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WBCはもうテレビで見られない?Netflixが変えるスポーツ中継の未来
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2025年9月3日

NetflixがWBCの日本独占配信権を獲得。これまで当たり前に「テレビ」で見られた国民的イベントが、ついに“配信”へ。リニア型戦略、放映権150億円、WBCIの狙い、地上波への影響まで、メディア戦略の最前線をジャーナリストの松谷創一郎氏に聞いた。 <ゲスト> 松谷創一郎|ジャーナリスト 1974...
NetflixによるWBC独占配信で見えた「放送」と「配信」の未来
世界野球クラシック(WBC)の日本での配信がNetflixに決まり、地上波放送がなくなることに驚きの声が広がっている。このニュースは日本のメディア業界にどのような意味を持つのか。動画配信サービスに詳しいジャーナリストの松谷創一郎氏に聞いた。

Q. NetflixがWBCの日本での独占配信権を獲得したことについて、どう思いますか?
予想できた展開だと思います。どこかのネット配信サービスが権利を取得するだろうとは考えていました。一般的な予想では地上波放送とTVerなどの組み合わせになると思われていましたが、今回は放送権も配信権もまとめてNetflixが獲得しました。驚いたのは、AbemaやU-NEXTではなくNetflixだったという点です。
Q. 読売新聞社が「WBCIが当社を通さずに直接Netflixに対し東京プールを含む全試合について日本国内での放送配信権を付与した」と発表しましたが、この文面についてどう感じましたか?
非常に印象の悪い発表だと感じました。読売新聞社は読売ジャイアンツを保有し、日本のプロ野球を歴史的に作り上げてきた企業です。東京プールの大会運営を任されていたものの、放送権や配信権については明確な契約がなかったようです。

「自分たちが大会運営をするから放送・配信もできるだろう」という見通しの甘さがあったのではないでしょうか。WBCIには配慮する義務はなく、このような「なぜ我々を通さなかったのか」という暗に非難するような発表は非常に残念です。
Q. 日本の野球界には他のスポーツと違う特殊性があるのでしょうか?
日本のプロ野球は中央集権型ではなく、各球団がバラバラに運営している状態です。メディア事業も一元管理できていません。パリーグはパリーグTVで一元的な管理を目指していますが、読売や広島カープなどは独自路線です。例えばカープはDAZNに早くから参加したものの、地元メディアを重視するという理由ですぐに抜けました。各チームが自分たちの利益だけを考え、リーグ全体の利益最大化という発想が乏しいのが現状です。
Q. 動画配信サービスには主にどのような種類がありますか?
大きく分けると「オンデマンド型」と「リニア型」の2種類があります。オンデマンド型は映画やドラマを視聴者が好きな時に選んで見るタイプで、視聴者がより能動的に作品を選びます。リニア型はテレビ放送のようにリアルタイムで流れるもので、スポーツやニュースなど「リアルタイムで見る価値がある」コンテンツに向いています。

日本ではAbema、DAZN、最近ではFastというサービスがリニア型を提供しています。ただし、これらの区分は曖昧になってきており、Netflixもリニア型のコンテンツ配信を始め、AmazonプライムやU-NEXTもスポーツ中継を行うようになっています。
Q. 2022年のサッカーワールドカップでAbemaが全試合無料配信して話題になりましたが、その成果はどうでしたか?
Abemaは期間中に700万ダウンロード増を記録し、同時アクセス数は2400万まで達しました。これは驚異的な数字です。Abemaがサービスを開始した直後の2016年頃はボクシング中継でサーバーがダウンするなどの問題がありましたが、その後ノウハウを積み重ね、2022年のワールドカップでは大きな成果を上げました。リアルタイムでの大規模アクセスに耐えるシステム構築は非常に難しいため、これは技術的にも大きな成功だったと言えます。
Q. 今回のWBCの契約について、放送権だけではないという点も話題になっていますね。
WBCIは「チケット販売権」「放送権」「スポンサー権」「グッズ販売権」のうち、チケット販売権を除く3つを直接営業する方針を固めたようです。本来であれば、日本側の主催者がこれらの権利をまとめて管理できれば、より大きなメリットが得られたはずです。
問題の根本には、日本プロ野球機構(NPB)の弱体な立場があります。NPBは12球団が集まって構成される組織ですが、実質的には調整弁的な役割にとどまっており、ビジネスを積極的に展開する姿勢が弱いのです。過去5年間で公正取引委員会から3回も注意や指導を受けているという事実からも、ビジネスに対する理解が十分ではないことがうかがえます。
Q. WBCの放映権料は前回に比べてどれくらい上がったのでしょうか?
推定では、前回は7試合で約30億円、今回は全47試合で約150億円と、試合数の増加に伴い約5倍になっています。Netflixの最安プランが月額890円(広告付き)なので、単純計算すると年間約1万680円。つまり、150万人の年間会員が必要という計算になります。
前回のWBCの平均世帯視聴率は準々決勝が48%、決勝が42.4%でした。決勝は平日の午前中にもかかわらずこの数字で、視聴者数は5400万人以上と推計されています。この数字から見ると、150万人という目標は達成可能に思えます。特に大谷翔平選手の出場が大きな注目点になるでしょう。
Q. Netflixの日本戦略について教えてください。
Netflixは1997年にアメリカでDVD郵送レンタル事業として創業し、現在は日本で1000万人以上の会員を持っています。同社はデータサイエンスの会社とも言え、顧客情報を徹底的に分析して的確なマーケティングを行ってきました。

