
ビル・ゲイツも注目、続々と参入する企業
構成/田嶋嶺子 撮影/武田 雲
アメリカの代表的プレーヤーたち
環境意識が高く、ベジタリアンなどの文化が浸透している欧米では、すでに植物性代替肉が大きな市場を持ちつつある。細胞農業食品もその流れに乗って注目されており、投資家をはじめとして大きな金額が動くようになってきた。
第9話では、細胞農業のプレーヤーとなっている企業を紹介していきたい。
アメリカを拠点とするイート・ジャスト社による培養チキンが、世界で初めてシンガポールにて販売許可を得たときは驚きをもって迎えられた。ブランド名は「グッドミート」。
培養した鶏肉細胞と植物性代替肉を混ぜて成形されている。パッケージに木のお弁当箱を採用するなど、商品だけでなくパッケージにも環境への配慮を欠かさず、その一貫性が消費者の共感を誘うのか、培養チキンの売り上げは大変好調とのことだ。
シンガポール在住の知人に聞いたところ、グッドミートの培養チキンは淡泊ながら鶏肉の味をしっかりと感じさせるとの評判だ。イート・ジャスト社は日本の和牛にも関心があるようで、赤城和牛で有名な群馬県の鳥山牧場とも培養和牛作りの開発を進めている。
業界の中でも大型調達としていち早く話題になったのは、メンフィス・ミート(現アップサイド・フーズ)社だ。2020年1月に約186億円(1.61億ドル)をSoftBankグループ、ビル・ゲイツ氏らより調達した。
これに続いて、2021年は100億円超えの調達が相次いだ。
先ほど挙げたイート・ジャスト社の培養肉部門、GOOD MEATは2021年5月に約196億円(1.7億ドル)を調達し、子会社として独立した。同社は同年9月に追加で約112億円(97百万ドル)調達している。
また、同時期にシンガポールにあるマリオットホテル内の広東料理レストランが、動物性肉を同社の培養肉に置き換えることを発表し、培養肉業界の全体にとって大きなニュースとなった。
さらに、翌月にはイスラエルを拠点にしている培養肉ステーキを研究するAleph FarmsがUAEのファンドから約121億円(1.05億ドル)を調達した。イスラエルにルーツを持つ私からすると、こうして中東地域で培養フードを媒介とした経済面での結びつきができたのはとても感慨深い。
12月には、これまでで最大級となる約400億円(3.47億ドル)の調達をイスラエルのフューチャー・ミート社が実現した。この調達には、世界でも有数の穀物会社であるADM社の投資部門がメインに関わっており、米国に細胞農業食品の生産拠点を建設する計画も持ち上がっている。
このように、海外では大型の調達とともに業界全体が盛り上がってきている。また、ビル・ゲイツ氏や俳優のレオナルド・ディカプリオ氏といったビッグネームがこれらの投資に関わっていることも特徴的だ。
日本ではセレブリティによる社会課題へのコミットや企業への参画はまだまだ珍しいが、培養肉の分野に、有名人やアーティストも関わってほしい。
日本では大企業も多数参画
日本でも、細胞農業のスタートアップが生まれていることに加えて、大企業の挑戦も目立つ。
ざっと挙げるだけでも、ダイバースファーム社、インテグリカルチャー社、日清食品グループ、日揮ホールディングス、三菱商事、住友商事、日本ハム、オイシックス・ラ・大地、ネクストミーツなど多数だ。企業同士の連携も始まっている。
培養フォアグラなどの開発に成功している東京のスタートアップ、「インテグリカルチャー社」は2021年6月、細胞農業のオープンイノベーションプラットフォームを設立した。
この「CulNetコンソーシアム」には、細胞農業の事業会社だけでなくさまざまな分野の企業が参加している。
参加企業の中で、私たちにとってなじみが深いのは、食品会社のハウス食品。
荏原製作所や浜野製作所といった産業機器・部品系の企業も注目だ。これから販売承認に向けて細胞農業食品市場全体が発展していく中で、必要になるのが工場をはじめとした生産拠点の整備なのは間違いない。産業機器・部品系の企業との協力は不可欠だろう。
研究開発のみならず、実際の生産に向けて業界が動き出していることの証左でもある。これは海外の動きとも一致している。
また、このコンソーシアムには日産化学など化学品系の企業も参加している。細胞が増えやすい培養液の開発・生産には化学分野の知見や材料が必要となるため、この分野でも協業が必要だ。