THE DEEP SHOW
三木谷浩史の交渉術
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2025年12月26日

数々の挑戦と失敗を、三木谷浩史氏が本音でさらけ出す。切り込むのは、忖度なしの東野幸治。イニエスタ獲得の舞台裏から、楽天経済圏の拡大まで、三木谷流の交渉術に迫る。 <ゲスト> 三木谷浩史|楽天グループ代表取締役会長兼社長 一橋大学商学部を卒業後日本興業銀行(現・みずほ銀行)に入行。1997年に楽天グ...
楽天経済圏の創造者が語るビジネスの極意
日本を代表する起業家であり、楽天グループ代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏が、その独特の経営哲学とビジョンの真髄を語る。
銀行員から転身し、インターネット黎明期に「楽天市場」を創業。それからわずか30年弱で、サービス数70以上、売上収益2.3兆円、従業員数約3万人を抱える巨大企業グループを築き上げた。
この急成長の裏には、常識を打ち破る独自の戦略と、常に未来を見据える挑戦者としての姿勢が存在する。
イニエスタ獲得の舞台裏から社内公用語の英語化、そして日本の将来に向けた提言まで、稀代の経営者が描くビジネスの未来像を探る。

Q. 楽天の原点と現在の巨大な経済圏はどのように形成されたのか?
三木谷氏の起業は、「ネットで物は売れない」という当時の常識に逆行するものであった。アメリカでインターネットの可能性を確信し、「日本を良くしたい」という強い思いを胸に銀行を辞め、わずか6人の仲間と共に楽天市場を立ち上げた。
創業当初のビジネスモデルは、「月額5万円ポッキリ」という画期的な出店料であった。当時、他のショッピングモールが高額な月額料金と手数料を課す中、この低価格戦略が出店ハードルを大幅に下げ、後の急成長の礎を築いた。初月の実質売上は12万円と厳しいスタートであったが、このモデルの将来性を確信していたという。
事業の急拡大に伴いサーバーコストが増大すると、同氏は従量課金制への移行を決断した。これに対して出店者の7割が離脱すると新聞に書かれるほどの反発が予想されたが、同氏は「嫌なら1年間は無料で使い、その後独立して良い」という異例の提案を行い、店側との信頼関係を維持し、結果的に離脱をわずか3%に抑えることに成功した。この時期の強固な交渉と理念共有が現在の経済圏構築を可能とした。
さらに、「ネットでは価格の安さが全てでポイントは不要」という定説を覆し、世界に先駆けて本格的なポイントプログラムを導入した。三木谷氏は「ちょっとした幸せ」や「塵も積もれば山となる」という人間の心理に訴えかけ、このポイントが「楽天経済圏」の核として多様なサービス間の繋がりを強化する役割を果たすことになる。
Q. 楽天が社内公用語を英語にした背景と目的は何か?
楽天が社内公用語を英語に踏み切った理由は主に二つある。
一つ目は、グローバルなIT人材獲得競争に勝つためであった。日本の情報工学系卒業生は年間約1万3000人と非常に少ないが、アメリカは約40万人、インドに至っては200万人以上である。優秀なITエンジニアを世界中から集めるには、社内環境を英語化し、広範な人材プールから採用する必要があると判断した。実際、楽天は現在約900人のAIエンジニアを擁し、その大半が外国人である。

二つ目は、社員の視座を世界基準に引き上げるためだ。楽天の競合は、もはや国内企業だけではない。AmazonやGoogle、OpenAIといった世界のトップ企業と戦うには、常に世界最高のベストプラクティスをベンチマークする必要があると同氏は説いた。
同氏は日本の英語教育を「国家の詐欺」と批判し、日本人が2500時間も英語を学ぶのに話せないのは、実践の場が少ないためだと指摘する。解決策として「話さざるを得ない状況に追い込む」ことが有効だとし、日常業務の全てを英語化することで、社員は短期間でコミュニケーション能力を習得したと述べる。機械翻訳が進歩しても、リアルタイムでの対話や微妙なニュアンスの伝達、真意の共有には生身のコミュニケーションが不可欠だと強調している。
Q. 日本の人口減少に対して、どのような社会変革が必要だと考えるのか?
日本の人口減少問題に対し、三木谷氏は出生率向上策だけでは限界があるという認識を示す。そして、優秀な人材やエッセンシャルワーカーを含む「戦略的な移民政策」が日本の未来にとって不可欠であると提言した。
多様性(ダイバーシティ)は国の強さに直結するという信念から、海外からの人材を計画的に受け入れ、社会全体でその受け入れを歓迎する姿勢が重要であると説く。

