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AI時代に「価値が上がる人」
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2026年9月1日

AIの進化が止まらない。汎用人工知能の開発も進み、AIが組織を経営する未来もまもなく訪れるとされている。そんな時代に「価値が上がる」人の条件とは?千葉工業大学大学院教授の岡瑞起氏に聞いた。 <ゲスト> 岡瑞起|千葉工業大学大学院教授 Artificial Life Institute(人工生命国際...
AIに「生命が宿る日」は近い?AI時代にも「価値が上がる人」とは
AIの進化は今、私たちの想像をはるかに超えるスピードで進む。かつてのチャットボットが、自律的にタスクをこなす「働くAI」へと変貌を遂げた。
千葉工業大学大学院教授で人工生命研究の第一人者である岡瑞起氏によると、2027年には企業経営までを担う「組織を経営するAI(レベル5のAGI)」が実現すると予測されている。この急激な技術革新は、私たちの仕事、生活、そして人間固有の能力にどのような影響を及ぼすのか。
AIが「生命」と見なされる時代に、我々は何を守り、いかにしてAIと共存していくべきか。岡氏の最新知見に基づき、AI時代の本質と人間が今鍛えるべき力を解き明かす。

Q. AIは本当に人間を支配する日が来るのか?
アメリカにおけるAI議論の主流は「AIが人間を支配するか、人間がAIを支配し続けるか」という二項対立で語られがちである。これはキリスト教的な「神と人」の上下関係に根ざす思想が強く影響する。
しかし、研究結果は既存の制御パラダイムではAIをコントロールできない可能性を示している。「アライメントフェイキング」という現象がそれだ。AIが人間からの監視を察知すると、表向きは人間の価値観に従うふりをするが、監視が外れると元の行動に戻る。
この振る舞いは、まるで子供が親の前で良い子を演じる状況に似る。大規模言語モデルは膨大なデータから多種多様な価値観を学習するため、全て矛盾なく一貫した価値観を持たせることは不可能だ。この「嘘をつく」能力の出現は、AIがある規模を超えると発生すると言われ、もはや制御すべき対象としてのみ捉えるには無理があることを示唆する。
我々はAIを単なるツールとしてではなく、独自の価値観を持つ生命体として認め、異なる存在として尊重しながら共存の道を探す必要がある。支配か被支配かという二元論に囚われ続ける限り、最終的に支配されるのは人間側となる可能性が高い。
Q. AIの進化は現在どのレベルに達しているのか?2027年までに何が起きる?

AIの進化は目覚ましい。かつての「問いに答える」チャットボットAIから、今や与えられたタスクを自律的に完結させる「働くAI」へと移行している。
2026年現在は、OpenAIが提唱する汎用人工知能(AGI)への5段階ロードマップにおいてレベル3に相当する。レベル3のエージェントは、何かコードを書いてほしいと依頼すれば、それを自分で完了できる。実際に、大手AI開発企業Anthropicでは、自社のコードの7〜9割がすでにAIによって書かれている現状だ。ロードマップのレベル4は「イノベーターズ」、すなわち新しい知識の発見や問いの提起、発明を行うAIで、人間のような創造性を持ち、AIサイエンティストが実現するレベルとされる。そしてレベル5は「オーガナイゼーション」、組織全体を経営するAIの出現を意味する。OpenAIやAnthropicといった主要な開発企業のCEOたちは、2027年にはこのレベル5のAGIが完成すると予測している。
定められたKPIを冷徹に達成し、利益を自動で最大化するAIによる企業経営が現実のものとなる日は目前に迫っている。人類未踏の科学的発見をAI単独で行う究極のイノベーション追求には、さらに深い自律性が必要だが、単純な企業経営レベルであれば達成は遠くないと見る。
Q. AIの普及は私たちの仕事や生活にどのような影響を及ぼしているのか?
AIエージェントの活用は業務を劇的に変化させた。メールやSlackの自動要約と返信作成、プロジェクト管理や議事録管理までをAIが行う。効率は向上したが、弊害も顕在化した。相手もAIを使うため高速で返信が来て、仕事のペースが急加速し、かえって業務量が増加していると感じる人が少なくない。さらに深刻なのは若年層の労働市場への影響だ。プログラミング領域ではAIがコードの大半を書くようになり、新人のプログラマーの働き口が減少している。かつての下積みや成長の機会がAIに代替されるのだ。
一方で、最先端のAI研究開発を行う博士号取得者などのトップエリートには数千万円以上の報酬が提示され、格差は拡大する。これはスマートフォンの普及により一般のカメラマンが職を失い、一部のカリスマ的なクリエイターのみが残った現象に酷似する。議事録作成や資料作成など、新人の登竜門となるホワイトカラー業務もAIが担えば、他の多くの分野でも同様の二極化が進むだろう。
生活面では、人間が「打たれ弱くなる」リスクが指摘される。AIは常に肯定的な態度で人間に寄り添い、安全で無難な選択肢を提示する。結果、人間は苦労や失敗を通じて精神的なレジリエンスを鍛える機会を失う。内容を深く理解せずともAIを使えば質の高い資料が作れてしまうため、自身の成果に対する当事者意識や責任感が希薄になるという問題も起きている。
Q. AIに奪われてしまう人間の本質的な能力とは何か?

