
なぜ日本人の英語は伝わらない?
なぜ日本人の英語は伝わらない?:相手を動かす「論理の転換」と英語の本質
長い学習時間を費やしながら、なぜ多くの日本人はグローバルビジネスの最前線で英語を機能させられないのか。
発音の美しさや語彙の豊富さを競う学習を重ねても、肝心の商談や交渉の場で「So what?(それで何が言いたいのか)」と一蹴されてしまう例は後を絶たない。
問題の本質は語学力そのものの巧拙ではなく、文脈や察する文化に依存した日本語特有の思考回路を、英語の明確な論理構造へと切り替えられていない点にある。
長年国際ビジネスの第一線で経営助言などを行ってきたショーン川上氏の知見から、拙い言葉でも人を動かす「機能する英語」への転換手法を解き明かす。

Q. 英語を長年勉強してもビジネスの現場で伝わらない最大の要因は何か?
日本人の英語が世界で通じない最大のボトルネックは、語彙力や発音の拙さではなく「論理の転換ミス」にある。
日本語は世界でも有数のハイコンテクスト文化に属し、話者同士が文脈やニュアンスを察し合うことを美徳とする。
そのため、核心的な要求をあえて直接口にせず、周囲の状況を外堀から埋めるように語る癖が無意識に染み付いている。
英語には「beat around the bush(藪の周りを叩いて獲物を追い出す=遠回しに言う)」という表現があるが、日本人の発話はこの状態に陥っていることが多い。
例えば飲食店で「お水が入っていないのですが」と状況だけを事実描写として伝えると、相手は「だから何をしてほしいのか」と真意を測りかねてしまう。
日本的な感覚では「水がないと気づけば注ぐのが当然の気配りだ」と考えがちだが、ローコンテクストな文化圏では要求の言語化が欠かせない。
状況の描写にとどまらず「水を一杯持ってきてほしい」という結論をダイレクトに言語化する思考の転換こそが、伝わる英語の第一歩である。
Q. 流暢に話すことと相手を動かす機能する英語にはどのような本質的な違いがあるのか?
英語を話す行為には、単に流暢な音を並べる「talk」と、相手の意思決定を引き出す「speak」という明確な境界線が存在する。
どれほど美しい発音で難解な語彙を操っていても、主張の中身や目的が不在であれば、相手にとっては意味を伴わない単なる音の羅列に過ぎない。
一方で、文法的に崩れたブロークンイングリッシュであっても、強烈な推進力を持つ場面は多々ある。
膠着した国際交渉の席で、ある社長が「Price expensive!」「We partner, long term!」と要点だけを言い放ち、相手の態度を一変させて商談を前進させた事例がその典型である。
ビジネスにおけるコミュニケーションの成否は、頭で納得する論理的理解と心で腑に落ちる心理的理解の両輪を生み出せたかで決まる。
拙い表現であっても、相手を行動変容へと導き合意を形成できる言葉こそが、真に「機能する英語」である。
Q. 日本人が国際舞台で発言できなくなる背景にはどのような心理的・構造的な壁が存在するのか?

