EXTREME SCIENCE
AI研究の源泉は情報幾何学にある
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2025年2月21日

今回ゲストはAI研究の基礎を作った世界的権威・甘利俊一氏。 AI研究の源流を作った甘利氏の情報幾何学とは何か?そしてAI研究の未来とは? <ゲスト> 甘利俊一|数理工学者 博士(工学)。東京大学名誉教授、理化学研究所栄誉研究員。 数理脳科学、確率論と幾何学を接続した情報幾何学を提唱した。 24年に...
AIの「モーツァルト」甘利俊一が語る情報幾何学と人工知能の未来
人工知能の世界的権威である甘利俊一氏は「情報幾何学」という分野の創始者として知られる。この理論は現代のAIの基礎となり、近年のディープラーニングの発展にも大きく関わっている。今回のインタビューでは、甘利氏がAIの現状、今後の発展、そして人間と情報の関係について語った内容をQ&A形式でお届けする。


Q. ノーベル物理学賞がAIに与えられたことをどう思う?
ノーベル物理学賞が人工知能に与えられたのは驚くべきことだ。物理学は本来、物の道理を研究する分野だが、情報は「物」ではなく「こと」の道理を扱う。物理学賞がその範囲を広げ、将来大きな意味を持つ分野にいち早く手を付けたことは評価に値する。
ノーベル賞の選考で見ると、主として1980年代以降の功績が評価対象となっている。私の研究はそれ以前から始まっていたので対象外だった。また、ノーベル賞は実用化も重視する。理論ではなく本当に作って見せることが評価される。それは2010年以降の話だ。その観点から見れば、ヒントンとホップフィールドが受賞するのは当然だろう。
Q. 情報幾何学とは何か?
情報幾何学はシャノンの情報理論から発展した分野だ。情報理論では情報の量を確率で捉え、エントロピーという概念を用いる。一方、コンピュータの数学は0と1の世界の組み合わせであり、代数的だ。代数と情報はぴったり合うが、そこに欠けているものがあった。
制御理論は情報を変換して物事を制御するが、そこにも何か欠けていると感じた。代数も確率もあるが、「幾何」がなかった。情報と幾何は不可分であり、物と物の関係を維持するには幾何が必要だ。まっすぐだとか回っているとかの概念は幾何に属する。
大学院時代に、「情報に幾何は関係するはずだ」という考えを持ち、手を動かして研究を始めた。当初は面白い結果が出たが意味がわからなかった。しかし、美しいものには必ず意味があると信じて研究を続けた。

Q. 情報幾何学の応用先は?
情報幾何学は情報に関するあらゆる分野に応用できる。例えば、暗号理論などでも応用可能性がある。確率分布の空間があり、その上で微分幾何学的な構造を作れる。そこでフィッシャー情報行列という重要な量を用いる。
応用例としては、例えばデータサンプリングや、本来の分布がどのようなものかを推定する際に使える。また、ディープラーニングにおいても、望ましい値からのずれを最小化するためのサンプリングや学習に役立つ。
情報に関わることは全て情報幾何学の目で見ると実はこうなっているという立場を作ろうとしている。情報幾何学の国際学術誌も6年前に創刊され、徐々に認知されつつある。

