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栗山英樹 チームを世界一に導く監督論:前編
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2024年10月5日

2023年にWBCで侍ジャパンを世界一に導いた栗山英樹氏。監督としてのコミュニケーション術、采配の難しさについて、スポーツライターの木崎伸也氏がインタビューした。 <ゲスト>栗山英樹|北海道日本ハムファイターズ チーフ・ベースボール・オフィサー 1961年、東京都生まれ。 東京学芸大学を経て198...
逆算の神と呼ばれる栗山英樹に聞く「世界一になります」と言い切る理由
スポーツの世界での「勝つ」ということ。特に野球において、監督が持つべき思考とは何か。WBC2023で日本代表を優勝に導いた栗山英樹氏は、「逆算の神」と呼ばれる独自の理論を持っている。彼がどのように選手と向き合い、どのような思考で采配を振るったのか。その核心に迫る。

Q. 「世界一になります」と言い切った意図は?
WBCの決勝前、栗山監督はロッカールームでスピーチした後、最後に「世界一になります」と言い切りました。この言葉には、どんな意図があったのでしょうか?
私も正直不安でした。しかし大会を通じて、「優勝しよう」という言い方には、どこか失敗した時の逃げ道を作ってしまう感覚があることに気づきました。選手が前に進むためには、断定してあげる必要があると思ったのです。
「世界一になる」という前提で逆算して準備をしました。結果的にならないかもしれませんが、「世界一になろう」と「世界一になります」では全く違います。選手も「なろう」と言われれば「なれるかもしれない」と思うでしょうが、「なります」と言われれば、そのために自分は何をすべきかがはっきりします。
Q. 「勝ちやすい形を見つける」とはどういう意味ですか?
監督の仕事として「勝ちやすい形を見つけること」を重視されていますが、具体的にはどういうことでしょうか?
勝負事は全て逆算だと思います。よく「やりたい野球は何ですか?」と聞かれますが、いる選手の顔ぶれや能力で最も優勝しやすい形を見つけるのが監督の仕事です。選手が片足上げることの手伝いが監督の仕事だと思っています。
自分のやりたい野球よりも、このメンバーならこの形なら最後まで行けるだろうというイメージを持つことが重要です。ファイターズの強い時期には約40種類の勝ちパターンがありました。
例えばWBC決勝では、最後の9回に大谷選手、8回にダルビッシュ投手を投げさせるという形を作るために、そこに向かって準備していきました。
Q. 「逆算」の具体的なポイントは?
「逆算の神」と呼ばれていますが、実際にどのように逆算していくのでしょうか?
例えば「こういう結果を残したい」と思って逆算していくと、主力選手たちがどう活躍してどういうメンバー構成になるかという点が見えてきます。しかし、チーム編成の初期段階では「なんとなくこんな感じ」という曖昧な思考は避けます。
私が大切にしているのは、具体的な能力要素です。「シュートのスピードだけは絶対に活かしたい」とか「源田選手の守備力は絶対に必要」といった明確な要素を並べて構成していきます。
ピッチャーの場合は勝っている状況を想定して、勝ちパターンでは絶対に崩れない後ろの形を考えます。逆にビハインドになった時には、点を取るためにはどういうメンバーが必要かを考慮します。WBCでは常にあらゆる状況に対応できるよう意識していました。
Q. 短期決戦での「9回」のマネジメントについて教えてください
プロリーグと違って短期決戦のWBCでは、9回というゲームをどのように捉えていましたか?
