マーケティング新常識
【マーケター必見】インサイト思考とは
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2025年6月5日

インサイト思考とは 人を動かす隠れたホンネ 自覚できていない欲望 マーケター必見のインサイト思考の鍛え方を佐藤氏、阿佐見氏に聞いた。 <ゲスト> 佐藤真木 電通 シニア・マーケティング・ディレクター 阿佐見綾香 電通 マーケティング・コンサルタント <参考書籍> 『センスのよい考えには、「型」...
インサイト思考——人を動かす隠れた本音の見つけ方
マーケティングの世界では「インサイト」という言葉が頻繁に使われるが、その本質は何なのか。単なるニーズとどう違うのか。広告業界では日常的に使われる言葉でありながら、体系的に整理された文献は少なかったという。今回は電通のマーケティングエキスパートに、インサイト思考について詳しく聞いた。

Q. インサイト思考とは何ですか?
インサイト思考とは、「人を動かす隠れた本音」を見つける考え方です。ここで重要なのは「隠れた」という部分です。人は自分でも気づいていない本音を持っています。自分で自覚できていない気持ちを言葉にすると「そうそう、それが言いたかったんだ!」と共感が生まれ、行動につながります。

これは日常生活でもよくある現象です。例えば、何となくモヤモヤした気持ちがあったとき、誰かに「それって〇〇じゃない?」と言われて「そう、そうなんだよ!」とスッキリした経験はありませんか?その気づきこそがインサイトです。
マーケティングでは、消費者がまだ自覚していない「隠れた本音」を見つけ出して言語化することで、商品やサービスの価値を伝え、行動を促します。インサイト思考は特別に難しいことではなく、日常の思考の延長線上にあるものを意識的に活用することです。
Q. インサイトと他の概念(ニーズ、ファインディングス、常識)との違いは何ですか?
インサイトに近い概念はいくつかありますが、混同されがちです。特に「ニーズ」との違いを理解することが重要です。
ニーズは自分で自覚できている本音です。例えば「このカバンが欲しい」と思っているのはニーズです。一方、インサイトは自分でも気づいていない隠れた本音です。「なぜそのカバンが欲しいのか」という深層心理にあるものです。
ファインディングス(発見)は、調査等で見つかった事実や情報です。しかし、全ての発見が人を動かすわけではありません。目的に沿った発見だけがインサイトになり得ます。
常識は周りに当たり前と思われていることです。ただ知っているだけでは人の心は動きません。インサイトは常識の裏に隠れていることが多いのです。
Q. インサイトを見つけるための「出世魚モデル」とは何ですか?
インサイトを発見するための思考プロセスを整理したのが「出世魚モデル」です。これは優れたマーケターへのインタビューから抽出した共通点を5つのステップにまとめたものです。

1. 日常の中の違和感・モヤモヤに目を向ける
自分が感じている違和感やモヤモヤを無視せず、それに注目します。
2. 違和感を抱いている常識・定説を把握する
そのモヤモヤは何に対する違和感なのかを明確にします。これは単純なようで見落としがちな重要なステップです。
3. 常識の裏にどんな本音が隠れているか疑問を投げかける
常識に対して「本当にそうなのか?」と疑問を持ちます。インサイトは常識の裏に隠れていることが多いので、ここを探ります。
4. 隠れた本音に自分の納得いく言葉を言語化する
見つけた本音を人に伝わる言葉で表現します。この言語化のプロセスが非常に重要です。
5. 自分の仮説を裏付ける根拠を探す
自分の考えが主観的すぎないか確認し、データや調査で裏付けます。「自分だけじゃなく、みんなもそう思っている」と説得できるようにします。
このプロセスは日常の思考の延長線上にありますが、各ステップを意識的に踏むことがインサイト発見の鍵となります。
Q. 出世魚モデルの中で最も難しいステップはどこですか?
多くの人がつまずきやすいのは「ステップ2:違和感を抱いている常識・定説を把握する」です。これは単純に見えて実は難しい作業です。
なぜなら、常識は時代とともに変化するからです。例えば「男は男らしく、女は女らしく」という価値観は以前は一般的でしたが、現在では多様性が認められています。古い常識を前提にしていては、的確なインサイトにたどり着けません。
また、自分の属する集団の中での「当たり前」が、他の集団では当たり前ではないこともあります。例えば子育て中の親には常識的なことでも、そうでない人には知られていないこともあります。自分の思い込みではなく、現在の社会全体における常識を正確に把握することが重要です。
Q. インサイト思考の具体例を教えてください。
例1:スマドリバー渋谷(お酒が飲めない人向けのバー)
お酒を飲めない人向けのバーを作るプロジェクトでは、「飲めない人」のインサイトを探ることから始めました。一般的な常識では「お酒が飲めない人は飲み会が嫌い」とされています。しかし、実際にはお酒は飲めなくても飲み会のコミュニケーションを楽しみたいと思っている人も多くいます。
そこで浮かんだのが「飲める人ばかり楽しんでずるい」というインサイトです。お酒が飲める人はメニューが豊富で飲み方も選べますが、飲めない人は数種類のソフトドリンクしか選択肢がなく、楽しさを感じにくいのです。
このインサイトをもとに、飲めない人も楽しめるようなドリンク体験(綿菓子に炭酸水をかけて色が変わる演出など)や、アルコール度数の低いドリンクの飲み比べ、味の特徴を視覚的に示したメニュー表などを開発しました。さらに逆転の発想で、ノンアルコール飲料を豊富に揃え、アルコール飲料は少数だけ置くという通常のバーとは逆の構成にしました。
例2:コカ・コーラのノーリーズンキャンペーン
コカ・コーラを「いつ飲みたくなるか」という調査では、「暑い時」や「ハンバーガーを食べた時」というデータが出ました。一般的にはこのデータをそのまま使って「暑い日にコーラを飲む」シーンの広告を作るでしょう。
しかし、担当者はこのデータに違和感を持ち、「本当にその時だけなのか?」と疑問を投げかけました。そして「わけもなく急に無性に飲みたくなる」という別の仮説を立てました。これが「ノーリーズン」というキャンペーンにつながり、売上を大きく伸ばしました。
このケースでは、同じデータでも視点を変えることで、消費者が自覚していなかった「隠れた本音」を見つけ出すことができました。
Q. インサイト思考は鍛えられますか?
インサイト思考は日常生活の中で意識的に練習することで鍛えられます。具体的な方法としては「逆説モデル」を活用するのが効果的です。
逆説モデルとは「みんな・世の中はこう思っているかもしれないけれど、実は・本当はこうなんじゃないか?」という思考フレームです。これは出世魚モデルのステップ2(常識の把握)とステップ4(言語化)を簡略化したものです。

例えば育児中の場合、「赤ちゃんが夜泣きするのは理由なく泣いているからだ」という常識に対して「本当は腹が空いているのではないか」と仮説を立て、ミルクを与えたら泣き止んだといった経験が当てはまります。
この逆説モデルでの思考を日常的に繰り返すことで、インサイトを見つける「筋肉」が鍛えられます。階段を使う代わりに逆説モデルで思考する癖をつけるようなイメージです。
また、優れたマーケティングキャンペーンを見つけたら「このキャンペーンはどんなインサイトから生まれたのだろう?」と逆算して考えてみるのも良い練習になります。
データを重視するマーケティングの世界でも、人間の感情やモヤモヤといった曖昧なものから生まれるインサイトが重要であることを忘れてはいけません。インサイト思考はビジネスだけでなく、人間関係や日常生活のあらゆる場面で役立つスキルなのです。