PIVOT TALK BUSINESS
米国のインナーサークルは仕組化されている
(20)
4,985回視聴
2024年11月6日

米国やロシアに駐在した経験を持ち、各国の”インナーサークル”事情に詳しい西村陽一氏がゲスト。 米国の仕組み化されたインナーサークルの実態とは。
「インナーサークル」の実態と情報戦の裏側—西村陽一が語る国際舞台の真実
アメリカ、ロシア、中国—世界の権力中枢には誰もが知りたがる「インナーサークル」が存在する。しかし、その実態はどのようなものなのか。日本はどこまで入り込めているのか。東京大学大学院客員教授で元朝日新聞記者の西村陽一氏が、30年以上に渡る国際報道の経験から見えてきた権力の内側を語る。

Q. インナーサークルとは何か?実際に存在するのか?
インナーサークルとは、権力の中枢にある情報や人的ネットワークのことで、実際に存在します。それはカーテンを一枚ずつめくりながら中に進んでいくような構造になっています。一枚カーテンをめくると誰かがいて、もう一枚めくるとまた別の人がいる。そのように何重にも重なった層を持つ永遠の旅のようなものです。
特にアメリカの場合は非常にシステム化されています。メディアの世界ではニューヨークタイムズを筆頭に、ワシントンポスト、ウォールストリートジャーナル、CNNなどのメジャーメディアによる強固なシステムがあり、外国のメディアはそこに容易に入れません。
一方、ロシアはソ連崩壊によって共産党というインナーサークルが崩壊し、エリツィンという新しい指導者とその取り巻き、さらに新興財閥やマフィアなどが新たなインナーサークルを形成しました。しかし、それは常に流動的でした。
中国の場合は中国共産党を中心とする階層構造があり、アメリカに似た固定的なインナーサークルが存在します。
Q. ビジネスパーソンがインナーサークルについて知っておくべき理由は?
ビジネスパーソンにとって、「情報がどこにあるか」を探る嗅覚や触覚は重要です。特に組織が一つの方向に向かい、情報が一色に染まっていく中で、主流とは異なる考えを持つ人々を見つける力は必須となります。
また、インナーサークルに近づいていく過程で最も注意すべきなのは、相手と一体化してしまうことです。奥へ奥へと進んでいくうちに、インナーサークルの一員として身内意識を持ってしまい、そこに安住してしまう罠があります。これはメディアの世界でも日本の政治でもよく見られる現象であり、常に一線を引く姿勢が必要です。
Q. アメリカのインナーサークルにはどのように接近するのか?
アメリカでは「オフレコ」という情報提供の仕組みが徹底されています。私がワシントン支局にいた時、イラク戦争直前に米政府高官が数人の記者を招いて朝食会を開き「今日はオフレコでお願いします」と言いました。オフレコとは、聞いたことを書いてはいけないという条件です。
この時、同席したアメリカ人女性記者は「オフレコは嫌だ」と言って席を立ちました。彼女は情報にアクセスする権利よりも、報道の自由を選んだのです。一方、私はワシントンにいる日本人記者として、この貴重な機会を逃すわけにはいかないと考え、条件を受け入れて席に残りました。
アメリカのインナーサークルに入るには、時に妥協も必要です。しかし、単に一度きりの接触ではなく、継続的な対話と関係構築が重要です。
Q. ロシアのインナーサークルはどう変化したのか?
私がロシアで体験したエリツィン時代は、まさに「自由の機会の窓」が一瞬開いた時代でした。その窓に飛び込んだ私は、通常なら接触不可能な戦略ロケット軍の将軍や、エネルギー省高官、実業家など、様々な人々と接触できました。
しかし、当時の私が見ていたのはロシアのほんの一部に過ぎませんでした。圧倒的多数のロシア人は、混乱の中で自分がいかに無力で貧しく、屈辱にさらされているかという思いを募らせていました。その不満の蓄積が、後のプーチンという独裁者への支持につながったのです。
当時、すでに多くのロシア市民は「秩序か民主化か」と問われれば秩序を選び、「危機解決のために独裁的状況が必要か」と問われれば4〜5割が「イエス」と答えていました。エリツィン時代の混乱が例外的だと思っていましたが、実はその混乱が今のプーチン体制に直接つながっているのです。
Q. トランプ政権の登場はインナーサークルにどのような影響を与えたか?
トランプはまさにインナーサークルの外から入ってきて、既存のエリートシステムを破壊しました。特にリベラルエリートたちを徹底的に攻撃し、同様にイーロン・マスクもワシントンではアウトサイダーでしたが、今やインサイダーになりつつあります。
トランプは原因というより結果です。アメリカの様々な文化戦争や、エリートに対する反感、経済格差、宗教など、複合的な社会現象の結果として現れました。そして、ニューヨークタイムズなどのエリートメディアはそうした社会変動を予測できませんでした。
このようにインナーサークルの住人たちが予測できない変化が起き、エリートのシステムが破壊される中、トランプが台頭し、カーストのアウトサイダーであるイーロン・マスクが応援するという構図が生まれたのです。
Q. 現代は「教習の拡散時代」とは何を意味するか?
21世紀は「教習の拡散」の時代となっています。トランプの「偉大なるアメリカ」、プーチンの「偉大なるロシアの復興」、習近平の「偉大なる中華民族の復興」という各国の教習が拡散しています。
こうした中で、インターネットという本来は国境とは無縁のはずだった空間が、今や分断化・ブロック化しています。各国がSNSを通じて自国のストーリーを流し、西側の民主主義や人権とは異なる世界観を提示する中で、情報戦は複雑化しています。
Q. 権力と情報の関係をどう捉えるべきか?
記者と官僚、つまり取材する側と取材される側、事実を暴く側と隠す側は本来、利益相反の緊張関係にあります。官僚は記者を誘導し物事を隠そうとする一方、記者はその隠された物事を暴こうとします。
したがって、記者と官僚は友達になれないし、なるべきではない関係です。それにも関わらず、長期間に渡って交流が続くケースもあります。この複雑な関係性を理解することが、情報を正しく読み解く鍵となります。
インナーサークルという権力の中枢に近づくほど、その誘惑に屈せず一線を画すことが、真実を見抜くために不可欠なのです。