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発達障害グレーゾーンの部下・上司
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2025年10月11日

近年相談が増えているという「発達障害グレーゾーン」。自身や職場の同僚が発達障害グレーゾーンかもしれないと感じたら、どのようなコミュニケーションを心がければ良いのか。心理学者でカウンセラーの舟木彩乃氏に聞いた。 <ゲスト> 舟木彩乃|心理学者 心理学者(筑波大学大学院博士課程修了/ヒューマン・ケア科...
「発達障害グレーゾーン」の部下・上司 〜お互いの心を守るコミュニケーションとは〜
近年、「発達障害グレーゾーン」に関する悩み・相談が職場で増加している。診断には至らないものの、特定の特性によって仕事や人間関係に困難を感じる人々が抱える「生きづらさ」とは何か。そして、その生きづらさに対し、組織や個人は何ができるのか。本記事では、心理学者でカウンセラーの舟木彩乃氏が解説する。

Q. 「発達障害グレーゾーン」とは?
発達障害はASD(自閉症スペクトラム障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、精神遅滞、学習障害などに大別される。その中でも、職場で顕在化しやすいのはASDとADHDである。精神遅滞や学習障害は学童期までに発見されることが多いのに対し、ASDとADHDは社会に出てから「自分は仕事に適応しにくい」と感じることで認識され始めるケースが多い。

「グレーゾーン」とは、発達障害と定型発達の中間に位置する状態を指す。明確な線引きはなく、特性の現れ方も環境との相性で変化するため、診断が難しい概念である。この流動的な性質が、「生きづらさ」の要因の一つとなっている。
Q. 職場で見られる「発達障害グレーゾーン」の特性にはどのようなものがあるか?
ASD(自閉症スペクトラム障害)は、主にコミュニケーションや他者の意図を想像する能力に困難を抱える一方、特定の知識や専門分野に対しては驚異的な集中力と記憶力を発揮するケースがある。例えば、「よしなにやって」といった曖昧な指示の意図を汲み取ることが苦手な傾向にある。一方で、研究者のように特定の専門性を追求する職務では非常に高いパフォーマンスを示すことがある。