WBCの前に、短期決戦に強い高校野球や大学、社会人野球の指導者からアドバイスをもらいました。横浜高校の小倉監督は「最初の2打席は捨ててもいい」という考え方を持っていました。
興味深かったのは、小倉監督が「9回って長いですよ」と言ったことです。私の経験では、負ける時は9回がものすごく早く感じるんです。でも9回を「長い」と思うとバタバタしづらくなる。
例えばWBC準決勝では3-0でビハインドの状況でも、「野球は9回あるから必ずチャンスがある」という心持ちで比較的冷静でいられました。プロもアマも関係なく、人生をかけて野球で勝ちに行っている人たちの知恵は非常に価値があります。
Q. 監督として「差し込まれない」とはどういう意味ですか?
「差し込まれない」という言葉をよく使われますが、バッティングではなく監督としての文脈でどういう意味なのでしょうか?
プロ野球の短期決戦では、クライマックスシリーズのファーストステージに負けたら終わりという厳しさがあります。WBCは準々決勝からトーナメント形式になることがわかっていたので、過去の経験から学びました。
私が「差し込まれる」と言っているのは、打つべき手が遅れて判断が5〜10秒遅れてしまうことです。例えば選手を交代させるタイミングを逃したり、後から交代させたりすると、相手ベンチは既に準備していて優位に立ってしまいます。
そうならないために、あらゆるケースを徹底的にシミュレーションします。例えばタイブレイクになった時のことも細かく考えていました。ワンアウト三塁で近藤選手、ツーアウトで大谷選手が控えている状況での判断など、様々な状況を想定して準備していました。
Q. 「迷ったら動け」という決断の基準について
重要な場面での決断について、「迷ったら動け」と決めていたそうですが、この考え方について詳しく教えてください。
WBCに向けて唯一決めていたのは「迷ったら動け」ということです。どんなに準備していても、必ず迷う瞬間が来ます。50-50の状況は必ず訪れるので、そういう時は動く方を選ぶと決めていました。
例えば準決勝で3-3になった時、山本由伸投手からの交代を考えました。まだ2本しかヒットを打たれていなかったので、1本に1人のペースでピッチャーを変えていいのかと一瞬迷いましたが、「迷ったら動く」と決めていたので踏み出しました。
監督の仕事は考える時間がないことです。判断の時間は本当に2〜3秒しかありません。頭に瞬間的に様々なことが駆け巡りますが、考え込んでしまうと止まってしまう。だから迷ったら動くというシンプルな原則が重要なのです。
Q. コーチとのコミュニケーションはどのようにしていますか?
コーチに対してもかなり配慮したコミュニケーションをとっているようですが、どのような方針でコーチと接していますか?
WBCでもファイターズ時代も、選手も指導者もスタッフも「自分のチーム」だと思ってほしかったのです。「言われてやる」のではなく「自分の意思でやる」方が強さがあり、確信を持って前に進めると思っています。
私は、コーチにも「こうした方がいいかもね」という遠回しな言い方をすることが多いです。自分の考えもありますが、同じ考えならコーチが「こうします」と言ってくれた方がいいと思います。
WBCでは、あるコーチから「監督って最初から全部自分で決めてたでしょ」と言われましたが、実際には私が決めていても、コーチから「この選手を選びますか?」「先行でいきますか?」と提案してもらう形が理想的です。信頼関係があるからこそ、意見が違う時にはぶつかり合えるのです。
Q. 選手に謝ることについてどう考えていますか?
WBCのメキシコ戦で山本投手に「ごめん、流れが悪いところで投げさせて」と謝ったり、他にも選手に謝るシーンが印象的でした。これについてどうお考えですか?
監督に対する威厳を作らなければいけないという考え方も理解できますが、今の時代は正直である方が信用を得られると思っています。私はもともと取材者でした。選手に頭を下げて「取材をお願いします」と言っていた人間が、監督になったからといきなり「お前らこうしろ」というのはおかしな話です。
スポーツでは負けた理由を選手のせいにするのは簡単です。「あいつが打たない」「あいつがエラーした」など。でも私は「負けた責任を選手にしない」と決めていました。結果が出ない時は謝る余裕が私にはあります。
選手への敬意を持って接していることを示すためでもありますし、選手も私が謝ることで次に進みやすくなるのだと思います。