PIVOT TALK SPORTS
五輪のメダルラッシュの真相
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2026年2月12日

ミラノコルティナ五輪が開幕し、日本代表は史上最高のメダルラッシュとなっている。特にスノーボードではビッグエアで男女ともに金メダルを獲得するなど、新お家芸とも言える強さに。その裏には何があるのか?五輪2大会連続出場の今井胡桃さんに聞く。 <ゲスト> 今井 胡桃|オリンピック 2大会連続出場 5歳でス...
スノーボード五輪金メダルの裏側にある日本の練習環境と厳しい現実
ミラノ・コルティナダンペッツォオリンピックにおいて、日本スノーボードチームが驚異的な活躍を見せた。
特にビッグエアでは男女共に金メダルを獲得し、メダルラッシュに沸いた背景には、選手たちの並々ならぬ努力と、それを支える独自の環境、そして想像以上に厳しい現実があったと推測する。
元オリンピック代表選手である今井胡桃氏へのインタビューから、競技をより深く楽しむための技術的な視点、日本の強さの秘訣、そしてトップアスリートたちが直面する厳しい実情を探る。

Q. スノーボード・ビッグエアの基本ルールはどのようなものか?
ビッグエアは巨大なジャンプ台から飛び出し、空中での一発技の完成度を競う競技である。
選手は3回の試技を行い、最も高い得点を得た2回の技の合計点で順位が決定する。
重要な点は、得点に採用される2つの技は、必ず異なる回転方向の技でなければならないということだ。
例えば、右回転で高得点を出した場合、次に採用される技は左回転の技でなければならず、両方向で高難度な技を確実に成功させる技術が求められるのである。
そのため、選手は戦略的に3本の試技を組み立て、それぞれの技の完成度だけでなく、異なる回転方向への対応能力も同時に問われる競技と言える。

Q. 技の名前の仕組みはどうなっているか?
スノーボードの技名には、「回転方向」「スタンス」「回転数」「グラブ」といった情報が凝縮されている。
回転方向:「BS」はバックサイド(お腹側に回る回転)、その反対側はフロントサイドである。
スタンス:「X」が技名に付くと「スイッチスタンス」となり、利き足ではない逆の足を前にして滑り、技を行うことを示す。これにより回転の軸が変わるため、より高度な技術を要する。
回転数:数字は回転度数を表す。例えば「18」は1800度、つまり5回転に相当し、「19」は1980度、5回転半となる。
グラブ:空中で板を掴む動作のことで、掴む場所によって「メランコリー(板の後方)」、「ミュート(板の前方)」といった名称が付く。
実際に金メダルを獲得した木村選手は、1本目で「バックサイド1980メランコリー」を決めたが、これは通常のスタンスでお腹側に5回転半回りながら板の後方部を掴む大技である。
さらに、木俣選手が挑戦した「バックサイド2160メランコリー」は、6回転に相当する驚異的な技である。
Q. 高得点につながる「グラブ」や「抜け」の技術とはどのようなものか?
グラブは、単なる空中動作ではなく、体をコンパクトにまとめ、回転を安定させる重要な技術である。
グラブの評価は、空中で板を掴んでいる時間の長さや、どれだけ難しいグラブをしているかに影響されるため、長く掴めば掴むほど、高得点につながると言われている。
また、「抜け」と呼ばれるジャンプ台から飛び出す瞬間の技術も非常に重要だ。
飛び出すタイミングと板の角度が完璧であると、より高く、長く空中にとどまることができ、結果的に多くの回転数や複雑な技が可能となる。
さらに、雪質や風といった外的要因も演技に大きく影響する。
一般的に、エッジが食い込みすぎない「硬い雪」が好ましく、追い風は選手のスピードを増し、飛距離を伸ばす上で有利に働く。
小柄な選手が多い日本においては、追い風はジャンプ台への到達速度を上げ、十分な飛距離を確保するために不可欠な要素と言えるのだ。
Q. 日本スノーボードが世界を席巻する強さの秘訣は何か?
日本が世界のスノーボードシーンをリードする最大の秘訣は、他に類を見ない充実した「夏の練習環境」にある。
特に「クエスト」と呼ばれる施設は、人工芝で滑り出し、巨大なエアマットに着地することで、一年を通して安全に高難度の技を練習できるのだ。
この施設は、怪我のリスクを大幅に軽減するため、選手たちは恐怖心なく新しい技やより高い回転数に挑戦できる。
実際に、熊谷クエストのような施設ではハーフパイプ専用の練習環境も整えられており、ビッグエアだけでなくハーフパイプ種目においても日本のレベルアップを後押ししている。
「クエスト」は競技者専用ではなく、4歳から70代まで幅広い層が楽しんでいるという点も特徴だ。
「競技のため」だけでなく、「スノーボードが楽しいから」という遊びの文化が深く根付いていることで、日本のスノーボード人口の裾野が広がり、才能ある選手の育成にもつながっているのである。

Q. スノーボード選手のキャリアと経済的な現実は厳しいのか?
華やかなイメージとは裏腹に、プロスノーボード選手のキャリアと経済状況は極めて厳しい現実を伴う。
ワールドカップの優勝賞金は約100万円、オリンピックの金メダルですら500万円程度と、高額な遠征費用や用具代を賄いきれないことが多々ある。
選手の遠征費用は、ナショナルチームのランクに応じて一部連盟が負担することもあるが、下位ランクの選手は全額自己負担となり、その経済的負担は計り知れない。
そのため、多くの選手はスポンサー契約に活動資金を依存しており、スポンサーの獲得が選手の命綱となっている。
また、選手生命も非常に短いのが特徴だ。
今や10代の選手が世界のトップを争い、今井氏のように20代前半で引退を考える選手も珍しくない。
今井氏自身、22歳で現役を引退したが、それまでの競技生活は親の車での車中泊を伴う長距離遠征など、家族の献身的な支えなしには不可能だったと振り返る。
彼女にとってオリンピック出場は、何よりも家族への「感謝」を示す最大の恩返しであり、この経験が人生において最も大きな価値を持つものだったと語る。
Q. オリンピックでのスノーボード競技をさらに楽しむための視点とは?
スノーボード競技の醍醐味は、単にメダルや順位を追うことだけではない。
選手一人ひとりが持つ個性的な「スタイル」や「技の独創性」、そして過酷な環境の中で競技を楽しむ「笑顔」に注目すると、より深く競技を味わうことができる。
特に、若手選手の「勢い」は注目すべき点である。
年齢と共に増す怪我のリスクや恐怖心を乗り越え、怖いもの知らずに大技に挑む姿は、見る者に感動を与える。
彼らが持つ「まだ見ぬ隠し技」を本番で繰り出す可能性は、試合の展開を大きく変えることになるだろう。
選手の技術的な巧みさだけでなく、その裏側にある人間ドラマ、支える家族の存在、そして競技への情熱を知ることで、スノーボードはさらに魅力的なスポーツとなる。
今後のハーフパイプ決勝でも、日本人選手のメダルラッシュ、そして彼ら彼女らが放つ唯一無二の輝きに期待が高まる。