日本市場の特殊性として、近年は韓国コンテンツのシェアが減少し、日本の実写コンテンツやアニメが増加しています。現在、日本のNetflixでは約80%が日本語コンテンツで占められていますが、これは英語圏以外では非常に珍しく、日本と韓国くらいしかない現象です。
また、世界的にはNetflixオリジナルコンテンツが7〜8割を占めるのに対し、日本ではオリジナルコンテンツの割合が減少し、地上波ドラマや日本のアニメといった非オリジナルコンテンツが増えています。これはNetflixの強みである「そこでしか見られないコンテンツ」という価値が日本では十分に活かされていないことを意味します。WBCの独占配信はまさにこの弱点を補う戦略と言えるでしょう。
Q. Netflixは近年スポーツコンテンツに力を入れているようですね。
そうですね。女子ワールドカップ、プロレスのWWE、NFL、ボクシングなど、多くのスポーツコンテンツを独占配信しています。特にWWEは世界的に非常に人気があり、上半期の人気ランキングで2〜3番目に位置しています。
Netflixがこういったリニア型コンテンツを増やしているのは、何を見るべきか迷う「ライトユーザー」向けの戦略です。このようなユーザーは自分で何を見るか選ぶのが苦手で、テレビのように流れてくるコンテンツを受動的に楽しむ傾向があります。動画配信サービスの普及に伴い、こうした従来のテレビ視聴に近い体験を求めるユーザー層へのアプローチが広がっているのです。
Q. 放送と配信の未来についてどう考えますか?
テレビが昔のような輝きを取り戻すことはないでしょう。ただし、動画コンテンツ自体はなくならず、配信が中心になっていきます。イギリスのBBCは2030年代前半に放送免許を返上する目標に向けて動いており、日本のテレビ局も将来的には同様の道を歩むでしょう。
放送事業の広告収入は右肩下がりで、多くのテレビ局は2020年代に入ってようやく「IPコンテンツ」の重要性に気づき始めました。将来的に日本のテレビ局は制作会社になる道しかなく、どの配信サービスと組むかを模索している状況です。TBSや関西テレビ、テレビ東京などは比較的この認識が進んでいます。
日本は実はコンテンツ大国で、全てのメディア企業が手を組めば、Netflix、Amazon、Disneyなどの海外勢に対抗できる力があります。しかし、プロ野球各球団がバラバラに運営しているように、日本のメディア企業も自社の縄張りや既得権益を守ることに固執し、協力して新しい時代に適応する姿勢が弱いのが現状です。
Q. 野球好きなカープファンとして、WBCがNetflixで独占配信されることで野球の普及にはどんな影響があると思いますか?
特に大きな変化はないと思います。WBCはメジャーリーグの魅力を伝えるものになっていて、日本のプロ野球はある程度その実力で魅力を示せています。前回の大会で大谷翔平選手が活躍しても、日本のプロ野球界に特に大きなメリットがあったとは言えません。
もし本当にこの状況に日本のプロ野球界が不満なら、巨人の選手をボイコットするという選択肢もあるでしょう。読売だけでなく、フジテレビが出資するヤクルトや中日新聞社のドラゴンズなど、日本の地上波メディアと関係の深い球団が態度を示すことも可能です。ただ、それが実際にどういう効果をもたらすかは疑問です。
結局のところ、個々の組織が自分たちの縄張りの中での利益だけを見て、全体の利益を考えないという構造的な問題があります。コンテンツビジネスはもはや国内だけで完結するものではなく、グローバルに展開することが重要です。韓国のドラマやK-POPが世界で成功したように、日本のコンテンツも世界に向けて展開していく必要があります。