
2024/02/21
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――子どもの能力を伸ばす上で、急速に注目を集めているのが「自己肯定感を上げる」というアプローチです。
石田さんは2018年に『子どもの自己肯定感を高める10の魔法のことば』(集英社)という著書を出版するなど、早くからこのキーワードを発信していました。あらためて、「自己肯定感」とは?
自己肯定感を上げる、正確には自己肯定感を満たした状態を一言で表すならば、「今の自分、イケてるね」と思える状態のことです。
すなわち、「長所も短所も含めてそのまま丸ごとの自分を受容し、肯定できる状態」のことです。
ポイントは「長所も短所も含めて」という点です。人は自分の短所には気づきやすく自己嫌悪に陥りがちなのですが、長所については意外と気づかないものです。
自分にとっては当たり前にできていることが、実は他人から見ると優れた長所であることは多い。つまり、この長所に気づくきっかけを積極的に外から与えることが、自己肯定感を満たすために必要となります。
自分の長所が分かると心に余裕が生まれ、短所克服に向かう行動にもつながります。学校の一斉授業ではどうしても同級生と比べて「できない自分」に気づくきっかけが生まれやすいので、家庭やそのほかの「個別対応型の声かけができる環境」で補うことが大切です。
――自己肯定感を満たすことで、子どもにどんな変化が期待できるのでしょうか?
心理学者・マズローの欲求5段階説によると、「承認欲求」が満たされた後に向かうのは「自己実現欲求」です。

「自己肯定感」を満たそうとする気持ちを「承認欲求」に当てはめると、自己肯定感が満たされた子どもたちには「自分で目標を立ててチャレンジしよう」「なりたい自分に向かって頑張ろう」という意欲が湧きます。
逆に言うと、自己肯定感を十分に満たせていない段階で、「夢を持て」「目標に向かって頑張りなさい」と子どもにいくら言っても効かないということです。
――石田さんが「自己肯定感」に着目するに至ったきっかけはなんだったのでしょうか?
きっかけは、実際に子どもたちと関わってつかんだ気づきです。
私は35年前、20歳のときに起業して塾を開き、小中学生を対象に学習指導を始めました。
1989年の当時は「自己肯定感」という言葉すら世の中に存在していませんでしたが、塾にやってくる子どもたちの中に「自信のない子ども」が多いことが気になったんです。
なぜ自信がない子どもが多いのだろうか?と考えた結果、「誤った勉強の指導法によって、自信をへし折られてしまったのではないか」という仮説に至ったんです。

なぜなら、子どもの日常の中で学校の勉強は時間的にも心理的にも非常に多くの割合を占めるからです。成績が点数化され、ランキング化される勉強の評価は、子どもの自信を左右する主たる要因になるだろうと考えました。
塾講師である私ができることは「学習を通じて自信を取り戻させてあげること」だと思い、独自のアプローチを実践していきました。
しかしながら、一度自信を失った子どもたちは、勉強に向かう姿勢にブレーキがかかっています。「自分はできるわけがない」というブレーキです。このブレーキを外してやる気を引き出すことが、成績を一気に上げる唯一最良の手段であることが分かりました。
変わり始めると早いですよ。特徴的だったのは、学習能力の底上げ効果。私が直接教えている教科だけでなく、音楽や美術まで成績が上がるんです。「知らないことを分かるようになる楽しさ」を知り、学習に対する姿勢を習得すると、それをあらゆる教科・分野に応用できるようになるんですね。
こうした成果を目の当たりにした実感から、学習において子どもの自信を満たす重要性を確信し、2018年に『子どもの自己肯定感を高める10の魔法のことば』(集英社)を出版しました。国際調査の報告などを通じて、「自己肯定感」という言葉が聞かれるようになったのもこの頃ですね。
この本は子どもに対する声かけを切り口にした提案でしたが、非常に多くの方に読まれました。今の親世代にとって「自己肯定感」は新しい概念です。少人数制の子育て相談コミュニティー「Mama Café」の活動を通じても、子どもに対してどう関わるべきか悩んでいる親は非常に多いなと感じますね。

