
親が変わることから、すべては始まる
構成/岩辺みどり 撮影/林 直幸
「東大や開成が一番」という価値観のリセット
どうして私たち親世代は、2つの波の到来に気づきながらも、子どもたちが現在の教育システムから飛び出すことを躊躇してしまうのでしょうか。
その理由は単純です。
親自身が、現状の教育システムに縛られているからです。自分自身が受けた教育スタイルに縛られてしまっているからです。
子どもの教育のために、何よりも大事なのは「親力」です。親がいかに子どもを観察し、子どもに関わり、子どもをガイドできるのか。そこに子どもの未来はかかっています。
そのためにも親はまず、自身が受けた教育により築かれた価値観や先入観をゼロリセットしなければなりません。
人は、教育を語るときに自分の経験をベースに語ります。自分が成功したパターンを、アドバイスとして与えていくわけです。しかし、それは20年前に受けていた教育の成功パターンにすぎません。それを子どもに当てはめると、時代錯誤なアドバイスになりかねません。
そのことは、親自身も日々の仕事を通じて、うっすら気づいているはずです。
仕事では、与えられた仕事を淡々と行うだけの単純作業ばかりではありません。リーダーとして意思決定したり、人を説得するためにプレゼンしたり、マネージャーとしてチームをまとめたり、高度な能力が求められます。ペーパーテストだけでは高められない力ばかりです。
それなのに、「有名私立中高や東大に入りさえすれば、いいキャリアを歩める」と思い込んでいる人があまりに多い。「開成や東大こそ一番」という価値観のままなのです。

VUCAの時代には、正解が誰にも分からないので、一番リスクが低そうな“既存の正解”に飛びつきたくなる気持ちは分かります。
しかし、「この学校に入れば正解」という単純な話ではなく、日本の教育を受けて成功してきた人にもいろんなファクターがあるはずです。だからこそ、「学校の何が良かったのか」をしっかり言語化してみてほしいのです。
たまたまいい先生に巡り合えたからかもしれませんし、勉強よりも仲間たちとバカ騒ぎをして夢を語ったことの方に価値があったのかもしれません。
「学校の授業が無駄だった」と思うのであれば、その授業の何が問題だったのかを分析し、自分が先生だったらどうアップデートできるかを考えてください。
親自身が自分の経験と思い出を批判的に振り返りながら、子どもの教育へのヒントにすべきなのです。
体育教師から始まったキャリア
私自身も、数々のピボットを経験しながら、自らの教育観をアップデートしてきました。
現在、僕が日本代表を務めるCrimson Educationは、アメリカ、イギリスを中心とした世界トップレベルの海外大学への進学をサポートするニュージーランド発祥のオンラインの海外専門進学塾です。

知識やノウハウを一方的に詰め込むのではなく、それぞれの子どもに合わせて才能や可能性を広げる指導をしています。その結果、アイビーリーグ、オックスフォード、ケンブリッジなどのトップ大学へ、日本からも多く合格させてきました。
こうして海外の大学進学を支援していますが、僕自身は日本の公立に小学校から高校まで通い、国内の大学で学んで、体育教師になりました。
体育で身体を動かしながら英語を学ぶ「スポーツ・イングリッシュ」というメソッドを開発して取り入れたり、市の教育委員会で教育政策課分析官を経験したりと、教育現場で実際に働いてきました。
現場では「教育を変革していくんだ」という熱い思いで、子どもたちと向き合っていました。しかし、自分一人で奮闘するのは限界があります。自分がいくら現場で動いても、教育のあり方が50年前と変わらないことに限界を感じたのです。

そこで「自分で学校を作りたい」と思いハーバード大への留学を決意。「体育教師がなんでハーバードに行く必要があるんだ」とあざ笑う人たちに負けずに勉強し、ハーバードの教育大学院に合格しました。そして、海外の学びと日本の学びの格段のレベル差を肌身で感じました。
海外に飛び出すことで、僕は大きくキャリアをピボットする機会を得ました。
特に大きな影響を受けたのは、Teach For Americaとの出会いです。Teach For Americaはニューヨークに本部を置く教育NPOであり、優秀な学生や社会人を貧困地域の学校に教師として2年間派遣するプログラムを運営しています。
派遣される学生は、必ずしも教師志望ではありません。しかし、ハーバードやスタンフォードなどのトップ大学の学生や大学を卒業した新卒の人材が、困難を抱える生徒たちに向き合うことで大きく変わり、生徒たちも大きく変わっていくのです。
その様を目の当たりにした僕は、Teach For Japanの立ち上げを決意し、試行錯誤の末にそれを実現しました。
その後、ダボス会議(世界経済会議)Global Shapers Community メンバーに選出されたり、大学や企業で仕事をしたりしつつ、スタンフォード大学ビジネススクールへ再び留学。2018年には、海外トップスクールへの留学支援を行うCrimson Education Japanを立ち上げました。
様々なピボットを繰り返していますが、僕の人生の目的は「子どもを導く仕事をすること」で一貫しています。子どもたちには無限の可能性があり、それを貧困や教育の質で狭めてはいけない、その道を切り開く手助けがしたいのです。
アンラーニングする勇気
僕が日本の学校現場で感じた不安と、海外へ飛び出したときの不安は、多くの親が抱いている不安と重なるところがあると思います。
クラスに大人数が詰め込まれて、暗記や板書中心の授業が行われている−−そんな教育スタイルを今こそ変えなくてはいけません。そのためにも、親こそが、過去の栄光を捨てて、学び直さなければならないのです。
ラーニングの大原則は、アンラーニング(unlearning)です。
新しい知識をどんどん吸収するのは一見良さそうですが、それが古い価値観に基づいたものであれば、大きな変化は望めません。
脳のキャパシティーは決まっているので、まずは自分の価値観やマインドセットをアンラーンして、新たな価値観や知識を収めるための余白を作る必要があります。パソコンに新しいソフトウェアを入れるときに、まずは古いソフトウェアをアンイストールするのと同じです。
日本人はアンラーンがすごく苦手だと僕は感じています。それは、同質性が非常に高く、価値観が似通っているという環境要因も影響しているでしょう。
しかしながら、今こそ大人たちがアップデートしなければ、子どもたちの世界を広げる機会を提供することはできません。
大人の役割は、知識を伝えていくことではなく、学び方を教えていくということです。そのためには、親や教師が一番の学習者であり続けなければいけません。学習者としての一歩目を踏み出すためにも、これまで積み上げてきたものを“捨てる勇気”、“アンラーニングする勇気”が必要なのです。
今回は親の価値観リセットの必要性について語りましたが、次回は「親がどんな力を磨くべきか」を説明するとともに、親力強化のための方法を紹介します。