
【磯島拓矢②】クリエイティブ・ディレクションで必要なコピーの手法
構成/黄 孟志、菱山恵巳子 撮影/林 直幸
理想的なコピーライター像とは
眞鍋 磯島さんには「こんなクリエイティブ・ディレクターになりたい」という理想像はありますか?

磯島 実は、とにかくコピーライターになりたかったので、クリエイティブ・ディレクターになりたいと思ったことはないんです。
コピーライターの延長として、広告業界で良いキャンペーンを作るために、クリエイティブ・ディレクターになった感覚です。
眞鍋 では、コピーライターになりたいと思ったきっかけは?
磯島 中学生の頃、世の中全体がコピーライターブームでした。ちょうど糸井重里さんが司会としてNHKの「YOU」に出演されていた時代ですね。
若い世代の日常生活をテーマに、10代・20代の若者が討論する番組でしたが、当時30代半ばの糸井さんは、テーマに対して結論付けるわけでもなく、若者の意見を聞いて、雑談のような形で議論をひたすら活性化させてゆく。
これが若者と大人の正しい距離感という気がして、こんな大人になら、なってもいいなと思いました。
当時書かれたコピーも西武百貨店の「おいしい生活」など、ゴール設定が独特ですよね。「楽しい」「がむしゃら」「清く正しい」でもなく、「おいしい」という新しいゴールを世の中にコピーとして提案する姿勢がかっこよかったです。
クリエイティブ・ディレクターとしても尊敬しています。
眞鍋 僕は後から「YOU」に坂本龍一さんが出演された回などを見ましたが、当時の糸井さんをリアルタイムで見られていたらすごく影響を受けそうです。
磯島さんがコピーライターとして電通に入社されたのは1990年ですが、若手の頃は「明日までに100本書いてこい!」といういわゆる「しごき」のようなものがあったのでしょうか?
磯島 入社時、コピーライターの中村卓司さんが師匠だったのですが、そういった乱暴さはなかったですね。かなり親切に教えてくれました。
たしかに、最初は上達のためにたくさん書いてみることも必要ですが、書いたコピーを丁寧にフィードバックしてくれる師匠がいることの方が、正しく成長するためには大切だと思います。
眞鍋 磯島さんはau「三太郎シリーズ」ではエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター、アシックス「RUN for X」やKIRIN一番搾り「やっぱりビールはおいしい、うれしい。」ではクリエイティブ・ディレクターという立場です。磯島さんのチームにコピーライターがいる場合、ご自身はどのようにコピーに関わりますか?
磯島 スタッフにコピーを書いてもらう場合でも、基本的には自分もコピーを考えるようにしています。もちろんケースバイケースですが、自分もアイデアを出し、スタッフからも良いアイデアを集め、ブラッシュアップしていく手法が多いですかね。
全体を統括をする立場でも、常に1人のコピーライターとしての視点を持ち続けるようにしています。
本質を掴むためのコピーの書き方
眞鍋 磯島さんが書くコピーは、企業や商品の本質的なテーマを深く掘り下げているため、時間が経ってからも効いてくると感じます。
例えば、ご一緒させていただいた大塚製薬ポカリスエットの「渇きを力に変えてゆく。」は、コロナ前に書かれたのに、今、世の中に響くコピーです。
九州新幹線の「祝!九州」も、コピー自体はCM撮影前に磯島さんが書かれていたけど、撮影を終えたメンバーは、まさにこの言葉通りの思いを感じたと聞きました。

本質を捉えたコピーを書くために、何から始めれば良いでしょうか?
磯島 まず、現状の企業・商品の「良い点」「悪い点」を自分の中ではっきりさせることからスタートします。
これはコピーを考える上でとても普遍的なことで、自分でコピーを書くときも、スタッフにコピーを書いてもらうときも必ずこの検証からスタートします。
そこから「良い点をどう伸ばすか」「悪い点をどう改善するか」を徐々に深掘りするようにして、コピーに落とし込むようにしています。
眞鍋 チームの中でコピー案がいくつか集まった後は、どのようにブラッシュアップ、もしくはディレクションをしていくのでしょうか?
磯島 まずはコピー案を「大きなスローガン」と「細やかな人の気持ちに触れる言葉」の2種類に分類します。そして、今回のプロジェクトではどちらがメインになるのか、はたまた両方の組み合わせが必要なのかを見極めます。
そのとき、軸になるのは最初に設定したゴール。そこからズレていないかと立ち返りながら絞っていくことで、効果的なメッセージ構造がつくれると思います。
引き出しを増やすためのインプット
眞鍋 最後に、コピーを書く上で意識されているインプットについても教えてください。
磯島 これはクリエイティブ・ディレクターの引き出しをつくるためのインプットでもあるのですが、映画を見て、その周辺の文章を読むようにはしています。
自分の中で解釈、分析することはもちろん、さまざまな評論を読んで、他人の考えも知ることができるのが映画の醍醐味です。
自分の中では曖昧だったその映画の美点を、しっかり言い当ててもらったり、まったく違う視点で否定されたり、学ぶことは多いです。
1本の映画で「テーマ」「構造」「表現」という複数の軸があり、それぞれの視点を養うこともできます。
短い作品を浴びるように見るよりも、映画1本を掘り下げて見た方が収穫があると思いますね。単に映画が好きだというのもありますが(笑)。
眞鍋 「世の中の意見の違い」を知り、理解するというのはクリエイティブ・ディレクターにとっても大切な視点ですね。
磯島さんがクリエイティブ・ディレクターとして多くの人に響く「言葉」を届け、課題を解決する秘訣が分かるお話となりました。