
培養肉の作られ方
構成/田嶋嶺子 撮影/武田 雲
体内で肉が作られる過程を再現
「培養肉」と聞くと、過度に人工的なイメージを持つ方が多いのではないかと心配している。SFに出てくるような言葉で、何だかややっこしくて、近寄りにくいという印象もあるだろう。
しかし、培養肉を作る仕組みはさほど複雑ではない。
動物が体内で肉を作る過程を再現している、といえばわかりやすいだろうか。
具体的なプロセスは以下の通りである。

まずは動物の個体から細胞を採取し、それを培養液とともにヨーグルト製造機のような装置に入れ増やしていく。
培養液には筋肉の元となるアミノ酸や動物の体内にもある成長ホルモンを使って、細胞を増やしていく。既存の食品ないし食品添加物として認められている物のみの使用で生産することが可能だ。
細胞はただ培養すると、歯ごたえのある組織を形成するのではなく、培養液中に小さなシート状に広がった細胞が浮遊するスープ状態になる。一般的にはそのスープから細胞を取り出し肉の形に成形することで、培養肉ができ上がる。
成形の過程では多くの場合、培養肉の細胞と植物性代替肉などの「足場」を混ぜることで形や食感を与える。
皮革製品を培養で作る可能性
ここまで読んでお気づきの方もいるかと思うが、この技術は食用肉以外にも応用が可能だ。
例えば私が注目しているのは革製品。最近ではファッション業界でも、アニマルウェルフェアの観点からクルエルティフリーレザーの活用が進んでいるが、やはり耐久性や質感の面で従来の品質とは差があるのも事実だ。
しかし、上記のような細胞農業の技術を使うことによって、動物の命をいただかずに皮革製品を利用することができるようになるかもしれない。家具や車の内装向けなど、これまで通りの機能性を保つことが期待できる。
ちなみに、皮革製品は消費者需要の観点からハードルが低いのも可能性を感じる点である。
培養の「革」に関しては、細胞農業食品に比べてまだプロトタイプを開発する企業が少ないため、市場に出回る順番としてはおそらく細胞農業食品のほうが先だろう。
しかし、案外こういった食品以外の装飾品での応用から、細胞農業を身近に感じていただける消費者も多く出てくるのではないかと考えている。やはり食品は口に入るものであるため、新しい食品を口にするのをためらう人も多い可能性があるからだ。
実は、細胞農業の活用例は動物だけではない。
カカオなど、栽培地が限られていたり、児童労働の問題が指摘されていたり、トレーサビリティに困難があったりする食品においても、細胞農業によるプロトタイプが続々と作られている。
2021年11月に、明治ホールディングスが米国の培養カカオのスタートアップに投資して話題になったことも記憶に新しい。
児童労働やフェアトレードを身近な課題として認識している人も増えているが、細胞農業の活用が一つのソリューションになり得る。細胞でできているものであれば基本的になんでも応用が可能、というのが細胞農業の大きな魅力だ。
多数の培養肉プレーヤーを知る
培養肉の「作り方」をご紹介したところで、今後はそれを支える企業のプレーヤーについて紹介したい。
A.T.カーニーの予測によると、世界では2040年には培養肉だけで73兆円、植物性代替肉で52兆円の市場規模になる見通しだ。2025年の従来肉の市場規模が125兆円であることを考えると、いかに企業からも、期待されているかがわかると思う(1ドル=116円換算)。
私が所属している細胞農業研究会(農林水産省のフードテック官民協議会に属する細胞農業ワーキングチームを兼ねる)には、国内外合わせて80以上の団体が参画している。
培養肉や培養液の開発をしている事業会社としては、日本から以下の4社が所属している(2022年2月時点)。
・8年間連続でミシュラン星を獲得した日本料理店「雲鶴」と再生医療ベンチャー企業「ティシューバーネット株式会社」が、共同で設立したダイバースファーム社
・細胞培養技術を通じて食品・皮革の商業化を目指し、細胞農業コンソーシアムも設立したスタートアップ、インテグリカルチャー社
・「研究室からステーキ肉を作る」をテーマに、開発難易度の高いステーキ状の培養肉を研究している日清食品ホールディングス
・自社の細胞培養関連技術やプラントエンジニアリングノウハウを活かし細胞培養による食料生産技術の開発を発表した日揮ホールディングス
国内外で細胞農業に投資・連携している大手商社の三菱商事や住友商事をはじめ、鳥山牧場などの畜産農家、日産化学等の化学会社、横河電機等の産業機器メーカー、西村あさひなどの総合法律事務所、イスラエル大使館等の行政関係者など、食品業界以外の参加者も多い。
他にも海外からはアメリカ、シンガポールなどから最先端の細胞農業専業の事業会社が多数参加している。
すでに販売の認可が下りているシンガポールをはじめ、各国での法整備の進み具合を知り、日本の状況と照らし合わせるためにも情報交換は必須だ。
細胞農業とは、新しい食品が開発されるというだけで終わる話ではない。培養肉が世界に普及するにあたり、細胞農業食品の製造に適した工場の構築、培養技術の高度化、培養液の開発、おいしい味付けの探求、細胞の流通に欠かせないセルバンク事業等さまざまなプレーヤーの誕生が必要になる。
見方を変えると、それだけ産業として大きくなる可能性があるということでもある。