PIVOT TALK BUSINESS
メディアのメディアとSNSプラットフォーム
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2024年11月6日

米国やロシアに駐在した経験を持ち、各国の”インナーサークル”事情に詳しい西村陽一氏がゲスト。 米国の仕組み化されたインナーサークルの実態とは。
ジャーナリスト西村陽一が語る 記者と官僚の30年、権力とメディアの緊張関係
ジャーナリズムとプラットフォーム、国家権力との関係性。東京大学大学院客員教授でジャーナリストの西村陽一氏が、タッカー・カールソンのプーチンインタビューからロシア・中国での取材経験、AI時代のメディアの課題まで語った。

Q. タッカー・カールソンのプーチンインタビューをどう評価する?
タッカー・カールソンの場合は、フォックスを離れて独立した時点で、プーチンからすれば自分の応援団である弁士だった。プーチンは西側に対するメッセージを出すための格好の改革好きジャーナリストとして彼を利用し、カールソン自身も自分のメディアを広げるためにプーチンを格好のテーマとして活用した。お互いの利益が合致した関係であり、トランプをバックにした二人がお互いを利用する形だった。
Q. カールソンのようなジャーナリストと通常の記者との違いは?
プーチンがウクライナ戦争を始めた直後、多くの人々はプーチンを「語るに値しない狂人」「治療の対象」と見なしていた。私はその見方には同意しない。プーチン自身の内在的なロジックや政治観、国家観、宗教観を徹底的に掘り下げて解説することは、プーチンを支持することとは全く異なる。その分析プロセスは必要だった。
一方、カールソンは相手の言うことをそのまま聞いて流すだけの玄関係でしかなかった。例えば「ロシアの駅は綺麗だ」というような発言は、典型的な旧ソ連のポチョムキン村のような演出を見抜けていない。
Q. ロシアでの取材経験について
私がロシアにいた当時、年金生活者や貧しい人々、農民の取材も行った。それは大統領選挙という一大イベントを取材する過程で、なぜロシア共産党がエリツィンに対して強い勢いを持っているのかを解析するためだった。共産党の背後にいる不満を募らせている老人たちや農民を取材した。
しかし当時は「開いた窓から飛び込んで自由を享受できる特権を、限られた時間で生かさなければならない」という思いが強く、そちらに目が向いていた。今になって落ち着いて振り返ると、少し違う見方ができるようになった。
Q. 中国での経験はどうだったか?
私が清華大学の高級訪問学者(客員教授)だった頃は、習近平政権のような言論弾圧やインターネット統制はまだ緩い時代だった。教え子たちは様々なルートを使ってニューヨークタイムズやBBC、CNNを視聴していたし、大学の教授たちも会議の場で中国共産党について様々な発言をすることが可能だった。
私がいたのはそういうことができた最後の時期だったと思う。当時、中国共産党の宣伝部長と会った際、彼は「私たちは力がないし、頭も悪いし、力量もないのでインターネットを統制することはできない」と言っていた。今の習近平政権はインターネット統制に絶大な自信を持っているだろう。
エリツィン時代のロシアの自由度を100とすると、当時の中国は1程度だったが、それでも共産党政権の中では学生や教授との自由な交流ができた時代の最後だったと思う。
Q. 現在の中国はどう変わったか?
現在の中国は「話語権」という自分たちのナラティブに非常に自信を持っているため、外部からの意見をあまり受け入れなくなった。かつては「学びたいから受け入れる」という姿勢だったが、今は「自分たちでやる」という姿勢に変わっている。
以前は中国共産党の深い情報を書いていた記者たちがいたが、現在はそういった記者たちは中国に入れなくなっている。そういう点での限界がある。
Q. 現代の権威主義国家の特徴は?
現代は「懐古のストラジー(戦略)」が世界に拡散する時代になった。トランプの「Make America Great Again」、プーチンの北朝鮮を大統領モデルとする「偉大なるロシアの復興」、習近平の「偉大なる中華民族の復興」など、米中露のような大国だけでなく、中東の一部の国々も同様のナラティブを掲げている。
こうした懐古の拡散の時代に必要なのは言論統制であり、SNSの悪用だ。懐古という一つのナラティブが過去としてあり、それを壊したくないというのが彼らの考えだ。そういう時代における相手との関係の結び方は究極的に難しい。
Q. プラットフォームを通じたナラティブの拡散をどう考えるか?
各国はそれぞれのプラットフォームを使って自国のナラティブを拡散している。トランプはTruth Social、プーチンはRT、習近平は中国系国営メディアを活用している。
本来、インターネットはフラットで自律分散的な協調の世界を体現するはずだったが、現在は国家の境界と同じようにブロック化している。インターネット空間が本来は国境と無縁のはずだったのに、今は完全に分断されている。
そのような状況下で、ロシアは自国の勢力圏外交、中国も同様に自国の勢力圏外交のためのナラティブを武器として使っている。これは我々が実践しているメディアとは全く異なる。彼らの構造と生理を理解しないと、「プーチンや習近平は相手にならないから研究する必要はない」となってしまえば、彼らの内部を研究する要素を失ってしまう。
Q. SNSの規制について
SNSの規制は簡単に言えることだが、それを推し進めれば中国式になってしまう。完全に規制すれば、中国のグレート・ファイアウォールと同じようになる。
そこで重要なのは、我々自身のリテラシーを高めることだ。規制だけで問題を解決することはできない。プラットフォームについても同様で、かつてのTwitterがトランプに対してアカウントを凍結し、その後イーロン・マスクが買収後に復活させたように、経営者の交代によってソーシャルメディアの方針が180度変わることもある。
このような世界に直面している時、プラットフォームに自制を求めつつ、自分たち自身も彼らに対して意見を述べていくことが必要だ。法律を作れば解決するという問題ではない。
Q. AI時代のメディアの課題は?
AI時代だからこそ、人間関係を構築していくことが重要だ。特に立場が違う人々、例えば記者と官僚、ビジネスパーソンと立場が異なる人々が、切磋琢磨する会話を超えて継続的な対話を重ねていくような関係を結ぶことが必要だ。
現在のAI時代の課題は、様々なジャーナリズムのコンテンツが大手AIの自社技術向上のための素材になっていることだ。かつては巨大プラットフォーマーがメディアのコンテンツを使って集客し、不要になったら捨てるというプロセスがあったが、AI時代ではコンテンツそのものを素材として収集している。
ニューヨークタイムズはOpenAIを訴訟し、アクセル・シュプリンガーやAP通信はコンテンツライセンス契約を結んだ。訴訟を起こすメディア、クローリングをブロックするメディア、お金を取って契約するメディア、自由に使わせるメディアなど、対応はバラバラだ。
こうした状況下で、自分たちが作ったコンテンツが単なるAIの材料になっていないか見直す必要がある。AIがすべての新聞記事を吸収して賢くなることが人類にとって良いという考えもあるが、そうなった場合、誰がコンテンツを作るのか。AI企業がすべてのコンテンツを吸収し尽くした後、コンテンツの提供者がいなくなれば、AIはどうするのか。
コンテンツ制作者とAI企業の間である程度のルールを作っておかないと、一方的な素材の供給者になってしまう。AIが全てをやってくれる便利さに甘んじていいのか、という問いも成立する。