PIVOT TALK BUSINESS
【世界最速シューズ】0.01秒を削る裏側
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2025年9月14日

若い世代を中心にランニングクルーが増えている。なぜ今ランニングが人気なのか?ランニングシューズ戦国時代を勝ち抜くメーカーはどこなのか?元箱根駅伝ランナーの大森氏と、「WWDJAPAN」編集委員の五十君氏に聞いた。 <ゲスト> 大森英一郎|Runtrip代表 法政大卒。第84回箱根駅伝で9区を走る...
アシックスが絶好調の理由とは? シューズ戦国時代を制す秘訣を専門家が解説

Q. ランニングシューズ市場が「戦国時代」と言われる中、アシックスが絶好調だと聞きました。なぜ今、アシックスが注目されているのでしょうか?
世界のランニング市場は今、大きく拡大しています。各メーカーが技術力を武器にシューズを開発し、まさに「シューズ戦国時代」と呼べる状況です。その中で日本のスポーツメーカー「アシックス」が絶好調です。時価総額は3兆円を超え、今期の売上高も8000億円に達する見込みと業績予想を上方修正しました。

元箱根駅伝ランナーで現在ラントリップ代表の大森英一郎氏は「アシックスの勢いを強く感じる。周りのランナーの間では『欲しいシューズがアシックスから出たら、まず株を買え』と言われるほど。良いシューズが出ると株価が上がるという点に注目しているランナーも多い」と語ります。
Q. アシックスの株価はどれくらい上昇しているのですか?
アシックスの株価は現在4000円台に乗り、8年前と比較するとおよそ10倍になっています。
ファッションビジネスメディアWWDJAPAN編集委員の五十君花実氏によれば「世界のスポーツメーカーの売上ランキングで、アシックスは現在12位の位置にいます。売上高が8000億円になれば、さらに上位に食い込む可能性があります」とのこと。
世界市場では依然としてナイキとアディダスが1、2位を占める状況ですが、3位以下は過去10年で大きく入れ替わっています。特に3位のルルレモン・アスレティカは急成長しており、市場の変化が激しいことがわかります。
Q. アシックスが成長している要因は何でしょうか?
アシックスの好調の原動力となっているのは、機能性に特化したスポーツシューズの開発力です。広田康人会長は「好調の原動力はスポーツシューズの機能に尽きる」と断言しています。
五十君氏は「アシックスという会社の真髄はパフォーマンス性の開発にあります。街で履くおしゃれスニーカーも増えていますが、原点は機能とパフォーマンスです。イノベーションを重ねているからこそ、今の勢いがある」と分析します。
特に注目されるのが「Cプロジェクト」と呼ばれる取り組みです。創業者の鬼塚喜八郎氏の教えである「まずは頂上から攻めろ」という言葉から名付けられたこのプロジェクトでは、トップアスリートの声に耳を傾けて製品開発を行っています。
Q. 世界陸上東京大会に向けて、アシックスはどのような戦略を展開していますか?
アシックスにとって2025年9月の世界陸上東京大会は大きな勝負の場です。同社は世界陸上のオフィシャルパートナーであり、日本陸上のオフィシャルトップパートナーでもあります。