しかし、現状の日本の高い税制、特に最高税率が56%にも達する所得税や55%の相続税が、優秀な海外人材の流入を妨げる大きな障壁になっていると指摘する。例えば、100億円を稼いでも手元に残るのが10億円では、グローバルな人材獲得競争において日本は不利になる、と警鐘を鳴らした。
この問題に対して、同氏は日本が過去のやり方に固執せず、考え方を大胆に変革する必要があると主張する。
Q. 楽天がスポーツ事業に参入した真の目的とは何か?
楽天のスポーツ事業参入には、ブランド認知度の向上という商業的側面だけでなく、日本社会、特に地方の活性化への貢献という大きな目的があった。
アメリカにおけるスポーツが、野球やフットボールチームを誘致することで地方経済を活性化させている現状を参考に、楽天イーグルス参入当初から、プロ野球を単なる競技ではなく、「ベースボールエンターテイメントカンパニー」として球場全体のエクスペリエンスを向上させることに注力した。
この取り組みは、日本のプロ野球ビジネスモデルに変革をもたらし、業界全体の活性化に寄与しただけでなく、フランチャイズである仙台に数百億円規模の経済効果をもたらし、地域貢献の具体例となった。
ヴィッセル神戸の経営を引き受けた背景には、阪神淡路大震災の復興の象徴であった故郷神戸のチームを救いたいという三木谷氏の強い想いがあった。チームが財政難に陥っていた状況を受け、同氏は赤字覚悟で支援に乗り出したのである。
Q. 世界的スター選手であるイニエスタの獲得にまつわる驚くべき交渉の裏側とは?
サッカーの世界的スター選手アンドレス・イニエスタの獲得は、低迷していたJリーグ全体に新たな活力を与えるための「起爆剤」として同氏が戦略的に描いたプロジェクトであった。
同氏は、イニエスタの移籍情報が浮上した翌日にはすぐにバルセロナへ飛び、直接交渉を開始した。世界最高峰のミッドフィルダーであったイニエスタに対し、ヴィッセル神戸のビジョン、そして日本のサッカーを盛り上げたいという熱意を伝えた。さらに、彼のワイン畑ビジネスが不調であることを聞きつけると、イニエスタの父親にまで会いに行き、「ワインビジネスも助けるから」とまで提案するなど、あらゆる手段を尽くして説得に努めた。
結果的にイニエスタはJリーグへの移籍を決断。三木谷氏の圧倒的な行動力、交渉術、そしてJリーグ全体を活性化させるという壮大なビジョンが、この歴史的な移籍を実現させたと言える。高額な契約金にもかかわらず、役員全員がこの決断に同意した。
Q. 楽天スタジアムでの「ゼロキャッシュ」導入はどのような狙いがあり、どのような影響をもたらしたのか?
楽天の球場では、日本でいち早く「ゼロキャッシュ」システムが導入された。これは単なるキャッシュレスではなく、現金での支払いを完全に廃止する「ノーキャッシュ」を意味するものであった。

同氏はこの決断について、現金を取り扱うことによる多大なコスト削減と、顧客体験の向上という二つの明確な狙いを語る。現金の勘定や銀行への預け入れなど、現金ハンドリングには見えないコストが全国で年間5兆円も発生していると指摘した。これをゼロにすることで運営効率が劇的に改善した。
導入当初は、高齢者層からの反発が懸念されたが、Edyの自動販売機を設置するなどきめ細やかな対応をした結果、むしろ彼らから「かっこいい」と好評を得た。購入時の待ち時間が減り、スムーズな決済が可能になったことで、結果的にスタジアムでの売上が十数%も向上したという。隣国の韓国ではキャッシュレス比率が99%に達する一方で、日本はまだ35%程度であり、三木谷氏は日本のキャッシュレス化の遅れと、それによる経済的な損失に警鐘を鳴らした。
Q. FCバルセロナとのスポンサーシップ契約を通じて、楽天はどのような効果を得たのか?
楽天が世界的なサッカークラブであるFCバルセロナのメインスポンサーとなったのは、楽天のグローバルブランド認知度を飛躍的に高めるための戦略的投資であった。
三木谷氏は、アメリカのスーパーボウルが約3億人の視聴者を獲得するのに対し、FCバルセロナとレアル・マドリードの「エル・クラシコ」は、世界で20億人以上が視聴する、圧倒的な影響力を持つイベントであると認識していた。
このスポンサーシップを通じて、ユニフォームの胸に掲げられた「Rakuten」のロゴは、世界の何十億もの人々の目に触れることとなった。結果として、欧州での楽天のブランド認知度は80%を超えるまでに高まり、世界規模での事業展開を加速させる上で絶大な効果をもたらした。