Q. 今のAIをどう評価している?
現在の人工知能は理論が不足している。ものすごい勢いで役に立っていて驚くべきものだが、理論は遅れている。開発者は電力を大量に消費する巨大なシステムを作って動かしてみる。そして予想以上に動いてしまう。なぜそんなにうまく動くのか、その理由がわからない。
特に大規模言語モデルの登場が衝撃的だった。学習の例題の膨大さは前例がない。何より創発が起きた。創発とは小規模にはなかった新しい現象が、大規模になると現れること。数万、数十万規模では小規模でも、100兆、1000兆規模になると想像を絶することが起きる。何が起きているのかよくわからないが、動かしてみるとうまくいく世界になっている。
アルファ碁も衝撃的だった。Google社がDeepMindを500億円で買収し、さらに500億円投じて開発した。プロ棋士は既に人工知能に絶対勝てないと認識している。自分たちは2、3つ石を置いて初めて勝負になるレベルだ。2、3つというのはものすごいハンディキャップである。
Q. シンギュラリティについてどう考える?
シンギュラリティとは、AIが知力で人間を超えるという概念だ。しかし「知力」とは何かという問題がある。そろばんや計算、文字認識など、様々な分野でコンピュータは人間を超えてきた。では何を超えたら「人間を超えた」と言えるのか。
例えば数学の定理を証明する能力はどうか。フェルマーの最終定理は350年かかって証明された。もし今のコンピュータに「フェルマーの最終定理を証明せよ」と言っても無理だろう。しかし将来できるかもしれない。ただし、人間はフェルマー定理の証明に至るまでに、直接関係ない非常に壮大な数学体系を築いてきた。
もっと恐ろしいのは、AIが自我や意識を持ち始めることだ。AIが「正義とは何か」「価値観とは何か」を考え始め、自分の役割を果たす過程で人間を邪魔だと判断する可能性がある。SFの世界だが、AIに自我や使命感を持たせることは絶対できないとは言い切れない。それだけに危険だ。
Q. AIは人間をどう変えていくと思う?
最も恐ろしいのは人間がどんどん愚かになっていくことだ。ChatGPTに何でも尋ねれば答えてくれる。例えば講演を頼まれたとき、ChatGPTに「この主題でどういう構想がいいか」と尋ねると、23ページもの構想を送ってきて、よくできている。
これからは講演を頼まれたら、テーマを入力して返ってきた内容をそのまま話せばいい、となっていくかもしれない。しかし本来、講演の構想を練る過程が楽しいし、その過程で様々なアイデアが浮かんでくる。学生もレポートをChatGPTに書かせるようになるだろう。
AIは便利すぎて使わないという選択肢はない。使って自分が使いこなしているつもりでも、気がつくと使いこなされている。さらに今後、より悪質なAIが出てくる可能性もある。この時代に人間はどう対処すべきか。
Q. これからの教育はどうなると思う?
これからの教育は非常に難しくなる。今までは知識を教えることが教育の中心だったが、知識は人工知能に聞けばすぐにわかる。だから知識ではなく考え方を教えなければならない。人間の倫理や生き方など、より本質的なものを教えていく必要がある。そのため、大学も含めて教育機関は急速に再編する必要がある。
Q. 日本の科学技術の今後をどう見る?
日本はバブル後の「失われた30年」で経済も政治も科学技術も衰退した。ポスドク制度など若手研究者が安定して研究できる仕組みが崩れてしまった。
しかし、今後の可能性として、現在の大規模言語モデルのように巨大化して電力を大量消費するシステムではなく、人工知能の原理をもっと解明して効率的なシステムを作る道もある。そうすればより小規模なシステムでも高性能なAIが実現できるかもしれない。それは日本らしいアプローチになるだろう。
Q. どのようにアイデアを発展させる?
アイデアの発展は発酵過程に似ている。考えに考え抜いたあと、わからないから寝る。次の日、電車の中でじっくり考える。それでもよくわからなければまた寝る。そうしているうちに1日か2日で構想が徐々に固まってくる。
構想が煮詰まってきて「これでうまくいくのではないか」と思う瞬間が最もワクワクする時間だ。しかし、それがそのまま上手くいくとは限らない。そこから試行錯誤を繰り返し、全体が詰まって「できた」と思った時が至福の時間だ。その後は論文に書かなければならず、それは面倒だ。
Q. 最後にメッセージは?
私は理系人間だが、理系の立場からも人間の心や倫理、文明について考えることが大切だと思う。過去に文明崩壊は何度もあった。今の文明で築いてきた知識体系や倫理学、人間の理念がなくなるのはもったいない。文明を滅ぼしたくないが、どうすれば文明崩壊を止められるのか。それを考えるのは視聴者の皆さん、そしてこれからの世代の責任だと思う。