
【古川裕也③】これから活躍できるクリエイティブ・ディレクター
構成/黄 孟志、菱山恵巳子 撮影/林 直幸
突き抜けたクリエイティブ・ディレクター
眞鍋 僕がクリエイティブ・ディレクターになった2014年頃は、マス広告とデジタル広告の両方の知識を持つタイプは珍しくて、僕は「次世代ハイブリッド型」などと取り上げていただくこともありました。

でも、今ではそれが当たり前。今後もクリエイティブ・ディレクターが扱うべき領域は拡張していくと思われますか?
クリエイティブ・ディレクターは増えるべきだと思う一方、インフレを起こしてしまい、将来的に「クリエイティブ・ディレクター」という肩書きの価値が下がってしまうのはどうかなとも思います。
古川 領域が拡張して、クリエイティブ・ディレクションという技術によってできることがもっと広く認識されれば、むしろ価値が上がって、仕事が増えることになるでしょう。
クリエイティブ・ディレクターの数が増えても、その中で優秀な人の割合は限られています。どの職種でも同じだと思いますが。
クリエイティブ・ディレクターというのは、とくに最近、ニセモノの多い肩書きですよね。拡張しつつ変容しつつ淘汰されていくんじゃないでしょうか。
パーパスを確定するときのポイント
眞鍋 今後、価値の高い仕事に取り組めるクリエイティブ・ディレクターになるための方法もお聞きしたいです。
僕が思う最近の懸念点は、多くの企業が「パーパス」(=存在意義)を考え直す時代だからこそ、どの企業も似たようなメッセージを掲げてしまいがちなところ。
もはや「パーパス」というもの自体がレッドオーシャンになっているといいますか…。その中で差別化をはかるために、クリエイティブ・ディレクターが押さえるべきポイントはありますか?
古川 10社くらいの企業の方たちと存在意義を考えるワークショップに参加したことがあるんですが、ともすると、現状のレジュメにとどまっていたり、逆にサイズ感が大きすぎてなぜ御社がというリアリティーがなかったりケースが多くありました。
「この会社だからこそこのテーマにこのように取り組んでいる」という企業の独自価値まで到達してないと意味がありません。
本業との連結がうまく機能しているのが、例えばVOLVOだと思います。彼らのパーパスは、「地球から交通事故による死者をゼロにする」、そのための手段としてVOLVOが造る頑丈なクルマがあり、安全のためのプロジェクトを30年くらい続けているという構造です。
最近では、今まで男性ドライバー前提で行ってきた衝突実験を女性ドライバー前提に行ったデータを世界に公開するプロジェクトがありました。
このケースのように、「存在意義×本業×社会課題解決のアクション」が連結、継続して大きなかたまりになっていることが重要だと思います。
存在意義は、実はそれだけでは機能は限定的で、アクティベーションがカタチになって初めて意味を持つと思います。
パーパスの議論で見落とされがちなのは、それ自体が「ぐっとくる」ということだと思います。パーパスもある意味ブランディングです。
要は、他社にはないチャーミングなものかどうか、そのブランドを愛さずにはいられなくなるものかどうか、一生つきあうに値する企業と思えるかどうかが最重要なんです。
正しさだけでなく、社内社外両方が一瞬でぐっとくるもの、参加したくなるものじゃないと機能しません。Think Differentなどが期待値を上げるいい例ですね。
そう考えると、パーパスを確定する仕事も極めてクリエイティブなことだと思います。
眞鍋 社会的に善さそうな言葉を宣言するだけであれば誰でもできてしまうので、これからは、具体的に人々のソーシャルアクションに結びつけることが必要になりますよね。
あらゆるアウトプットを使いこなすためには
眞鍋 もうひとつ最近の課題として感じているのが、アウトプットの選択肢が広がっている分、クリエイティブ・ディレクターは、クオリティ管理の難易度が上がっているのではないかということです。CMのクオリティ管理だけできれば良い時代ではないわけで。
古川 選択肢の広がりは、使える能力が多様化したということなので、クリエイティブ・ディレクターにとっては喜ばしいことです。
その種目ができることは何か、コア・アイデアとゴールイメージに照らしてどう活用できるかを掴んでおけばよくて、アウトプットのクオリティの判断も、全体の中で機能しているかどうかという視点さえあればそんなに難しくないと思います。
9割の「ロジック」と1割の「マジック」
眞鍋 最後に、「ロジックとマジック」という考えについてです。クリエイティブには戦略や方法論=「ロジック」だけでなく、そこから飛躍するアイデア=「マジック」が必要だといわれています。
古川 ロジカルな仕事には、「正解」はないけれど「ほぼ正解」はあります。
けれど「マジック」とおっしゃった機能は原理がまったく違います。オーディエンスがアタマを使う前に、リクツ抜きに魅了される。
気が付いたら好きになっていた。それがないとクリエイティブが存在する意味がありません。「マジック」がみんなから評価される確率を高めるために「ロジック」があるという関係になります。
眞鍋 マジックを起こすためにクリエイティブ・ディレクターができることは?
古川 何をどう考えるかをチームメンバーに指し示すことです。考えるべき範囲を極限まで狭くして、意味のあることだけを悩んでいる状態をつくる。
さらには、「おおよそこんな最終形になるはず」と伝えることです。
例えばポカリスエットのブランド価値設定は、熱中症や風邪に効く商品ではなく、高校生たちの生命力をエンカレッジして人生の可能性を引き出すブランドに昇華することでした。
彼ら彼女らとのエンゲイジメントを構築するために最適のアイデアを考えるというふうに考える場所を狭めることがクリエイティブ・ディレクターの仕事です。
ロジックで考えた先に、初めて適切なマジックが生まれるという原理ですが、実は、最初の仮説は直感なんです。
おおよそこの辺が正解ゾーンで、こういうことができたらまだ誰もやってないはずなんだけどな、くらいの感じです。
なので、ロジックとマジックは常にくっついてるものだと思います。
眞鍋 ありがとうございました。これからクリエイティブ・ディレクションを身に付けたいすべての業種の方にとって指針となるお話となりました。
今後も本連載では、さまざまなジャンルのクリエイティブ・ディレクターが登場します。
次回は、ポカリスエットの広告でもご一緒したコピーライターの磯島拓矢さん。言葉を軸足にしたクリエイティブ・ディレクターの「ワザ」を深掘りします。