PIVOT TALK BUSINESS
トランプ2.0を読み解くカギ「カウンターエリート」
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2025年5月4日

トランプ、ヴァンス、ピーター・ティール…既得権益化したエリートに対抗する「カウンターエリート」はなぜ生まれ、台頭しているのか。The HEADLINE編集長・石田健が解説。 <ゲスト> 石田健|「The HEADLINE」編集長 1989年 東京都生まれ。早稲田大学大学院 政治学研究科修士課程(政...
カウンターエリートとは?トランプ政権と新しいエリート像の台頭
「問題なのは、アメリカのイノベーションが物づくりや国防、ヘルスケアではなく、広告に流れていることだ」—石田健氏はカウンターエリートたちの問題意識をこう説明する。

Q: カウンターエリートとは何ですか?
カウンターエリートとは、従来のリベラルなエリート像に対抗する形で登場した新しいエリート層のことです。この言葉は投資家のピーター・ティールがトランプ大統領の勝利を「カウンターエリートの勝利」と表現したことから広まりました。
従来のエリート像は、多様性やポリティカル・コレクトネスを重視し、テクノロジーに明るく、アメリカ主導の国際秩序を支持するリベラルな人々でした。対してカウンターエリートは、これに真逆のキャラクターを持ちます。彼らは「アメリカは衰退している」という現状認識からスタートし、本当に重要な問題—経済成長や国の再建—に焦点を当てるべきだと主張します。
トランプの「Make America Great Again」というスローガンは、アメリカが現在「偉大ではない」ことを認めるところから始まっており、カウンターエリートの考え方を象徴しています。

Q: 石田さんはなぜカウンターエリートについて本を書いたのですか?
リベラルな秩序が大きく書き換わっていると感じたからです。トランプ大統領の登場によって、アメリカ中心の国際秩序や「大学に入ればいい会社に入れる」という戦後80年間信じられてきた共同幻想が音を立てて崩れているように感じました。
トランプ政権やその周辺の人々は、日本では「マッドマン・セオリー」として「予測不能な変な人」と描かれがちですが、彼らの考え方や問題意識を丁寧に追うことで、何を実現したいのかを明らかにしたいと思いました。
Q: カウンターエリートの代表的な人物は誰ですか?
代表的な人物にはピーター・ティールとJ.D.バンス副大統領がいます。ティールはFacebookの初期投資家であり、PayPalの創業者でもあります。彼自身は移民で性的マイノリティでありながら、トランプを支持しています。
バンス副大統領は「ヒルビリー・エレジー」という本を出版したベストセラー作家で、貧しい地域出身ながらイェール大学に進学し、軍に入り、そして副大統領になったアメリカンドリームの体現者とされています。元々はトランプを批判していましたが、のちに立場を変え、トランプこそが「本当に重要な問題にフォーカスしている」と主張するようになりました。

Q: ネットカルチャーとカウンターエリートはどのように関連していますか?
カウンターエリートを理解するためには、ネットカルチャーの知識が欠かせません。例えば「レッドピル」という概念があります。これは映画「マトリックス」から来ており、「赤い錠剤を飲んで苦しくても真実に気づく」という意味です。バンス副大統領はこの「レッドピル」という言葉を使い、自分がトランプ支持に転向した経緯を説明しています。
また「マノスフィア」と呼ばれる男性中心主義的なオンラインコミュニティも関連しています。彼らは「社会があまりにもリベラルやフェミニズム、ポリコレに傾きすぎている」と主張し、「男性が実は迫害されている」という「真実」に目覚めるために「レッドピル」を飲もうと呼びかけています。
Q: カウンターエリートが特に問題視しているのはどのような点ですか?
カウンターエリートはシリコンバレーのテクノロジー企業が広告モデルに依存していることを強く批判しています。例えば、スタートアップが成長するためにはFacebookに広告費を払ってアプリのダウンロード数を増やすというモデルが主流になっています。
彼らによれば、これによってアメリカのイノベーションが物づくりや国防、ヘルスケアではなく広告に向かってしまっているのです。さらに、広告ビジネスは若者の注目を集めてメンタルヘルスを損ない、エンターテインメントに時間を費やさせすぎているとも批判しています。
カウンターエリートは「本当に重要な問題」、特にアメリカの成長やイノベーションにフォーカスするべきだと主張しています。
Q: なぜシリコンバレーからカウンターエリートが生まれたのですか?
シリコンバレーは一般的にリベラルな空間だというイメージがありますが、実際にはリバタリアン(経済的・政治的自由を最重視する立場)の思想も強く存在していました。ただ、2010年代はシリコンバレーとリベラルが強く結びついていたと言えます。
しかし2010年代後半から風向きが変わり始めました。Facebookがトランプ選挙に影響を与えた疑惑や、Amazonの労働環境問題、フェイクニュース、メンタルヘルスへの悪影響など、テック企業のネガティブな面が注目されるようになりました。こうしてワシントン(政治)とシリコンバレー(テック)の距離が離れていきました。
また、パランティア(ティールが共同創業した会社)のアレックス・カープは、ここ10年のアメリカのテクノロジーがほとんど広告に流れていることを問題視しています。こうした流れの中で「本当に重要な問題にフォーカスしていない」というカウンターエリートの主張が生まれてきました。

Q: この動きは世界的な現象なのでしょうか?
カウンターエリートの影響力は国境を越えています。その大きな理由はインターネット、特にYouTubeのような動画プラットフォームの存在です。歴史的に見ても、イエス・キリストやカール・マルクスのような思想家でさえ、当時にYouTubeがあったら影響力はさらに大きかっただろうと想像できます。
現代では、トランプやバンスのようなカウンターエリートの主張が瞬時に世界中に拡散され、何百万人もの人々が同時に視聴できるという人類史上初めての状況が生まれています。彼らはメディアの変化を理解した効果的なストーリーテラーとなっています。
重要なのは、トランプ政権の周辺にいる人々が様々な理論武装をしながら政策を打ち出していることです。彼らは戦後80年間続いてきた秩序を書き換えようとしています。そして、バンスなど政権周辺の閣僚は40歳前後と若く、次の世界のあり方を考えている世代です。この流れは、支持されれば今後10〜15年は続くかもしれません。
Q: The HEADLINEというメディアについて教えてください
The HEADLINEは石田氏が編集長を務めるニュース解説メディアです。メディアの形が大きく変わっている現在、専門知識をより広く伝え、より良い議論と意思決定につなげることを目指しています。
政治学や経済学など学術的なバックグラウンドを持つ編集者たちが、ニュースの背景や文脈を深掘りする内容を提供しています。石田氏自身は政治哲学を研究していた経験から、人文社会科学の知識が実社会の問題解決に役立つと確信しており、専門知識を広め、より良い議論を促進するメディアを作りたいという思いで立ち上げました。