
【磯島拓矢①】「言葉」を軸足にするクリエイティブ・ディレクターとは
構成/黄 孟志、菱山恵巳子 撮影/林 直幸
現代における、クリエイティブ・ディレクターの仕事とは何なのか。どのようなスキル、センス、マインドが求められるのか。電通の眞鍋亮平氏が対談を通して解き明かす。
今回のお相手は、コピーライティングを軸足とする、電通のクリエイティブ・ディレクター磯島拓矢氏。

眞鍋氏がクリエイター・オブ・ザ・イヤーを受賞するきっかけとなった大塚製薬ポカリスエットの広告でもクリエイティブ・ディレクターとコピーライターを兼任しています。
「言葉」を使ったクリエイティブ・ディレクションとはどんな手法なのか。その「ワザ」について、語り合いました。
ゴール設定は、「ストーリー」で語る
眞鍋 今回は、磯島さんに「言葉」を軸にしたクリエイティブ・ディレクションについてうかがいたいです。

まず前提として、磯島さんが考える、クリエイティブ・ディレクターの一番大切な役割をお聞かせください。
磯島 「このプロジェクトをやり遂げたら、こういう景色が生まれる」という未来を描き、仕事の最終的なゴールを決める人だと思っています。
眞鍋 ゴールを提示する時、コピーライターならではの「ワザ」があるのでしょうか。
磯島 僕はゴールまでの道筋を、なるべく「ストーリー」で語るようにしています。クライアントさんには「この仕事がうまくいくと、この商品はこうなり、世の中はこうなり、御社はこうなります」というストーリーを。
メンバーにはさらにその先の「結果、僕らはこうなる」というストーリーも含めて。
自分の中でゴールまでの一番美しいストーリーを作り、それを分かりやすい言葉に落とし込んで伝えるとき、コピーライターであることが生きているのでは、と感じます。
眞鍋 メンバーも「このチームで頑張ればこんないいことがある」と未来を感じられると、前向きに仕事に取り組めますよね。
磯島 尊敬するクリエイティブ・ディレクターの先輩方は、このゴールまでのストーリーテリングが面白かったです。
例えば、佐々木宏さん。KDDIの案件でご一緒した時に、業界2番手のKDDIが「NTTに勝つ」というゴールだけではなく「2番が1番に挑む姿ってかっこいいから、応援したいよね」という話から始まりました。
そして「2番を応援することで、2番が活性化することで、世の中にどれだけいい影響を与えていくか」というストーリーを話してくれました。
クリエイティブ・ディレクターが最初にどんなストーリーを語るかで、メンバーが作る最終的なアウトプットも変わってくると思います。
世の中の価値観にあわせて届ける
眞鍋 では、企業から依頼内容を説明していただくオリエンの際に意識されていることはありますか?
磯島 まずは、その仕事に対して一番熱心な人がどんな「欲望」を持っているのか聞き出すようにしています。
例えば「売り上げ35%UP」という課題があったとしても、それが単に「売り上げを上げたい」なのか「この業界でナンバーワンになりたい」なのか、その「欲望」の違いによって、僕らがやるべきことも変わってくると思います。
眞鍋 おっしゃる通りだと思います。
磯島 ただ、現代は誰もがSNSを使い、新型コロナが蔓延し、価値観がどんどん変わる時代です。だからクライアントさんの「欲望」だけに目を向けていたら、ゴールまでのストーリー設定を間違えてしまうリスクがあります。
誤った価値観で広告を作ると、逆に企業や商品が嫌われてしまうことも少なくありません。だから、現代のクリエイティブ・ディレクターは世の中の価値観を正しく把握する必要が強くなっていますね。
眞鍋 そのために何をするべきでしょうか?
磯島 厳しい意見も含め、世の中にあるいろいろな立場や考えに、多く触れておくことが大事だと思います。
例えば、「ジェンダー」というテーマを扱うとき、男性からしたら「聞くのが辛い」事実も多いかもしれませんが、真摯に受け止め、理解しなければなりません。
『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2020年公開)という映画は、男性社会で虐げられる女性が友人の復讐をしていく物語で、過ちを一切許さない態度を観客に突きつけてゆくのですが、それがアカデミー賞脚本賞を受賞しています。
これは本当に勉強になりました。厳しさを体感できました。こういう学びの積み重ねが、クリエイティブ・ディレクターとしてのアウトプットに表れ、社会との正しい距離をつくってゆけると思います。
眞鍋 なるほど。ちなみに、クライアントに企画を伝えるプレゼンの際の「ワザ」はありますか?
磯島 プレゼンは、極論すると「御社のここが良いと思いました。ここを伸ばしましょう」というポジティブな示し方か「御社のここがダメだと思いました、こうすれば解決しますよ」というネガティブな示し方の2種類しかないと考えています。「欲望」の種類によってどちらのパターンが適切かを考えるようにしています。
基本的にはポジティブなパターンの方が、目の前の課題を解決するだけではなく、企業の中長期的な事業に膨らむ可能性が高くなるので、オススメですね。
「軸足」に責任を持つ
眞鍋 最近は、クリエイティブ・ディレクターという肩書きが広告業界以外にも広がっています。磯島さんはこの現状をどう捉えていますか?
磯島 もちろん良いことだと思います。クリエイティブ・ディレクションという考え方・技術で、改善できるものはいろいろあると思うので。そして広がっている分だけ、自分の軸足が大事だろうなと思います。
アウトプットに責任を持つのがクリエイティブ・ディレクターの仕事のひとつだと考えると、軸足はとても大事なので。
アウトプットまで見ることなく、ストーリーを上手に語っているだけだと、クリエイティブ・ディレクターがスーパーバイザーになってしまう落とし穴があって。
僕の場合は「言葉」が軸足なので、クライアントからは「意味」「メッセージ」がはっきりしたクリエイティブを期待されているし、自分でもそこを意識します。
眞鍋さんは「デジタル」が軸足ですよね。電通の中で初めて、マス広告も含めたキャンペーンのツールとしてのデジタルを見いだし、どう使っていくべきかを話せる人でした。
眞鍋 ありがとうございます。アウトプットで力を示せる部分がないと、スタッフからもリスペクトされなくなって、チームがうまくいかなくなる弊害もでてきますよね。
磯島さんから見て、自分の軸足に責任を持っている広告業界以外のクリエイティブ・ディレクターってどなたが浮かびますか?
磯島 新しい人ではないですが、やはり、トム・フォードですね。1994年にグッチのクリエイティブ・ディレクターに就任した彼は「美意識」としか呼べないものを軸足に、服、店舗、広告、世の中での在り方までブランドを取り巻くすべてを整理しました。
その結果、グッチが向かう方向性を示した。いまだに彼はクリエイティブ・ディレクターの元祖であり、アイコン的存在だと思います。
眞鍋 ありがとうございます。後半では、クリエイティブ・ディレクションにも役立つコピーライティングの手法にフォーカスしてお話をうかがいます。