PIVOT TALK FOOTBALL
ドルトムントでスターが生まれる理由(字幕)
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2026年8月20日

香川真司の獲得は、単なる戦力補強ではなくアジア戦略の完璧な布石だった。欧州サッカー界の激しい競争のなかで、独自の立ち位置を確立し続けるための経営哲学とは何か。世界中を熱狂させるドルトムントのCEOであるカルステン・クラマー氏に聞いた。 <MC> ミムラユウスケ|スポーツライター <ゲスト> カル...
「フットボールの首都」が育む熱狂:ドルトムントCEOが語る独自の経営戦略と哲学
ブンデスリーガを代表する名門クラブ、ドルトムントのCEOを務めるカルステン・クラマー氏が来日した。単なるフットボールクラブという枠を超え、熱狂的なサポーターと深く結びつき、世界中の若い才能を引き寄せるその独自の経営哲学とはどのようなものだろうか。
CEOクラマー氏が語る、香川真司選手との深い絆、クラブの未来、そしてビジネスにおける揺るぎない情熱に迫る。


Q. 「フットボールの首都」と自負するドルトムントのアイデンティティと、ファンとの特別な関係性とは何か?
ドルトムントは単なるサッカーブランドではなく、本物のクラブであると強調する。サッカーに集中し、人々の懸念を気にかけ、常にクラブがファンと会員に属することを認識している。彼らは自らを「ドイツのサッカーの首都」と称し、その背景には8万1,365人を収容するブンデスリーガ最大のスタジアム、5万5,000人のシーズンチケット保有者、そして25万人もの会員という世界トップクラスの支持基盤が存在する。ドイツのフットボールミュージアムもドルトムントにあるという事実が、この自負の裏付けとなる。
ドルトムント市民はフットボールを愛し、自身のクラブに熱狂的だ。これほど高い密度と強度で住民とクラブが一体化している都市は他にないだろう。フットボールがなければドルトムントは違う都市になり、ドルトムントの人々がいなければこのクラブも違うクラブになるという認識がある。他のクラブに売買されるフランチャイズのような存在とは一線を画し、「黄色い壁」に象徴される熱狂はドルトムントでしか機能しない。
Q. 若き才能を世界的なスターへと育成するクラブ独自の戦略とはどのようなものか?

ドルトムントは、若手選手をスカウトし、世界的なスーパースターへと育成する「挑戦的なクラブ」であると自負している。香川真司、アーリング・ハーランド、ジュード・ベリンガム、ウスマン・デンベレなど、多くの選手がドルトムントで大きく成長した後に世界的スターとして羽ばたいた。
香川真司選手を獲得したことは「勇敢な行為」であったと振り返る。彼の活躍なしに日本におけるドルトムント人気は確立されなかったとし、クラブファミリーの一員として深く愛されている存在だ。彼の存在は日本市場開拓の扉を開いた。仮に香川選手がクラブのアンバサダーに関心があれば、常に門戸を開いているという。
移籍によって得られた資金は、スタジアムなどのインフラ整備に投資するのではなく、全て「選手層」の強化に再投資している。「石(施設)」にのみ投資し、「脚(選手)」に投資しないのは間違いだと考えているのだ。フットボールをクラブのコアビジネスと捉え、常に最高のチームを築くことに集中していると語る。
Q. ドルトムントの国際化戦略は、なぜアジア市場に2つの拠点を設け、どのようなアプローチをとるのか?
国際化への全面的なコミットメントがある一方で、本拠地のビジネスは常に最重要と位置付ける。つまり、スタジアムを完売させ、ブンデスリーガで成功を収めることが世界中のファンを惹きつける前提となる。
国際化のため、上海、シンガポール、ニューヨークに3つのオフィスを設けている。アジア市場に2つの拠点を置くのは、アジアの広大さと文化の多様性によるものだ。シンガポールでプログラムを開始した後、中国市場の熱狂ぶりに応えるにはシンガポールから全てを統括するのが困難と判断し、上海にもオフィスを設けたと説明する。上海のチームは日本ツアーや東京でのプロジェクションマッピングなどの活動も手掛けた。

南北アメリカ市場においては、メキシコ出身の選手に関心を示すヒスパニック系の人々の熱意が異なるため、北米とそれ以外の地域を分けて考える必要があると認識している。彼らの心に届くには、できる限り個別化したアプローチが必要であり、翻訳だけでは伝わる力が失われるという。例として、ヒスパニック系向けのスペイン語版Instagramアカウントを開設するなどのソーシャルメディア戦略を挙げた。
また、選手獲得において「国籍」は一切考慮しないと明言する。常に世界最高の才能を発掘することを最優先しており、特定の市場向けに国籍ありきで選手を獲得しても、その選手が活躍できなければ市場も失望させてしまうという。まずスポーツ部門が最高の選手を獲得し、その上でマーケティングやPR活動を展開する。AIの発展により言語の障壁が低くなった現在、多角的な現地発信やインフルエンサーとの協業が、文化的にフィットした情報流通に極めて有効だと見ている。
Q. クラブの意思決定プロセス、特に選手獲得において、どのような原則に基づいているか?
クラブは前CEOヴァツケ氏が築き上げた遺産を継続していく方針だ。前CEOのチームの一員であったクラマー氏自身も、「革命を起こすつもりも、新しいクラブを築くつもりもない」と語る。前CEOはクラブを欧州トップ10にまで押し上げ、過去10年間で常にチャンピオンズリーグの出場権を獲得してきた。この素晴らしい土台の上で、より多くの野心を持ち、さらに前進していくことが現在の目標である。
選手獲得などの意思決定プロセスは、非常に少人数のチームで行われる。現在はスポーツ部門を統括するラース・リッケン、セバスティアン・ケール、そして監督を中心に、信頼に基づいた迅速な意思決定が行われるという。CEOや前CEOもサポートする立場だが、最終的な決定はスポーツ部門で行われる。過去のユルゲン・クロップ時代と顔ぶれは変わったものの、「少人数チームで迅速な意思決定を行う」という哲学は変わっていないと述べる。
監督は常に意思決定チームの一員であり、監督の意見に反する行動は取らないという。彼らは日々議論し、時には対立しながらも、最終的に全員が同意できる解決策を見つけ出す。クラブの哲学として、監督はクラブの戦略にフィットしていなければならない。監督が選任された時点で、すでにクラブの戦略と整合していることが重要だと説明した。
Q. ドルトムントが目指すクラブの未来像と、CEOが語る成功の秘訣は何か?
ドルトムントの次なる重要なステップは、有望な才能を獲得するだけでなく、彼らをいかに長くクラブに留めるかであると認識する。才能ある選手がいずれはクラブを離れることを避けられないとしても、その時期をできるだけ遅らせ、特に国内の競合クラブへの流出は阻止したいという。
ビジネスの観点から見ても、欧州トップ10の地位を維持し続けることを目標としている。国家ファンドや米国資本に支えられたライバルクラブがひしめく中で、ドルトムント独自の魅力を磨き、約9,000万人にも上るデジタルコミュニティをさらに拡大していく意向だ。毎シーズンクラブをより良くし、魅力的であり続けることを目指している。
CEOクラマー氏は自身のビジネス哲学について、誰かにアドバイスをする教師ではないと前置きした上で、「エネルギーを持つこと」「ポジティブな考え方を持つこと」「仕事を愛すること」が最も重要だと説く。仕事が単なる職業ではなく、心から愛し、24時間捧げられるものであれば、成功は自然な結果として訪れる。心と100%の情熱を持って取り組み続ける限り成功は続くと信じ、それが失われた時には身を引くべきだと強い覚悟を示した。