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【1兆円超えのキャラも】世界で稼ぐ日本のキャラクターIP
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2025年8月10日

ONE PIECEや鬼滅の刃、ドラゴンボールなど世界中を席巻する日本のキャラクターIP。ハリウッドも認める日本のIPの強さの秘密とは何なのか。エンタメ社会学者の中山淳雄氏に聞いた。 <ゲスト> 中山淳雄|エンタメ社会学者 1980年栃木県生まれ、東京大学大学院修了(社会学専攻)、カナダのMcGil...
【キャラクター大国ニッポン】日本のキャラクターは世界を席巻できるか
世界を魅了する日本のキャラクターIP。現在の流行の秘密と今後の展望について、エンタメ社会学者の中山淳雄氏に聞いた。

Q. 現在ヒット中の『鬼滅の刃』。改めてヒットの秘密はどういうところにあると思いますか?
吾峠先生のキャラクター造形や言葉の力は特別だ。特に敵キャラに同情するという点は、私にとって初めての体験となる漫画だった。最初の敵である「手鬼」のようなキャラクターからも、慈しみ深さが伝わってくる。主人公のような言葉遣いはこれまであまり見たことがなかった。
鬼滅は名言が多い。例えば新宿では「これから行くのは地獄だ」というプロモーションに、サラリーマンたちが反応しながら新宿の改札をくぐっていく光景があった。良い言葉ではないけれど、こういった言葉が人々の心に残っている。
また鬼が最後に過去をプレイバックする時、「この人は違う環境だったら違う人生があったかも」と感じさせる描写には心を動かされる。単純な善悪二元論ではないところが魅力だ。
Q. 鬼滅の刃はアニメ化までどういう道のりを歩んだのですか?
2016年に連載が始まり、2019年にはかなり早めにアニメ化されたが、最初から人気があったわけではない。連載当初は15〜20作品中で10位以降のランキングが多かった。特に藤の山編の訓練シーンや、日輪刀を作るまでのエピソードは人気が落ちていた時期だった。
編集部からは「ここは短くできませんか」という話もあったが、吾峠先生は「このプロセスを経ずに炭治郎が強くなるはずがない」と信念を貫いた。連載が打ち切られる恐怖と戦いながらも、ストーリーの正しさを優先した。その深さが後々効いてきたのだろう。
初めての連載でありながら、編集者のパワーバランスに負けることなく自分の意見を通し続けた強い意思を感じる。連載が終了するリスクと向き合いながらも、その強いドライブ力があったからこそ、アニメ化した際にufotableの素晴らしい作品となって10倍、20倍の価値になった。
Q. アニメ化の際の制作体制にも特徴があったそうですね?
アニプレックスが早い段階でアニメ化の話を持ちかけ、委員会の作り方が特殊だった。通常は7〜8社でそれぞれ3000万円ずつ出資するような形だが、アニプレックスがほとんどのリスクを取る形で進めた。
さらにCMなしでアニメを放送し、様々な配信プラットフォームで展開するなど、従来のビジネスモデルを変えた。これは2019〜2020年の分岐点と言える。1995年頃のエヴァンゲリオン以来25年間続いていたモデルが変わったのだ。
こうした変革は、勝者だからこそ推進できたもの。制作委員会では20人ほどのメンバーを説得するのは難しいが、アニプレックスは「これで行く」と強い姿勢で取り組んだ。鬼滅のビジネス面を見ると非常に面白い。
Q. 日本のIPビジネスはどのような状況にあるのでしょうか?
IPビジネスとして確立されたのはここ10年の話だ。東宝が「ゴジラ戦略室」を作ったのが2014年、任天堂がモバイルでIPを展開し始めたのが2015年、集英社が「ドラゴンボール室」を作ったのが2016年。2010年代半ばに海外でアニメが当たり始めた頃から、各社がIP戦略を本格化させた。
それまでは出版は出版、アニメはアニメ、ゲームはゲームと別々に進められていた。ドラゴンボールでいえば、集英社の漫画、東映アニメーションのアニメ、バンダイナムコのゲームというように別々の会社が担当していた。しかし、IPという考え方で一つの会社が主導して戦略を立てるようになった。
この変化は海外展開を意識したものだ。国内では従来の3社連携でうまくいっていたが、海外にはそうしたメディアミックスをする事業者がいなかった。自分たちでノウハウを蓄積して海外に持っていこうという意思の表れだった。
Q. 漫画家の役割はどのように変わってきたのでしょうか?
エンターテインメント業界は縦割りの世界だ。出版社なら編集者から編集長になっていくし、ゲーム会社ならプランナーからプロデューサーになっていく。40〜45歳で初めてその業界を理解するような世界で、他のメディアについて口出しするのは難しい。

