
2022/03/01
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最初のお相手は、眞鍋氏が尊敬するクリエイティブ・ディレクター古川裕也氏。
眞鍋氏がクリエイター・オブ・ザ・イヤーを受賞するきっかけとなった大塚製薬ポカリスエットの広告では、エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターを務めています。

古川氏がクリエイティブ・ディレクターの仕事を定義した著書『すべての仕事はクリエイティブディレクションである。』の出版から約6年、いまの世の中とクリエイティブ・ディレクターの関係について語り合いました。
眞鍋 僕は2014年にクリエイティブ・ディレクターになったのですが、当時は専門の研修を受けたわけでもなく、そもそも自分の中で「クリエイティブ・ディレクターとは何か」「クリエイティブ・ディレクションとは何ができる技術なのか」についての定義が曖昧でした。
そんな中で古川さんが2015年に書かれた『すべての仕事はクリエイティブディレクションである。』に出合い、それ以来バイブルのように原点に立ち返りたいときに読み返しています。
古川 ありがとうございます。うれしいです。
眞鍋 本書では、クリエイティブ・ディレクターがすべきことは「ミッションの発見」「コア・アイデアの確定」「ゴールイメージの設定」「アウトプットのクオリティ管理」だとされています。

今日までの約6年間で、クリエイティブ・ディレクターがすべき仕事で変化した点はありますか?
古川 4つの仕事は普遍的なこととして、基本的には変わりません。ただ、「アウトプット」が多様化しているのと「ミッションの発見」の重要度が増大している、とは感じます。
クリエイティブ・ディレクターの需要が前倒しになっているということですね。
眞鍋 では、まずは「ミッションの発見」の需要のお話から。
最近は広告の仕事でも「ブランドの存在意義から考えたい」という、中長期的な課題を抱えた企業が増えていますよね。
古川 そうですね。AIの台頭と新型コロナウイルスの蔓延によって、全人類が「どう生きていくのがいいんだろう」、つまりLifeそのものを再構築するというお題に向き合わざるを得なくなっています。
これはテクノロジカルというより、リベラルアーツ的な変化ですね。
その中で、企業は世の中から「本当に必要なのか」を問われていて、自らの存在理由を証明することが歴史から与えられた宿題になっています。それは100年以上続くトラディショナルな企業もスタートアップも同じだと思います。
眞鍋 古川さんはすでに6年前の著書に「ミッションは、パーパス(存在意義)から考えよう」と書かれていて、先取りしていたのだなと改めて思いました。
古川 広告に限らずクライアント・ワークというのは本来そういうもので、存在意義、哲学と言ってもいいと思いますが、それをまずクライアントと共有しないと、本質的な仕事はできないはずなんです。
企業活動というのは、要は、社会に新しい価値を備え付けることなので、何に価値があって何に価値がないかを共有しないとうまく機能できません。
クライアントと一緒に世界に立ち向かう的な態度が、これからますます重要になると思います。
眞鍋 だからこそ経営者と並走してパーパスを考えることができるクリエイティブ・ディレクターが必要ですよね。

古川 はい。今はみんな同じように正しい未来観を持っているので、魅力的で説得力のあるパーパスを確定するのは逆に難しくなってきています。
存在意義の確定は経営マターでありながら、クリエイティブ能力が必要な仕事なんです。なぜなら、存在意義には正しさと同時に人々をワクワクさせる力が不可欠だからです。
その企業から未来を感じさせる力というか。とにかく好きになってしまう力とか。コンサルやマーケッターよりクリエイティブ・ディレクターこそが関与すべき理由は、そこにあります。
眞鍋 次に、「アウトプット」のお話ですが、近年は広告以外の手法をアウトプットの手段として使いこなすクリエイティブ・ディレクターが増えているように感じます。
古川 そうですね。今の時代、アウトプットのジャンルはもはや無数ですし、広告以外が持ち技の優秀なクリエイティブ・ディレクターがどんどん出現していると思います。
さきほどの存在意義の確定が左脳仕事だとすると、アウトプットのクオリティこそが、クリエイティブ・ディレクター固有の右脳仕事で、要は、これがあるから、クライアントワーク全体に貢献できることになります。
眞鍋 古川さんが広告業界以外で注目されているクリエイティブ・ディレクターはいらっしゃいますか?
古川 亡くなってしまいましたが、中村勘三郎さん(18代目)はクリエイティブ・ディレクターだと思います。本気で歌舞伎界というか演劇界を変えようとしましたからね。
ニューヨークで『平成中村座』を上演したり、野田秀樹さんと『表に出ろいっ!』のような新作を創ったり、舞台芸術の新しい可能性を広げました。
彼には、「これまだ誰もやってないですよ」と言われると簡単に説得されたというエピソードがあります。
クリエイティブ・ディレクターの一番本質的な能力、というか体質がよく分かりますね。本能的にとてもクリエイティブな人だったんだと思います。
眞鍋 なるほど、面白いです。これからの歌舞伎がどうあるべきかを定義して、新しいアクションを起こされていたのかもしれませんよね。
古川 もうひとりは、デヴィッド・バーンですかね。1977年にトーキング・ヘッズでアルバム・デビュー。だいぶ中略で、コロナ禍で映画『アメリカン・ユートピア』が公開されました。
いわゆるパンクからスタートして、さまざまに変容していく作品史が素晴らしい。どの仕事にも新しいディレクションが存在している。
クリエイティブ・ディレクションにとって最重要な要素のひとつが「毎回少しでも新しさがある」ことだとよく分かります。
どの業界も「新しく明解な方向性」を求めている時代だからこそ、クリエイティブ・ディレクターが必要とされているのだと思います。
眞鍋 広告以外でも、あらゆる業界にクリエイティブ・ディレクションの力が必要になってきているのかもしれませんね。
では、次回はさまざまな仕事に応用できるクリエイティブ・ディレクションの「ワザ」について改めておうかがいします。