ADHD(注意欠陥・多動性障害)は、「不注意」「多動性」「衝動性」の3つの主要な特性が挙げられる。不注意が優勢なタイプは、うっかりミスや先延ばしが多く、「のび太型」に例えられる。多動性・衝動性が優勢なタイプは、物理的あるいは思考がせわしなく動き、考える前に行動してしまう傾向があり、「ジャイアン型」に例えられる。これらは混在する場合も多く、人によって現れ方が異なる。
Q. なぜ学生時代は問題なくても、社会に出てから「生きづらさ」を感じるのか?
学生時代までは、カリキュラムやルールが明確であり、特性が目立ちにくかったり、多少のズレも「個性」として許容されやすかったりしたため、多くの人は大きな困難を感じずに済んでいた。しかし、社会に出て職場に入ると、「空気を読む」「暗黙の了解」「マルチタスク処理」など、不明瞭で複雑なコミュニケーションが求められる場面が増加する。この変化が、発達障害の特性とのミスマッチを生じさせ、「生きづらさ」として顕在化する主な原因となる。
グレーゾーンの当事者が感じる「生きづらさ」の根源には、「過剰適応」がある。グレーゾーンの人は明確な発達障害ほど能力の凹凸が激しくないため、「努力すればできる」と考え、苦手な部分を人並みにこなそうと多大なエネルギーを消耗する。その結果、常に心身が疲弊し、職場で居眠りしたり集中力が続かなくなったりする。周囲からは「やる気がない」「サボっている」と誤解されがちであり、この認識のズレが人間関係の悪化や本人の自己肯定感低下を引き起こし、負の連鎖を生み出すのである。
また、得意分野で評価され昇進した結果、管理職としての対人関係や調整業務が求められ、自身の特性と仕事内容との乖離に苦しむASDのケースもある。ADHDでは、期日厳守の苦手さやうっかりミスを繰り返すことで、本人に悪意がなくとも、周囲は「自分への反抗」「軽視」と捉えてしまい、結果的に人間関係が損なわれることがある。これらの状況が積み重なって心身の不調をきたし、初めて自身の特性や生きづらさに気づく当事者が少なくない。
Q. 自身や周囲の人がグレーゾーンかもしれないと感じたとき、どのように気づき、対応すれば良いのか?
まずは「あれ?」と違和感を抱いたら、一人で抱え込まず専門家への相談を検討すべきである。職場に産業医やカウンセラーがいる場合は積極的に利用しよう。この時重要なのは、「疾病性」(病名や診断)ではなく「事例性」(具体的な困りごと)に焦点を当てることである。「発達障害かもしれない」と決めつけず、本人がどのような状況で、何に困っているのかを明確にすることが肝要だ。困りごとの対処を、本人や周囲のマネージャーだけで抱え込まず、人事や専門家を交えて対応するのが適切だ。
また当事者の具体的な困りごとは、感覚過敏として現れるケースが多い。例えば、コピー機の音やパソコンのブルーライトが気になって集中できない場合、席の配置換えや耳栓の利用、ブルーライトカット眼鏡の導入などで解決できる可能性がある。また、マルチタスクや優先順位付けが苦手な場合は、タスクリストの共有や視覚的な支援が有効だ。このように個別の困りごとに丁寧に耳を傾け、調整を図ることが、当事者のパフォーマンス向上と組織全体の生産性向上につながる。
Q. 休職に至ってしまった場合、「適応障害」と「うつ病」では復職支援にどのような違いがあるのか?
休職から復職に至る過程において、組織が「適応障害」と「うつ病」を正しく区別することは極めて重要である。どちらも症状は「うつ状態」だが、根本的な原因と復職後の対応が異なる。適応障害はストレッサー(ストレスの原因)が明確であるのに対し、うつ病は複合的な要因で発症するためストレッサーが特定しにくい。特定の上司や業務、人間関係といったストレス源が明確な適応障害の場合、休職中に症状が改善しても、ストレッサーが解消されないまま元の環境に戻れば、高い確率で再発してしまう。
したがって、適応障害の復職支援では、ストレッサーの特定とそれに合わせた環境調整が不可欠である。異動や業務内容の変更などを検討し、原因を排除することが重要だ。一方、うつ病の場合は、環境の変化がさらなる負担になる可能性があるため、急激な変化は避けて段階的に慣らすことが求められる。組織は本人からヒアリングを行うとともに、主治医とも連携し、両疾患の特性を理解した上で復職支援プランを策定しなければならない。
Q. 「発達障害グレーゾーン」のメンバーに対し、上司や同僚はどのようなコミュニケーションを心がけるべきか?
まず、当事者本人だけでなく、上司や同僚も問題を「一人で抱え込まない」ことが鉄則である。特に上司がADHD傾向で指示がコロコロ変わるようなケースがあるとしたら、部下は同僚や人事と連携し、チーム全体で対処する体制を構築する必要がある。コミュニケーションの基盤となるのは「信頼関係」である。日頃から良好な人間関係が築けていれば、改善のための指摘も「自分のため」と前向きに受け止められ、ハラスメントとして捉えられるリスクも軽減する。

指摘を行う際には「ポジティブ・ネガティブ・ポジティブ・フィードバック」の考え方が効果的だ。まず、できている点や良い側面を具体的に褒め(ポジティブ)、次に改善が必要な点を具体的に伝える(ネガティブ)。そして最後に、期待や励まし、解決策の提示などで締めくくる(ポジティブ)。この伝え方によって、相手の自己肯定感を損なわずに前向きな行動を促し、成長につなげることができる。
「発達障害だから」と特定の社員を特別視したり、「厄介者扱い」したりする姿勢は厳に慎むべきである。誰もが環境の変化によって「生きづらさ」を感じる可能性があるため、「お互い様」の精神で接することが重要だ。企業には、従業員が心身ともに健康に働けるよう配慮する「安全配慮義務」がある。特性は一人ひとりの個性であり、組織全体で互いの特性を理解し、尊重し合うことで、より生産的で働きやすい職場環境を築くことが可能になる。