大会に向けて、アシックスは次々と新シューズを発売しています。トップアスリート向けには「メタスピードレイ」「メタスピードスカイ東京」「メタスピードエッジ東京」などの製品を展開。特に「メタスピードレイ」は129gという超軽量モデルで、価格は33,000円。大森氏は「このシューズを履いてフルマラソンは耐えられないと感じるほど、限られた人だけが履きこなせるシューズ。極小かつとんでもない反発力がある一方で、安定感は犠牲になっている。それを自分の肉体で支えられる人が履けるシューズ」と説明します。
また、陸上界では長距離だけでなく短距離でも厚底スパイクが登場し、桐生祥秀選手が日本選手権で着用して注目を集めました。五十君氏は「メタスピードの開発ノウハウや素材が短距離スパイクにも活かされている。選手の声を質よく聞いて開発するCプロジェクトの真髄が、様々な分野に広がっている」と指摘します。
Q. 一般ランナー向けのシューズも充実していると聞きましたが、どのようなラインナップがあるのですか?
アシックスはトップランナーから一般ランナーまで、幅広いニーズに応える詳細なラインナップを揃えています。大森氏によれば「アシックスはメッシュ(製品区分)が非常に細かい。走る人のタイプやシーンをきめ細かく分けて製品を展開している」とのこと。
特に人気を集めているのが「ノヴァブラスト5」で、価格は16,500円。五十君氏は「私のような初心者ランナーでも、靴が一緒に走ってくれる感じがする」と評価します。また「ブラスト」シリーズは近年のアシックスを象徴する新しいラインアップで、「全ての道を弾ませる」というコンセプトのもと、走る楽しさを提供しています。
Q. アシックスの商品開発を支える技術基盤は何ですか?
アシックスの開発を支えるのが「スポーツ工学研究所」です。ここではシューズだけでなく、ウェアやアクセサリーなども人体工学に基づいて開発されています。例えば日本代表のユニフォームは「空気をまとうような」軽さが特徴で、選手のパフォーマンス向上に貢献しています。
また、スピードタイツなどの製品も充実しており、大森氏は「フルマラソンで30km以降になると足が上がりにくくなるが、このタイツを履くと足の引き上がりがスムーズになる感覚がある」と実感を語ります。
五十君氏によると「Cプロジェクトを率いていた竹村部長が今年1月にスポーツ工学研究所の所長に就任し、選手の声を聞いてアスリート中心の開発を行うという姿勢や、スピード感を持って取り組むという意識を、ランニング以外の分野にも広げている」とのことです。
Q. ランニング市場自体はどのように変化していますか?
世界的にランニング市場は拡大しており、ライフスタイルとしての定着が進んでいます。五十君氏によれば「アメリカではZ世代に大人気のランニングクラブが増加しており、出会いの場としても注目されています。例えばニューヨークを拠点とする女性向けランニングクラブ『スローガールランクラブ』や、デートアプリ『ランジ』が主催するランニンググループなどが人気です」。
大森氏も「共通の趣味があると出会いとしても続きやすく、自然に入っていける感じがある。実際、ラントリップでも出会って結婚した方が何組かいる」と話します。
Q. ランニングが人気の理由として、どのような側面がありますか?
ランニング人気の背景には大きく3つの要素があると専門家は指摘します。
1. コミュニティ:五十君氏は「会社でも家庭でもない、走る時だけ会う友達ができる。すごく健康的な出会いの場になっている」と説明します。
2. 旅:地方のマラソン大会に参加し、その土地の観光や食を楽しむ「ランニングツーリズム」が人気です。五十君氏は「インバウンドの方々も『富士山の見えるところで走りたい』『桜の見える日本のお城のところで走りたい』というニーズがある」と指摘します。
3. カルチャー:大森氏によれば「ストイックに記録を追求するだけでなく、ファッションも含めて楽しむというカルチャーが広がっている」とのこと。
Q. ランニングを続けるためのモチベーション維持の秘訣はありますか?
大森氏が所属するラントリップでは、数万人のユーザーデータを分析し、運動習慣が定着する要因を研究しています。その結果「ポイントや商品が当たるといったリワード(報酬)があると始めるきっかけになり、SNSなどで繋がりがあると続ける理由になる」ことがわかりました。

実際、SNS機能を使っている人は使っていない人と比べて、半年後の運動量が2.8倍になるというデータがあります。このような知見を活かし、イオンモールと協業した屋内ランニングイベントなども実施しています。
Q. ランニングシューズ市場の今後の展望はどうなりそうですか?
「シューズ戦国時代」はますます激化すると予想されます。世界陸上を前に各スポーツブランドは機関店をオープンさせるなど、マーケティングを強化しています。
大森氏は「素材の進化によって今、まさにランニングシューズの戦国時代が到来している。ランナーからすると楽しい日々」と話します。五十君氏も「高機能の高価格シューズに集中していることが、アシックスの好調の背景にある」と分析しています。
またランニングは単なるスポーツにとどまらず、街づくりや健康増進の観点からも注目されています。大森氏は「デベロッパーや電鉄系の企業が、ウェルビーイングや健康をテーマに街づくりを進める中で、ランニングコミュニティが重要な役割を果たすようになってきている」と指摘します。
ランニングを通じた健康増進、コミュニティ形成、地域活性化の動きは今後も拡大し、それに伴いシューズ市場もさらなる成長が期待されます。