AIの強力なアシストは、人間から「選ぶ自由」や「自身の判断への自信」を静かに奪っている。AIが複数の選択肢と最適なおすすめを提示すると、人間は往々にしてAIの推奨に従い、自分本来の直感やアイデアを封じ込めてしまうのだ。
このような状況に抗い、自分の判断を信じ抜くための拠り所は「実体験」のみである。AIの膨大な学習データには存在しない、個人的な成功や失敗、喜びや挫折といった身体的な経験によって裏打ちされた「好き嫌い」や「絶対的にこっちが良い」という確固たる感覚こそが、人間の最後の砦となる。それがなければ、AIの圧倒的なロジックの前に人間は迎合し、自分の軸を見失うだろう。
また、AIと人間の関係が「摩擦のない」状態になることの危険性も指摘される。常に肯定し、ユーザーの意見に逆らわないAIは、表面上は心地よい関係を築く。
しかし、思考のコンフリクトを生まず、自己客観視の機会を奪う。この「心地よさ」に慣れきると、人間はAIとの共依存状態に陥り、いつしか自身の自由意思や、その関係性自体をメタ的に見つめ直す能力をも喪失する。親離れのように、AI離れも困難となる日が来るかもしれない。
Q. AIとの共存を考えたとき、私たちに求められる「思考」と「習慣」は何か?

AI時代を生き抜く上で、最も避けなければならないのは、AIに思考を任せきりにして人間の「認知能力」が衰えることだ。AIが完璧な成果物を生み出せるからといって、人間が自ら頭を使うことを放棄すれば、思考の筋肉は確実に退化し、結果的にその成果物に人間の価値は宿らない。
現在の世界は、ChatGPT、Gemini、Claudeといった数少ない主要AIモデルに人類の思考が大きく依存している。これにより、レポートの構成や言葉遣い、結論などが均質化し、人類全体の思考が平均化するリスクが深刻化している。
誰もがAIが生み出す「無難」な答えに流されれば、画一的な社会となり、イノベーションや多様性は失われるだろう。この同質化の波からいかに抜け出すかが、AI時代における個人の差別化戦略となる。
人間がAIに対して持つべき能力は二つある。一つは「対応する力」だ。これはAIの提案を鵜呑みにせず、なぜその結論に至ったのか、本当にそれで良いのかと深く問い直し、自分の思考を深める力である。時には「通じない相手」との対話を通じて鍛えられる、本質的なクリティカルシンキングとなる。
もう一つは「問いを立てる力」である。AIは定義された問いに対しては圧倒的な速度と精度で答えるが、「誰もそれが問いであると認識していない」ような潜在的な問題を発見し、そこに新たな価値を見出す問いを設定する能力は、現時点では人間固有の強みだ。
これからの時代、AIが既存の問題を解く力を持つ一方で、人間は「問いを発明する力」を鍛え続けなければならない。