
【古川裕也②】クリエイティブ・ディレクターはチームリーダーである
構成/黄 孟志、菱山恵巳子 撮影/林 直幸
クリエイティブ・ディレクターとは
眞鍋 今回は、あらゆる仕事に応用できるクリエイティブ・ディレクションの方法論についておうかがいしたいです。クリエイティブ・ディレクターとは、一言で表すと、どんな役割の人なのでしょうか。

古川 「思ってもみなかったところにみんなを連れていく人」という定義になると思います。予想を裏切り期待に応える人ですね。うんとひらたく言うと、チームリーダーとほぼ同義だと思います。
眞鍋 では、クリエイティブ・ディレクターとしてチームを牽引するときに、リーダーとして大切なことは何でしょうか?
古川 チームメンバーに、ベストな悩み方を示すことだと思います。クリエイティブに限らず仕事がうまくいかない原因の200%がこれです。悩む場所、考える考え方を間違えている。
あと、一言で言うと今回何をやるのかを規定することが一番重要な仕事です。
例えば、JR九州の「祝!九州新幹線全線開業」のキャンペーン。これは一言で言うと、「九州の人たちが祭りをつくる」ということになります。祭りなので当然参加型になります。


これによってメンバーが考えるべきことは必然的に限定されます。
リーダーといっても、チーム内をうまくまとめる的なことが第一義とは考えない方がいいと思います。
クリエイティブ・ディレクションが適切に為されていれば、それは必然的にできていくものです。
企画を考える前の大切な時間
眞鍋 それでは、ひとつひとつの技術について詳しく紐解きます。「ミッションの発見」のために古川さんがオリエンテーションで担当者にまず聞くようにしていることはありますか?
古川 この段階では主役はまだクライアントです。なぜなら、その時発見されるべきミッションは、100%、ブランドの中に潜んでいるからです。それを定義化・言語化する感じです。
オリエンというカチッとした場ではほとんど何も出てこなくて、一緒にご飯を食べたりとかの雑談から刺激されることが多いです。
いつも申し上げるのは、「失礼ながらあなたたちは誰なんですか」と、「欲望を包み隠さずぜんぶおっしゃってください」ということです。
前者は1話目でも触れた存在意義の確定のため、後者は目の前のこの仕事のミッションのためです。
よく聞かれる質問に「クライアントの仕事って何だと思いますか?」というのがあります。
初対面のクライアントの方から、カンヌとかセミナーなどで偶然お会いして飲んだりしてると、ほぼ必ず聞かれることです。
僕の答えは簡単で、「強く正確に欲望することです」とお答えすることにしています。
ブランド・コミュニケーションの仕事は、すべてブランドの欲望から始まります。
ブランド自身が本質的に欲望してることでないと、あまりうまくいきません。ほんとのほんとに望んでることですよね。ちなみに欲望が強く深いほどいい結果が出る傾向があります。
企業やブランドの「たどり着きたい場所」「なりたい姿」が欲望です。これがすべての出発点になります。
ただ、そのままではまだアイデアを考えるステータスになっていないので、具体的に今回はここまでたどり着きましょうというふうに具体化する。これがミッションです。
その時、欲望されていることを存在意義レベルまで引っ張りあげるのが、クリエイティブ・ディレクターの初期の仕事になります。
眞鍋 その後、「コア・アイデア」を生み出すために、普段から行っていることはありますか?
古川 ここからアイデアの段階に入っていきますが、コア・アイデアは、「おおよそこういうことをやるからさ」くらい大ざっぱなごろっとしたものです。
世の中に出ていくアウトプット・アイデアの少し手前ですね。これを決めることと、チームメンバーと共有することがクリエイティブ・ディレクターの重要な仕事です。
残念ながら、アイデアは何もないところから降ってくるわけではありません。アイデアはすべて、自分の中のアーカイブから生まれます。
脳の中のニューロンAとニューロンBとが突然結合することによって、今までなかったアイデアが出現します。ニューロンの多くは無意識層にあります。
なので、なぜそのアイデアが自分の中に立ち現れたのか分からないんです。
眞鍋 だからいつもいいアイデアを考える人は、例外なくアーカイブがリッチなんですね。スティーブ・ジョブズは「無関係の点と点がくっついて新しい線ができる」というふうにアイデアの生成を説明しました。
古川 まったく同意ですが、そのためには、自分の中で点がリッチに存在してることが大事だと思います。
「ゴールイメージの共有」が大切
眞鍋 そして「ゴールイメージの設定」に関して。メンバーにゴールイメージを正確に伝えることが意外に難しいとも思っています。
古川さんの下で働いた時、ゴールイメージがとても分かりやすいと感じました。
リファレンス(参照事例)で、結果として生まれる反響の大きさも含めて示してくれるので、「このプロジェクトはこの高さの山を登れる仕事なんだ」というのが明確に理解できました。
到達すべき高さを示されると、モチベーションのギアの入れ方が変わることがありますよね。
古川 ゴールイメージとは、世の中と接触した時に消費者にどう感じてもらうかなのですが、これは抽象的だとだめなんです。
アウトプットに遭遇した人がどういう気持ちになって、どう動くかはかなり生々しく想定しておくべきです。
そのためにリファレンスは有効だと思います。過去の世界遺産を共有しながら考えることになるので。
九州新幹線の時は、I ♡ NYキャンペーンをリファレンスしました。あれを九州でやればいいとまず思いついたので。

ゴールイメージのもうひとつ重要な役割はおっしゃったように、チームメンバーのモチベーションを上げることです。
これはクリエイティブ・ディレクションのプロセス全体に言えることですが、「ここへ向かっていくと今まで行ったことのないところに行けるかもしれない」とチームに思わせることです。
重要なのはちょっとだけ無理っぽいことだと思います。想像の範囲を少しだけ超えるゴールを与えられたとき、ヒトは一番気持ちが上がって、能力が解放されるんじゃないでしょうか。
眞鍋 クリエイティブ・ディレクターが具体的にゴールのイメージを示せると、それが「アウトプットのクオリティ管理」につながるのですね。
古川 なんのかんの言ってもクリエイティブの仕事は、最後のアウトプットがだめだとぜんぶだめ。何の意味もなくなってしまいます。
関係者みんな落ち込むし。迷惑かけるし。クオリティを高くするためには、途中、為すべき無数の判断が横たわっています。
そこで大きく勝ち越すのもクリエイティブ・ディレクターの役割です。それを間違えると、メンバーの人生の時間を無駄にさせてしまうことになります。
眞鍋 リーダーとして、とても大きな責任がありますよね。チームのメンバーが、大事な人生の時間を使ってもいいと思える、やりがいをつくるディレクションを心掛けたいです。
これはどんな業界でも、チームマネジメントに携わる方々の参考になりそうです。