
【眞鍋亮平②】「クリエイティブ・ディレクション」という技術(後編)
構成/黄 孟志、菱山恵巳子 撮影/林 直幸
定義は100年後も変わらない
さて、前回「クリエイティブ・ディレクションの技術は広告業界以外にも応用できる」とお伝えしました。ここで改めて、クリエイティブ・ディレクションの定義をしていきます。

クリエイティブ・ディレクターがすべきことは4つ。
「ミッションの発見」「コア・アイデアの確定」「ゴールイメージの設定」「アウトプットのクオリティ管理」。これらを総合してクリエイティブ・ディレクションと呼びます。
この定義、実は尊敬するクリエイティブ・ディレクター、古川裕也さんの著書『すべての仕事はクリエイティブディレクションである。』に書かれている内容。
6年前に書かれた書籍で、その後急速に時代が変化しましたが、クリエイティブ・ディレクターの役割は今もまったく変わりません。おそらく、100年後も揺るがないと僕は考えています。
企業が存在意義を考える時代
一方、定義は変わらずとも、その活用領域は確実に広がってきており、いまや、事業全体に関わる「経営」に近いポジションで必要とされることも多くなっていると感じます。

それはなぜか。「VUCA」(未来の予測が困難な状態)の時代とも呼ばれる今、企業が残り続けるためには、商品をつくり届けるだけでなく、企業のそもそもの存在意義 =「自分たちは世の中に何をするためにいるのか」が重要になっています。
つまり、現在の企業は「How to Say=どう伝えるか」よりも前に、「What to Say=何を伝えるか」、さらには「Who am I=私は誰なのか」を改めて定義し、世の中に示さなければならない局面に立たされているのです。
現代の企業が抱えるこの課題を解決するとき、「誰が、何を、どう伝えるべきか」を根底から問い、経営者と併走できるクリエイティブ・ディレクター、いや、クリエイティブ・ディレクションというワザを持つビジネスパーソンが、重宝されることになります。
さまざまな領域からなれる時代
時代の変化とともに、クリエイティブ・ディレクターになるルートも増えています。
これまでは、主に「コピーライター」「アートディレクター」「映像プランナー」のいずれかから、クリエイティブ・ディレクターになることが一般的でした。
「アートディレクター」としての力を軸にクリエイティブ・ディレクションをしている代表例といえば、佐藤可士和さん。ユニクロ、ツタヤTカード、セブン‐イレブン、楽天など、デザインを通して企業の価値を世の中に伝え続けています。
一方、「コピーライター」としての力を軸にしているのは、元博報堂コピーライターでPOOL inc.代表の小西利行さん。「伊右衛門」「ザ・プレミアム・モルツ」などのネーミングを行ったことでも知られますが、現在はレストランのプロデュースなども手掛けています。
しかし最近では、戦略プランニング、PR、デジタルテクノロジー、データサイエンス、プロモーション、コンテンツ、プロダクトデザイン、ビジネスデザインなどの領域から、自身の強みを軸足にしたクリエイティブ・ディレクターたちが多数誕生しています。
こうお伝えすると、その道のプロばかりで「結局、才能やセンスが必要なのでは?」と思うかもしれません。
しかし、クリエイティブ・ディレクターはアート作品を作る芸術家ではありません。世の中の課題に気付き、生活者に届くアイデアを生み出し、企業やブランドと生活者をつなぐことが役割。
そのため、センスよりも、大切なのは「生活者」の視点を忘れないことです。

僕は、「プロの生活者」という意識を持つことさえできれば、あらゆる業界にいる誰もが、現在持ち合わせるスキルと掛け合わせて、新しい形のクリエイティブ・ディレクターを目指すことが可能だと考えています。
属人化した謎のスキルを紐解く
誰もがクリエイティブ・ディレクターになるべき時代。
しかし、一方で、その技術は非常に属人的で、謎に包まれているのも現実です。実際、電通社内にいる僕ですら、隣のクリエイティブ・ディレクターがどのように仕事をしているか、知らなかったりします。
そこで、この連載では、多様な「軸足」を持つ人気クリエイティブ・ディレクターの面々と対談することで、それぞれの頭の中にある「クリエイティブ・ディレクション」の手法、マインドを解き明かし、体系化していきたいと考えています。
最初の対談は、尊敬するエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターの古川裕也さんから。その後も、コピーを軸足にする磯島拓矢さん、デザインを軸足にする川越和徳さん、映像を軸足にする東畑幸多さんと、広告業界を代表するクリエイティブ・ディレクターたちが登場します。
ぜひ、これからの時代に必要となる「クリエイティブ・ディレクション」というワザの秘密を、一緒にのぞいていきましょう。