マーケット超分析
AIバブルはいつ弾けるか/NVIDIAファンドの失敗がトリガーに?/日本株は黄金時代へ
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2026年9月2日

「マーケット超分析」では株式相場を徹底解説。後編では、マネックス証券・広木隆が今後の相場を展望する。AIバブルはいつ弾けるのか? <出演者> 柴田阿弥(MC) 木野内栄治|大和証券 チーフテクニカルアナリスト 1988年に大和証券に入社。 以来一貫してテクニカル分析業務に従事。 日経ヴェリタス「...
米国経済の適温状態と日本株の優位性、AI投資バブルのリスクを探る
世界経済は株高基調が続く一方、複雑なリスクと機会が混在している。米国経済は一見するとバランスの取れた「適温状態」に見えるが、AIブームが牽引する巨大IT企業による過剰な投資は、新たな金融リスクの種をはらんでいる。その中で、日本株は独自の強みを発揮し、世界の資金を引き寄せる「安全資産」としての役割を担う可能性を秘める。現在の市場を形作る米国と日本の経済状況、そしてAI投資の潜在的な危険性について、詳細を紐解く。


Q. 現在の米国経済を「適温経済」と呼ぶ理由は何だろうか?
現在の米国経済は「ゴルディロックス」、すなわち適温経済の状態にある。物価の減速や消費の低迷といった「弱いデータ」と、AIインフラへの巨額投資が象徴する「強いデータ」が絶妙に拮抗しているためだ。このバランスが市場に安定感を与えている。米連邦準備制度理事会(FRB)は金融政策の決定に際し、イエレン議長(当時)やパウエル議長が繰り返し強調してきた通り、景気指標や経済データのファンダメンタルズを最重視する。
政策金利が経済の過熱も冷却もさせない最適水準を保つことは、株価にとって最もプラスに作用する状況だと言える。この均衡状態が維持される限り、株高基調は継続すると予測される。
Q. なぜインフレが落ち着き、原油価格も高騰しにくい状況なのか?
米国における消費者物価指数(CPI)の前年比は3.4%と、インフレが鈍化傾向にあることを示し、コロナ禍の異常な高騰期から正常化へと移行している。このインフレ鎮静化の背景には、原油価格の安定がある。中東情勢の緊迫化にもかかわらず、原油価格が高騰しない最大の理由は中国だ。
中国は過去に原油を安値で大量に備蓄し、さらに国内の輸送を鉄道にシフトさせ、電気自動車(EV)への移行を強力に推進している。共産党主導の下で日量500万バレルもの原油輸入削減を実施したことは、世界全体の需要を劇的に押し下げた。この実需の低下が、地政学リスクによる供給不安を相殺し、原油価格の無制限な上昇を防いでいると考えられる。
Q. AIの進化は米国の雇用や消費にどのような影響を与えているか?

