教育新常識
【夫婦喧嘩で子どものIQ・記憶力が低下】脳を変形させる無意識な虐待
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2025年9月25日

夫婦喧嘩を子どもの前でするとIQや記憶力が低下、など最新脳科学で分かった無意識な虐待の影響を解説。 <ゲスト> 友田明美|小児精神科医/福井大学 子どものこころの発達研究センター教授 専門:小児発達学、小児精神神経学 熊本大学医学部医学科修了後、同大学大学院小児発達学分野准教授を経て2011年~現...
心が傷つくと脳が変形する?脳科学が明かす「マルトリートメント」の影響と回復
「心が傷つく」という言葉は、比喩表現ではないことをご存じだろうか。近年の脳科学研究は、心の状態が脳の物理的な変化に直結することを示している。
親が「まさか」と思うような何気ない行動が、知らぬ間に子どもの脳を傷つけ、その後の人生に深刻な影響を与える可能性がある。しかし、希望もある。
傷ついた脳は適切なケアによって回復し、親自身もまた成長できるというのだ。この常識を覆す事実を脳科学の視点から解説する。

Q. 「心が傷つく」ことは、本当に脳に物理的な影響を与えるのか?
精神的なストレスや心的外傷が、心にだけダメージを与えるという認識は間違いだ。小児精神科医の友田明美氏は、MRI画像を用いて、心が傷つくことが脳の働きや形を物理的に変化させる科学的事実であると報告している。
長期間にわたり心の傷を経験すると、脳の一部の容積が実際に小さくなったり、その働きが低下したりすることが分かっている。心の機能は、感情や理性をつかさどる脳の前頭前野と深く関連している。このため、「心が傷つく」ということは、「脳が傷つく」ことと密接に関わっているのである。

特に成長途上の子どもの脳は非常にデリケートであり、親の行動一つ一つが脳の発達に大きな影響を与える。さらにこの変化は、子どもに限らず大人の脳にも起こる現象であることも世界的に明らかになってきた。
Q. 子どもの脳を傷つける「マルトリートメント」とは具体的にどのような行動を指すのか?
子どもに対する不適切な養育は「虐待」として認識されている。しかし、明らかな虐待とは言い切れないものの、子どもの心や脳を傷つける可能性のある不適切な関わりは存在する。脳科学ではこれを「マルトリートメント」と呼び、マルトリは英語の「mal-」が悪いの意味であることから「困った子育て」と定義している。
友田氏によると、マルトリートメントには主に四つの種類がある。「身体的なマルトリ」、「暴言マルトリ」、「ネグレクト」、そして「性的マルトリ」である。これらのような関わりが単発的ではなく、慢性的に繰り返されることで、子どもの脳には構造的な変化が生じるとされている。
Q. いわゆる「愛の鞭」や体罰は子どもの脳にどのような影響を及ぼすのか?
親が子どものために良かれと思って行う「愛の鞭」や体罰は、子どもの脳に決して望ましい影響を与えないことが科学的に証明されている。
友田氏の研究では、厳しい体罰を慢性的に受けると、感情の制御や問題行動の抑制に関わる脳の「前頭前野」が物理的に変化し、萎縮するケースがあることが分かった。この脳の変化は、うつ病や非行、さらにはいじめの加害者になるリスクを著しく高める可能性を示唆している。
アメリカで行われた16万人の子どもを対象とした大規模な研究の再解析でも、体罰に教育的な効果は一切認められず、「百害あって一利なし」という結果が出ている。体罰を受けた子どもは、「感情的になった時に暴力を使って相手を抑えつけること」を誤学習し、結果的に暴力の連鎖を生む恐れがあるのだ。
また、体罰や暴言は心の病気の発症を早めるだけでなく、摂食障害や睡眠障害といった問題を引き起こすことにもつながる。
親が怒鳴りそうになった時、まず実践すべきは「アンガーコントロール」である。怒りを感じたら一旦その場を離れ、トイレで深呼吸するなどしてクールダウンすることが重要だ。そして子どもに何かを伝える際は、興奮している状態では言葉が心に届かないため、親子ともに冷静になってから話すべきである。また、説教は長くても60秒以内に留め、くどくど繰り返さないことも効果的なアプローチであると友田氏は語る。
Q. 言葉の暴力や親の喧嘩、ネグレクトは子どもの脳にどのようなダメージを与えるのか?
マルトリートメントは、体罰だけにとどまらない。親の言葉や夫婦間の関係も子どもの脳に深く影響を及ぼす。
夫婦喧嘩の目撃が子供の視覚野を傷つける
夫婦喧嘩を子どもの目の前で行うことも「心理的マルトリートメント」にあたる。夫婦間の激しい争いを目撃することは、子どもの後頭葉にある「視覚野」の容積を物理的に小さくしてしまうという。視覚野は「見る力」や視覚的な情報の記憶・学習能力に関わる部位であり、ここが傷つけられると視覚的な記憶力や学習能力が低下し、成績にも悪影響が出ることになる。