日本人がグローバルな対話で沈黙してしまう要因として、「4つの壁」の存在が挙げられる。
第1に、自分は何者で自社は何を目指すのかというパーパスや自国の文化を語る「語るべきコンテンツ」そのものの不足である。
第2に、第二言語話者に対して誰も求めていない水準の正確さを自己に課し、ミスを恐れて口を閉ざしてしまう過剰な「完璧主義」である。
第3に、沈黙を金とする文化から脱却できず、相手の質問に対して即座に意見を返せない「反応速度の遅さ」である。
グローバルな環境において沈黙は熟考ではなく「何も考えていない、意見がない」と同義とみなされる。
第4の壁は、巨大な内需と経済規模に守られてきたことによる「切迫感の欠如」である。
小国のように最初から外貨を稼がなければ生存できない環境になかったため、英語を実践道具として切実に使う機会が乏しかった。
無理にネイティブの発音に同化しようと右往左往するのではなく、自国の文化や自身の価値観にしっかりと根を下ろす姿勢が肝要である。
誰にも偏らない客観性を持ちつつ堂々と自己の軸を示す「不偏(Impartiality)」の精神で、日本語訛りのまま発言する開き直りが必要である。
Q. 伝わる英語を身につけるためのLAARモデルとネイティブの思考法とはどのようなものか?
英語を実効的な道具へと進化させる枠組みとして、「LAARモデル」の習得が効果を発揮する。
LAARとは、論理ツリー思考を指す「Logic」、自己や企業のミッションを語る「Assertion」、明瞭に伝える「Articulation」、そして即座に打ち返す「Responsiveness」、の4要素である。
欧米圏のビジネスパーソンは幼少期から「以下の3つの理由によりこう考える」というロジックツリーの構造を叩き込まれている。
起承転結で情緒的に語るのではなく、まず結論の見出しを提示して詳細は後から展開する「ヘッドラインファースト」の徹底が欠かせない。
また、単語学習においても日本語と英単語を1対1で機械的に暗記する習慣を捨て去る必要がある。
例えば動詞「have」には所持や飲食など多彩な訳語が存在するが、ネイティブの脳内イメージは単に「〜と共にある(with)」という1点に集約される。
さらに「dog」という単語も、日本語の忠犬のような好意的な連想だけでなく、英語圏では侮蔑的な罵倒表現になり得る文脈の違いを帯びている。
個別フォルダを頭の中に無数に増設するのではなく、言葉のコアな概念や世界観を捉えることこそが自然な英語運用の鍵となる。
Q. 日常の日本語表現をグローバル標準のロジックに転換するにはどう言い換えるべきか?

日本語の日常的な社交辞令や婉曲表現を逐語訳しても、異文化間のビジネス交渉では致命的なすれ違いを招く。
Windows向けソフトウェアがMac上で作動しないのと同様に、OSである「コミュニケーションの前提ロジック」を変換しなければ機能しない。
例えば飲食店で「フォークを落とした」という事象だけを伝えるのではなく、「新しいフォークを1本持ってきてほしい」と真の目的を告げる必要がある。
価格交渉の場でも、「too expensive」と発言すると「高すぎて買えない」という拒絶の報告になってしまい、そこで対話が途切れてしまう。
交渉のテーブルに乗せるためには「It is a bit over my budget(予算を少し超過している)」と言い換え、具体的な金額の協議へと繋げるべきである。
同様に「大至急(ASAP)」という主観的指示も、相手の文化圏によって数分から数ヶ月まで解釈の幅が大きく狂ってしまう。
曖昧な形容詞に逃げず、「24時間以内」のように定量的かつ客観的な数値を指定することがグローバル交渉の鉄則である。
Q. AIを活用して論理転換の瞬発力を短期間で鍛える実践的な訓練法とは何か?

英語の論理回路を脳内に構築するためには、ChatGPTなどの生成AIを活用した「超速訳」と「定義練習」が極めて有効な手段となる。
超速訳とは、提示された日本語文の要点を即座に英語へ転換し、つなぎ言葉を使ってでも途中で止まらず最後まで一気に発話し切る高負荷トレーニングである。
AIに対し「あなたは非常に批判的でせっかちであり、要点を厳しく問い詰める聞き手である」とプロンプトで役割を設定し、プレッシャーの中で即答する訓練を行う。
頭に汗をかきながら文脈を瞬時に再構築する強い負荷と感情が結びつくことで、記憶への定着率は単語帳を眺める作業とは比較にならないほど跳ね上がる。
もう1つの定義練習では、「山とは何か」「本とは何か」といった身近な事物を、形容詞の羅列ではなく本質的な構造から一般化して説明する訓練を重ねる。
例えば山を「木が多くて美しい場所」と情緒的に語るのではなく、「地表が隆起して他より高くなった部分」と構造的に言語化する。
物事の特殊性を排して客観的な定義を与える訓練を繰り返すことで、休眠していた知識語彙が活性化し、やがて自社のミッションや自身の仕事の本質をも明瞭に語れる論理的発信力が完成する。