AIの急速な発展は、米国労働市場に二極化をもたらしている。ChatGPTの登場以降、情報産業、特にITやデータサイエンス分野の新卒者の求人が減少傾向にあるのだ。AIがこれらの高度な知的な仕事を代替することで、ホワイトカラー労働市場の厳しい状況が続いている。しかし、その一方で、データセンターの建設現場では肉体労働を伴うブルーカラーの需要が旺盛だ。全体としては人手不足が続いているものの、雇用はアンバランスな状態にある。
消費もまた、実質賃金の伸びが物価上昇に追いつかない状況から冷え込んでいる。ウォルマートのような低価格帯の日用品小売店でさえ売上が減少していることは、一般家計の可処分所得が圧迫されていることを示唆している。しかし、企業による設備投資、特にAIインフラへの投資は活発であり、これが経済全体の落ち込みを支える要因の一つとなっている。
Q. 日本企業はどのような要因で好業績を記録し、今後の成長ドライバーは何か?
日本企業は長きにわたるデフレを脱却し、本来の「稼ぐ力」を取り戻しつつある。2023年4-6月期の決算では、値上げを通じた売上増益が顕著であり、特に売上高純利益率は7%超と過去最高水準を記録した。通常は慎重とされる日本企業が、第1四半期から業績予想を相次いで上方修正したことは、極めてポジティブなサプライズである。
この好業績の背景には、AI半導体ブームがある。ただし、その恩恵はNVIDIAのような最終製品メーカーだけにとどまらない。日本の多くの企業は、半導体の製造装置、素材、部材といった、いわばAI産業を「陰で支える黒子」として、ニッチながらも揺るぎない技術力を発揮している。さらに、防衛、航空宇宙、海洋、造船など、政府の大規模投資が具体的に利益に直結する分野も、今後の成長ドライバーとして期待される。加えて、政府の支援がなくとも成長力を誇るコンテンツ産業も注目に値する。
Q. 巨大IT企業によるAIへの巨額投資は、新たな金融リスクをはらんでいないか?
かつて「アセットライト(資産を持たない)」で高収益を誇ったGAFAMなどの巨大IT企業が、現在ではAIデータセンター建設といった「アセットヘビー(莫大な設備投資を伴う)」な事業へと大きく舵を切っている。これに伴い、手元資金だけでは足りず、多額の借金をしてまで箱物投資に走る構造転換が起きているのだ。例えばAlphabet(Google親会社)は上場以来初のフリーキャッシュフロー赤字に陥っており、来期はさらにその幅が拡大すると予想されている。
さらにリスクを高めるのが、NVIDIAに見られるような「マッチポンプ型」の投資形態だ。NVIDIAが20社もの新興企業に投資し、その資金で自社製品を購入させるという、実需が不透明な取引が行われている。問題はこれに大手金融機関も加わり、80兆円規模のAIインフラファンドを設立すると報じられている点だ。金融と産業が過剰なレバレッジを伴って結合することは、パリバ・ショック(リーマンショック以前の金融不安)のような連鎖的な金融市場の混乱を招く恐れがある。実体経済やキャッシュフローとはかけ離れた、不透明な資金循環が最も警戒すべきリスクとして浮上している。
Q. 世界的なリスクが高まる中、日本株はどのような役割を果たす可能性があるのか?

世界の市場がAI投資に潜むリスク、例えば金融システムの不安定化を認識し始める時、これまで「キャッシュを抱えすぎ」と批判されてきた日本企業が、逆に「安全資産」としてグローバルマネーの逃避先となる可能性が出てくる。借金に頼らない強固な財務体質、つまりキャッシュリッチな状況は、金利上昇による資本コストの高騰や経済の不確実性が増す局面で、大きな強みとなる。
また、日本の半導体産業は完成品でのシェアは低いものの、半導体製造装置では約3分の1、部材・素材では約半分という世界トップクラスのシェアを誇る。このため、米ハイパースケーラーが推進するアセットヘビーな投資は、日本企業へ実需という形で直接的な恩恵をもたらす。東証によるPBR改革やコーポレートガバナンス・コード改定も、現金を手元に置いている企業に対して株主還元や適切な投資を促し、日本のバリュー株の評価をさらに高める要因となるだろう。
Q. 投資家は今後の日本株において、どの点に注目すべきか?
今後の投資判断において重要なのは、世界の金融市場が抱えるAIバブルのリスクを適切に評価することだ。キャッシュフローが潤沢でないにもかかわらず、積極的な設備投資を継続する企業は注意深く監視する必要がある。これに対し、日本企業は守りを重視しつつも、成長機会を追求する「攻守のバランスが取れた経営」が期待される。特に、半導体製造を支える部材・装置メーカー、防衛関連など政府系投資の恩恵を受けるセクター、そして「重テック」と呼ばれるような事業基盤の確固たる老舗IT企業には、見直し買いのチャンスが潜在する。
PBR改革の追い風もあり、豊富な手元現金を持ちながらもこれまで評価されにくかったバリュー株は、安定的な成長のコアとなる可能性がある。金利上昇が続くと予測される局面では、投機的なグロース株一辺倒の投資戦略だけでなく、キャッシュリッチで財務基盤の強い日本企業のバリュー株を長期ポートフォリオの核とすることが、市場の不確実性に対応するための賢明な選択肢となるだろう。