しかし、近年の漫画家のアニメリテラシーは上がっている。「このアニメスタジオの監督は変えてください」など、詳しく意見するようになった。漫画家を中心に、編集者も含めて「アニメはこのくらいバズる」「ここに劇場版を入れよう」など戦略的に動くようになっている。
これはアメリカ的な制作手法とは異なる。アメリカではチームで作り、複数の脚本から良いものを選ぶが、日本は作家の気持ちを大事にする。日本の漫画家が進化し、その周りのチームが機動的に動ける体制ができた。漫画家の頭の中で生まれたものをチーム全体が滑らかに動かす「日本的な解決策」が実現している。
Q. アンパンマンのような長寿キャラクターはどのように成長したのでしょうか?
キャラクターはほぼ作者そのものだと思う。やなせたかしさんの人生がアンパンマンに反映されている。戦後・戦中で餓死しそうな中で食べ物のことばかり考えていたこと、戦争で正義が転覆する体験などが影響している。

アメリカではスーパーマンやスパイダーマンのようなヒーローが生まれる一方、日本ではアンパンチが特徴的だ。相手を殺さず、誰かを助けようとすると自分が弱くなるというキャラクター設定自体に、日本の文化ややなせさんの人生観が表れている。
アンパンマンが本当に人気が出始めたのは1988年のアニメ化の時で、やなせさんは69歳だった。彼自身は「満員電車で押しくらまんじゅうされながら待っていたが、定年間近になって初めて席が空いた」と表現した。キャラクターとしての経済的成功は、やなせさんの年齢を考えると非常に珍しいケースだ。
Q. 日本のキャラクターIPと海外のものとでは何が違いますか?
日本とアメリカ以外の国では大衆文化自体が小さい。欧州の人が「世界において大衆文化があるのは米と日だけ」と言っていたが、まさにそのとおりだ。フランスやイギリスでは、「これはエリート向け」「これは庶民向け」と分けられているが、日本とアメリカでは全員が同じものを見る文化がある。

日本は出版文化が特に発達していて、ジャンプが650万部売れた時代は今後二度と来ないだろう。この土壌があったからこそ、作家が生まれる環境が整っていた。シンガポールやマレーシアで働いていたが、そういった国々には漫画家やイラストレーターを育てる土壌がない。
韓国はウェブトゥーンという形で追いかけてきているが、制作コストは漫画の10倍ほどかかるという課題がある。日本のように週刊誌があり、そこからアニメ化へとつながるステップを踏める国は珍しい。
Q. 今後、日本のキャラクターIPビジネスはどう成長していくべきでしょうか?
日本のキャラクターIPは工業製品より工芸製品に近い。アメリカはメソッド化して広げるのが得意だが、日本は天才の周りに工芸としてチームを作り、マスに広げていく方法を取っている。
コナンやワンピースのように有機的なチームを作り、高度な工芸のまま広げていくのが日本ならではのやり方だ。漫画家というクリエイターを中心に、サポートするチームの質が上がっているのが現状だ。
アメリカ的に「これは3人に分散させて、良かったものを採用しよう」というアプローチではなく、職人的なすり合わせ技術で作品を生み出すのが日本の強みだ。この「工芸ディズニー」とも呼べるモデルをさらに発展させていくことが、今後の成長の鍵となるだろう。