親同士が争いたい場合は、子どもに悟られないように、LINEやチャットでコミュニケーションをとるなどの工夫が求められる。夫婦の仲は、子どもの学力にまで影響を与え得ることを親は認識すべきである。
比較する言葉の暴力
「お兄ちゃんはできるのに、お前は何だい?」「あの子はあんなに優秀なのに」といった、兄弟間や他者との比較も「言葉の暴力」とみなし得る。このような発言は、子どもの個性を否定し、自己肯定感を著しく低下させるマルトリートメントの一種だ。子どもはそれぞれ異なる人格と個性を持つ。一人ひとりを尊重し、その子自身の成長を個別で評価することが重要である。
Q. 日常生活の中で無意識に行いがちな「マルトリートメント」の具体例とその影響は?
ながら育児が「脳梁」を萎縮させる
ネグレクトとは、子どもの身体的・精神的ニーズを満たさない育児放棄を指す。この中には「ながら育児」も含まれることがある。例えば、乳児期の授乳中に親がスマホやタブレットを操作し、子どもと視線を合わせなかったり、語りかけなかったりする行為は、親子の絆(愛着)形成を阻害する可能性がある。右脳と左脳を繋ぎ、感情の統御に重要な役割を果たす脳の「脳梁」は、ネグレクト経験のある子どもにおいて物理的に小さくなることが判明している。これにより、感情のコントロールが困難になり、暴力的行動や集団行動が苦手になる傾向がある。
ただし、親が仕事で多忙であること自体がネグレクトを意味するわけではない。子どもを放置して親が娯楽に興じている状態が問題とされ、共働き家庭などが過度に心配する必要はない。
「裸族」は性的マルトリートメントに?

家の中で親が裸や下着姿でいる「裸族」も、ある年齢からは性的マルトリートメントになり得るとされる。思春期に入る9~10歳頃からは、子どもがおおよその性的意識を持ち始め、親の裸の姿を見たくないと感じることが多くなる。子どもの思春期の自己主張は、社会性が芽生え、自立に向かっている健全な成長の証拠であるため、親はそれを受け入れる必要がある。早い段階で子どもの気持ちを尊重し、プライバシーに配慮した行動をとることが望ましい。
Q. 一度傷ついてしまった子どもの脳は回復するのか?親はどうすればよいのか?
「もし自分の子が既にマルトリートメントを受けていたら」と不安に感じる親もいるかもしれない。しかし、友田氏は「傷ついた脳は回復する」と希望を与える。子どもの脳は柔軟であり、早期に適切な心のケアや心理療法、サポートを行うことで、傷が癒え回復に向かうという。実際、大人でも9ヶ月の心理治療で脳が回復した事例も存在するのだから、子どもの回復力はさらに期待できる。
親もまた、子どもが生まれたその日から「親年齢0歳」を迎え、試行錯誤の中で成長していく存在だ。完璧な親はいないし、間違いを犯すことは自然なことである。大切なのは、過剰に自分を責めるのではなく、脳科学的なエビデンスを学び、気づいた時点から子育てを修正していく柔軟な姿勢だ。
親がストレスを抱え込んでいると、子どもの小さな笑顔に気づけなくなったり、感情的に子どもに接してしまったりすることがある。親自身の心身の健康が、子どもに与える影響は大きいのだ。親が「ペアレントトレーニング」のような学習機会を得て自分自身を癒し、ストレスを解消することは、脳の血流回復にもつながる。親が穏やかで幸せであれば、それが子どもにも伝わり、結果として子どもの脳の健全な発達と回復にも良い影響を与えるだろう。