これはアートディレクターが広告代理店の職種の中で唯一、企画からアウトプットの定着まですべて自分でできる職種だからこそ可能なディレクションの仕方だと思います。
NTTドコモ「ahamo」や、北國新聞社主催の第101回高等学校相撲金沢大会「相撲ガールズ82手」でも、最初に僕がビジュアルイメージを作るところからスタートしました。
ただ、細かい部分まで作り込みすぎるとチームの表現の幅を狭めてしまうので、作るビジュアルイメージは、詳細まで作り込まずに方向性のみ提示するようにしています。


眞鍋 「ここに行きたいから、皆の力を貸してくれ!」という、強い意思でメンバーを集める、少年漫画の主人公のような迫力が必要なときもありますよね。
川腰 メンバーがすべきことを、最初に絞ってあげることも大事な仕事だと思っています。
5年ぐらい前の話ですが、ホンダの企業広告「負けるもんか。」でクリエイティブ・ディレクターを務めた伊藤公一さんと初めてお仕事させていただいた時、最初の打ち合わせで「俺のやりたいことを手伝ってほしい、だから川腰はこれをやって」と、ゴールと個人の役割まで明確に示してくださいました。
様々なクリエイティブ・ディレクターの方と仕事する機会があるのですが、俺についてこいスタイルは初めてだったので、カッコよくて憧れましたね。
眞鍋さんもディレクションがスマートで、初動で明確にゴールを見せてくださいます。「次はこれをやればいい」を的確に示してくれるから、打ち合わせが早い、無駄がないです。目標にさせていただいています!
眞鍋 ありがとうございます。メンバーがかけた時間と、世の中からの評価が比例しないこともありますよね。
川腰 そうですね。時間をかければ良くなるものもありますが、時間をかけすぎて悪くなることも経験で学んできました。
デザインなんか特にそうで、力を入れて良くしようとしても逆に悪くなったりすることもあって、肩の力を抜いて作ったぐらいの方が世の中的にも話題になることもあります。
作業と効果のバランスはとても難しいですが、どこがピークなのかを判断することもクリエイティブ・ディレクターの仕事なのかもしれませんね。
眞鍋 メンバーに仕事を依頼するときは、どんな工夫をされていますか?
川腰 やはり、自分が思い描くゴールイメージから伝えることが多いですね。もちろん完璧なゴールがいつも見えているというわけではありませんので、頭の整理も兼ねて、キービジュアルで複数考えながらコア・アイデアを相談したりします。
企画のコア・アイデアは、すべての土台部分なのでシンプルで強いものがいい。先に示し、迷ったときにメンバーが立ち返る場所として使っています。
あと、クライアントへのプレゼンも自分たちが何をやりたいのか明確に伝わるよう、最初にキービジュアルを見せてから、ひもとく順番を採用しています。
眞鍋 普通のプレゼンだと、マーケティング視点のロジックを積み上げて、最後にクリエイティブ案を見せるパターンが多いですが、たしかに逆の順番にした方が理解されやすいこともありそうです。コミュニケーションのスピードも速くなりますよね。
川腰 はい。結局世の中の人が接するのは最終のアウトプット部分だけなので、そこで伝わらなければどれだけ素晴らしい戦略もアイデアも台無しになってします、自分がクリエイティブ・ディレクターになったら、ゴールイメージから見せるという伝え方を試してみたいと思っていました。
チームのメンバーには「熱量」を求める
眞鍋 チームメンバーにはどんな方をアサインされていますか?
川腰 仕事に対するモチベーションが高い若手をアサインすることが多いです。重要なのは仕事に対する熱量で、粗削りでも愛情を持って仕事をやってくれる人にお願いしたいと思っています。
若手チームだと技術的に多少不安を感じることもありますが、最終的に自分がフォローすればいいだけなので、まずはメンバーを信頼してなるべく任せるようにしています。
唯一僕ができないコピーライティングは、ある程度経験を持った方に依頼します。…とはいえ、やはり熱量がある比較的若い方とご一緒することが多いですね。
例えばNTTドコモ「ahamo」では、ターゲットがZ世代ということもあり、若手コピーライターのエース渡邊千佳さんにお願いして、ahamoというネーミングを生み出してもらいました。
眞鍋 技術は後からでも追いつきますが、熱量の高さはその人が元々持っているものだったりする。だからこそ大切ですよね。