
テスト100点にこだわると、子どもは挑戦しなくなる
構成/岩辺みどり 撮影/林 直幸
学校で学ぶ意味を知らない子どもたち
私はこれまでに200を超える学校現場に足を運んできました。その度に子どもたちには必ずインタビューをするようにしています。
投げかけるのは「さっきの授業どうだった?」「学校に行く目的は何?」といった質問です。
しかし、いまだかつて「学校に行く目的」を明確に答えられた生徒は一人もいません。授業の目的や学んでいる内容が実社会で何につながっていくのかを答えられた生徒も一人もいません。

もちろん、「友だちに会うため」「いい大学にいくため」といった表面的な回答は返ってきます。しかし、ここで私が求めている回答とはレイヤーが違います。
自分のビジョンやキャリア、自分の強みや個性に目を向けて、学びを通して成長させていくような感覚を語る生徒が一人もいなかったのです。口に出さずともそう考えていた生徒はいたかもしれませんが、実際に回答した生徒はいませんでした。つまりは、自分の思いをうまく言語化できていないのです。
これを大人にたとえると、ビジョンのない会社に毎日通い、アジェンダがない会議に一日中参加しているだけの状態です。勤務時間が終わったときに「今日の会議のアウトプット何だった?」と聞かれたら、「ちょっと、分からないです」となってしまうのと同じです。
未だに受験戦士を育てる日本
問題の本質は何かというと、子どもが学校でビジョンを考える機会がないのです。いまだに工業化教育の名残が強く残った、高偏差値大学、有名企業に合格するための受験勉強ウォーリアーたちを育てています。
「あなた本当は何をやりたいの」「あなたは一体何者なの」とリフレクションする機会もないまま、受験、受験、受験、受験に追われていきます。そのうち、文系と理系に分けられ、文系ならこういう学部、理系ならこういう学部、と与えられた選択肢から大学に入っていく。
文系であれば法学部・商学部・経済学部など複数の学部に出願することだってあります。
そうして大学に受かったとしても、何がやりたいのか全く分からず、志もないまま4年間の大学生活をモラトリアムとして過ごします。法律に興味がないのに法学部に進学している学生や、ビジネスをやりたいわけではないのに経営学部で勉強している学生が多いのです。
就職活動では、自分が何者かも分からないのに、企業リサーチをして何となく就職先を決める。すると、エネルギーを出しきれず、20代中盤から後半にはやる気を失い、愚痴を言いながら転職を考え始めるのです。
自分を知っているとはどんな状態か――それは、自分の好きなことが語れるということです。何かに興味を持ち、それを探究し、仮説を立て、行動を起こせる。自分が変えたい社会、かなえたい世界の像のために動き出せるということです。
子どもの得意を言えますか
では、これは子どものせいなのでしょうか?
大人自身も自らのビジョンや好きなことを語れませんし、子どもの“好き”を把握していません。
親向けのセミナーで「お子さんの得意、不得意を教えて下さい」と聞いてみると、みなさん教科での得意、不得意しか答えません。「得意は体育で、苦手は算数ですかね」とか、「いや、あんまり得意な科目はないですね」といった回答です。
教員向け研修でも「今日一日、1つの授業の中で何回子どものことを褒めましたか?」と聞くと、たいていゼロです。
親も同じです。「あれしなさい」「これしなさい」と怒る、注意する、叱る、の繰り返しです。何かができていない、ということは正解にきちんと沿っていないということです。結局は、大人たちが子どもを“正解主義”に導いているのです。
今、日本の子どもたちに欠けているのは「成長マインドセット(Growth Mindset)」です。
成長マインドセットとは「自分の能力は努力によって成長する」という考え方です。その反対に「自分の能力は先天的に決まっていて、努力しても変わらない」というのが「固定マインドセット(Fixed Mindset)」です。
正解主義で、子ども自身に考える機会を与えない日本の現状は、スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック先生がまさしく言うところの「成長マインドセットが育たない指導」そのものです。これが家庭でも学校でも蔓延しています。
固定マインドセットが育つ失敗例
100点取ったら「100点すごいね!」と褒める。これは、アウトです。固定マインドセットを育てる典型的なやり方です。
人は褒められると脳内にドーパミンが出ます。ドーパミンは気持ちよくなり、中毒性が高い。だから、もっと褒められたくて100点をもっと取りたいと思うようになります。
それは、一見良さそうに聞こえるかもしれません。しかし、人は100点にこだわると、100点を取れることばかりを続けて、新しいことにチャレンジしなくなります。新しい不慣れなことでは、まず100点は取れませんから。
そうして、固定マインドセットにとらわれた子どもたちは、チャレンジが怖くなってしまう。さらには、100点を取るために、カンニングを始める生徒も出てきます。
そして、自分より弱い人やできない人にベクトルが行って、マウンティングしたがるようになります。自分よりできない人を見つけて優越感で気持ちよくなる形でドーパミンを出し続けてしまうのです。
マインドセットは、その人が受けてきた教育、経験、先入観などから形成され、その人の物事の見方や判断基準となっていきます。
では、固定マインドセットを持たせず、成長マインドセットを植え付けていくにはどうしたらいいのでしょうか。次回は、成長マインドセットの育て方について紹介します。