――学習の指導・サポートにおいては、具体的にどんなアプローチが有効なのでしょうか?
重要なのは、子どもの心を動かすこと。心が動かないと行動も起きませんから、子どもの心が前向きに動くような働きかけをするのが指導者の正しい役割です。
例えば、算数に関して小学5年生の6月に習う問題で引っかかってしまった小学6年生のA君がいたとします。このとき、A君に対してまず行うべきサポートは、小学5年生の6月部分を教えることではありません。「引っかかった問題」にもう一度取り組んでも、「小6なのに小5の問題ができない自分」に直面してへこむばかりだからです。
代わりにやるべきは、「余裕でできる問題」から取り組み直すこと。小5の4月、小4の3月までさかのぼったっていいんです。とにかく、本人が「できる!」と自信を持って解けるレベルの問題を繰り返し解いてもらって、安心してもらうことが最優先です。
「これは?」「できる!」「じゃ、これも?」「できる!」と繰り返して自己肯定感が満たされた状態になったら、次はスピードゲームです。
「今解いた問題5問、何分で解ける?」と計ってみて、「早いじゃん!」とさらに自信をつけさせるんです。その頃には完全に気持ちがポジティブに向いているので、最初につまずいた問題もクリアできる。
「できる!」から始めると、苦手科目も得意科目に変えられる。これを私は「成功のリハビリテーション」と呼んでいます。自己肯定感を満たしながら、成績も上がる。まさに一石二鳥です。
――反対に「NGワード」とは? 小学校低学年の子どもに対するアプローチの想定でお願いします。
自己肯定感を育む上で逆効果となるNGワードの4大要素が「指示・命令・脅迫・説得」です。
「指示・命令」は「勉強しなさい」といったストレートな文言だけでなく、「もうそろそろいいんじゃない?」といった優しい声かけも当てはまるので要注意です。
「脅迫」は、「ちゃんと勉強しないと受験に落ちてダメな大人になっちゃうよ」といった構文。「みんなやってるから頑張ろう」といった「説得」も、子どもには響きません。
このように説明すると、大半の親御さんは「全部、わが子のために言っているのに!」とショックを受けるのですが、私は「じゃあ、子どもが勝手に夢中になるものから学びましょうよ」と提案するんです。
親が何も言わなくても子どもがハマるもの、その代表格が「ゲーム」「クイズ」「なぞなぞ」です。子どもはみんな好きですよね。これらに共通する要素は何か、分かりますか? 三つあります。
「成長の見える化」と「ヒントの提供」「時間制限」です。つまり、この三つを勉強にも取り入れていくと学習効果はぐんと上がるんです。

――ここまでのお話と関連して、KUMONが提供する「公文式」の学習法についても、石田さんのお考えを伺っていきたいと思います。
例えば、先ほどご説明のあった「できる!」を促進する学習サポートは、一人ひとりの「ちょうどの学習」のレベルに対応したスモールステップ形式の教材を活用する公文式のアプローチとも近い印象を受けましたが、いかがでしょうか。
非常に効果的なアプローチだと思います。特に子どもの学習指導において「スモールステップを設ける」というサポートは重要ですね。
山登りもいきなり頂上を目指そうとするのは大変ですが、まずは1合目、次に2合目と、目標を小刻みに設定することで達成しやすくなりますよね。大手スイミングスクールのキッズクラスでは等級を細かく50段階くらいに分けて、最初は「顔に水をつけられる」だけで進級させるそうです。
小さな「できる!」を積み重ねた結果、いつの間にか大きな目標を達成している。そんな成長を実感できる仕組みづくりは、子どもの自己肯定感を満たしながら学力も上げるのに効果的だと思います。
年齢や学年にとらわれずに、その子のレベルに応じた教材を使うという方法も能力開発の理にかなっていますし、何より子どもが「学ぶ楽しさ」を知る時間になるでしょう。
さらに加えるなら、「できる!」を繰り返した先に必ず直面する「できない」にどう寄り添えるかは指導のポイントになると思います。
小学高学年くらいの子どもに対しては、「間違いが成長のきっかけになる」と上手に教えていく必要があります。答案に「×」がついたということは、むしろ「成長のチャンス」、自分にとっての“伸びしろ”だと受け取れるようになると、難しい問題にもチャレンジする意欲が育ちます。将来、失敗を恐れず挑戦できるマインドにもつながるはずです。
こうした本質的な「ものの見方」を教えられる指導者の存在は大事ですね。

――最近は、オンライン形式の学習ツールも普及していますが、KUMONでは、教室での学習指導も変わらず重視しています。この「対面学習の価値」についてはどう考えますか?
先ほど述べた「子どもの心を動かす」ために欠かせないのが、子どもの心の状態を観察する力です。
子どもが素直に「はい」と答えたとしても、よく表情を観察すると、本心はそうではないことに気づいたりするものです。
リアルな対面の場を提供する公文式の教室では、きっと指導者であるくもんの先生の観察の力が発揮されているのではないでしょうか。
――公文式では算数(数学)・国語・英語を中心とした基礎学力の定着に力を入れていますが、「プレゼンテーション能力」などを重視するトレンドも見られます。
今の時代における基礎学力を身につける意味について、石田さんはどう考えますか?
基礎学力はすべての学びの「土台」であり、それはどの時代も変わらないものだと私は思います。
「プレゼン力」や最近注目が集まる「思考力」を発揮する前提となるのが基礎学力で培った力です。
公文式学習法は世界中で評価され、広がっていると聞きますが、それも基礎学力の価値がグローバルで通用しているという証明でしょう。
――最後に、基礎学力の向上を通じて自己肯定感を満たす学習が人生にどう生きるのか、あらためて教えてください。
一言でお伝えすると、「できる自分を育てる」ということだと思います。日々の学習習慣を通じて「できる自分」を積み重ね、その感覚を味わっていくことが、勉強だけでなくいろいろな分野での挑戦に結びつくはずです。
私も教育に携わる者の一人として、「できる自分を育てる」ためのサポートを続けていきたいと思います。

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(カバー写真:miya227/iStock)