
2022/02/01
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前回、お話ししたようにイスラム教は偶像崇拝禁止が徹底している宗教です。そのことを前提としたアートが生まれました。
イスラム教のアートを見ていると、「どんな宗教であっても人間はアートを欲するものである」と感じます。アートは人間の本質に根差したものであるのでしょう。
今回は、カリグラフィー(書道)、モスク、音楽、そして番外編として断食の時の食事について、あまり一般には知られていないと思われる話をします。
まずは、カリグラフィーです。イスラム圏では、アラビア語を用いて、美しい絵画のような形のアートにすることが行われています。
なぜ、そこまで書道が発達したのでしょうか。それは、偶像崇拝禁止のため、絵画や彫刻が事実上禁止されたことと関係があります。偶像崇拝が禁止されても、人間は崇高なもの、美しいものを求めます。
「コーラン」に書かれているアラビア語は、神の啓示を伝えた言葉なので、そのアラビア語を美しく装飾することは許されると考えたのです。そのためイスラム教徒の人々は、1000年以上にわたり、アラビア語を美しく表現することに尽力してきました。
日本人のアラビア語書道家・本田孝一さんがおっしゃる通り、アラビア語書道は、「文字の美しさを極限にまで追求した芸術」なのです(*1)。

世界各地にもカリグラフィーの優れたものが多く残されていますが、高度な芸術にまで発展したのは、アラビア語文化圏と漢字文化圏の特徴といってよいのではないでしょうか。
私は、イスラム教徒と食事の場などで話をする際、漢字文化圏との文化的な共通項としてカリグラフィーの話を出すことがよくあります。芸術文化の会話は、対立することがなく相手と近づくために最適です。
次に、幾何学的装飾、文字装飾、植物を用いた装飾が発展したモスクをはじめとした建築物です。
イスラム教圏を旅していると、「イスラム教的だな」と感じる建築物に出合うことがよくあります。その大半は、幾何学的装飾、文字装飾、植物を用いた装飾が施されています。
この点も、イスラム教の偶像崇拝禁止と関係があります。幾何学的模様、文字、植物のいずれも偶像崇拝とは関係がないと考えられたからです。
本来おすすめしたいのはメッカやメディナなのですが、イスラム教徒でないと街自体に入れません。また、エルサレム宮殿の岩のドームやアルアクサモスクはその前までは行けますが、やはり中にイスラム教徒以外は立ち入ることができません。

中に入ることができるモスクで有名なのはトルコのイスタンブールにあるアヤソフィアです。
もともとビザンチン帝国のギリシャ正教会の大聖堂でしたが、オスマン帝国の支配を受けてモスクに変容しました。ビザンチン建築とトルコ・イスラム文化が融合している素晴らしい建築物です。

一方で、音楽は、酒と共に人間の理性をゆがめると捉えられ、あまり発達していません。
その中で発達したのは、モスクの中での「コーラン」の読誦(どくじゅ)です。抑揚をつけた音楽のような見事な読み聞かせで信徒を魅了します。
また、1日5回のお祈りの時間を伝えるアザーンも音楽的な要素が多分に取り入れられています。読者の皆さんも、イスラム圏に旅行した際聞いたことがあるでしょう。
最後に、アートではないですが、文化という点で断食における食事についてお話しします。
「断食なんて大変ですね。ラマダンはつらいでしょう」
気を使ったつもりでこう言うのはNG。イスラム教徒は気を悪くします。
日本人は「ラマダン=断食をしなければいけないつらい時期」と修行のように捉えている人も多いと思います。
確かに1カ月間、日の出から日没まで食事も水も断つのですから、肉体的にはハードです。私もエジプトに住んでいた頃にトライしたことがありますが、飲まず食わずの日中が数日続くだけで耐えられなくなりました。日の出前に起きて食事をするので睡眠不足にもなります。
しかし、ラマダンとは、イスラム教徒にとっては素晴らしい1カ月。「ラマダンカリーム!(ハッピーラマダン!)」という挨拶があるくらいで、イスラム教徒にこの挨拶をすると、間違いなく笑顔がかえってきます。

ラマダンの時期は「イスラム暦の第9月」と定められているので毎年ずれていき、年末年始ではないのですが、雰囲気は日本の年末からお正月にどこか似ています。
コーランに書かれているのは「断食でお互いがひもじい思いをし、貧しい人のことを思いやる」といった教え。昼間はずっと我慢して、日の入りとともに家族みんなで集まって、大いにごちそうを食べて楽しく過ごします。
日本国内のモスクでも、この時期は日暮れとともに皆で集まってワイワイと食事をします。
飽食の時代と言われる現在。ラマダンの存在は、飽食をいさめるための神の教えのように思われてなりません。
【脚注】
(*1)出所:nippon.com 2013年1月18日の記事 「文字の美しさを極限まで追求した芸術です」アラビア書道家・本田孝一
(カバーデザイン:武田 雲 写真:istanbulimage/iStock)