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サイバーセキュリティの地政学は日本から学べ
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2024年9月11日

軍事評論家の小泉悠氏と共著『サイバースペースの地政学』を執筆したサイバーセキュリティの専門家、小宮山功一朗氏が登場。データセンターと地政学の深い関係とは。
見えないインターネットの舞台裏:海底ケーブルからデータセンターまで
インターネットは私たちの生活に欠かせないものとなった。しかし、その物理的な仕組みについて知っている人は少ない。空中を飛び交うイメージがあるインターネットだが、実際には海底ケーブルやデータセンターといった物理的なインフラに支えられている。これらのインフラは国家安全保障とも密接に関わっている。今回は、インターネットの舞台裏について詳しく解説する。

Q. テロリストが引材師を攻撃したら大変なことになるのか?
確かに大変なことになるが、そのような事態が起こる前に、より重要なインフラが標的になる可能性が高い。例えばデータセンターやサイバースペースのインフラなどだ。
戦争が起こると、前線と後方の間で通信経路が必要となる。太平洋戦争以前の日清戦争、日露戦争の時代から海底ケーブルは存在していた。例えば、上海にいる日本人と東京にいる日本人の間で通信できなければ、海外にいる日本人の生命や財産を守ることができない。そのため、上海沖の海底ケーブルを維持することは、単なるインフラ維持以上に、海外にいる日本人の命を守るという重大な意味を持つ。
Q. 現代の海底ケーブルの状況はどうなっているのか?
現在、世界には574本の海底ケーブルが存在するが、日本は自前でケーブルを複合・修理する船を持っている数少ない国の一つだ。また、光ファイバーケーブルや中継機など、必要な部品のほとんどを国内生産できる競争力を持っている。
対照的に、台湾などはリスクの高い状況にある。ただし、台湾は無線通信など、ケーブル以外の通信手段も備えており、中国からの攻撃に備えて高い危機意識を持っている。
インターネットは空中を飛んでいるようなイメージがあるが、実際には物理的なインフラに支えられている。日本はその面で非常に強い体力を持っている。
Q. なぜ日本はインターネットインフラに強いのか?
これは地政学的な要因が大きい。日本はユーラシア大陸の最東端に位置し、さらにその東側には太平洋しかない。そのため、太平洋の海底ケーブルを日本が管理することが地理的に最も合理的な選択となり、管理技術も自然と発展してきた。
ただし、グローバルなサイバー空間で考えると、東京は人口が多い都市であっても、全体の中では「地方都市の一つ」に過ぎない。サイバー空間の中心はアメリカのワシントンDC近郊の北バージニア州やシリコンバレーにあり、日本は中心から遠い「端っこ」に位置していることを自覚する必要がある。
Q. 中国やロシアはインターネットインフラをどう管理しているのか?
中国とロシアでは能力に大きな差がある。中国は海底ケーブルの敷設やデータセンターの建設、半導体生産などのIT自給率が非常に高い。国内に大型のデータセンターを多数持ち、「中国人のデータは中国国内に置くべき」という方針を世界で最初に打ち出した。これにより、Appleも中国国内に巨大なデータセンターを建設し、中国のiPhoneユーザーのデータを中国国内に保管している。
一方、ロシアはハードウェアもソフトウェアも世界トップレベルの技術を持っておらず、現在かなり苦戦している状況だ。
Q. 日本のインターネットインフラを支えているのは誰か?
NTTやKDDIなどの通信会社が、企業の利益を超えて日本のインフラを支えている。現場で働く人々は会社の利益よりも、「安定した通信をみんなが使えるようにする」ことを第一に考えている。
例えば、2024年のお正月に能登半島で大きな地震が発生した際、NTTの船の上にKDDIの携帯電話の移動基地局を乗せて能登沖まで船を出し、NTTの携帯電話ユーザーもauの携帯電話ユーザーも通信できるよう協力した。
これはNTTもKDDIも元をたどれば電信電話公社という同じ組織から分かれたという歴史的背景もあるだろう。ただし、同じ話の中にソフトバンクが出てこないことから、旧電電公社系とそれ以外の企業との間には文化的な違いがあるのかもしれない。
Q. 今後のインターネットインフラの課題は何か?
現場の声によれば、企業単独の力では厳しい局面になってきている。以前は、アメリカと日本をつなぐ海底ケーブルはAT&TとKDDやNTTが資金を出し合う形で敷設していた。
しかし現在は、MetaやGoogle(Alphabet)といった巨大IT企業が主導してケーブルを敷設し、日本の通信会社は工事を請け負うだけになりつつある。日本の通信会社も大企業だが、ケーブル敷設のような大規模投資は厳しくなっている。
これは国家安全保障の観点からリスクと言える。海底ケーブルが一民間企業の所有物となり、その企業の意思決定次第でインフラの運命が左右される状況は危うい。
Q. 今後のインターネット社会をどう考えるべきか?
我々は今、データという新しい資源を奪い合う時代に生きている。「データは21世紀の石油だ」という表現は間違っていない。データセンターが増えることは、そこに富があることを意味し、データセンターが多い国は国際競争上強い立場になる。
AIの発展により、必要なデータ処理量は倍増し、データセンターの重要性はさらに高まる。日本としては、どうやってより多くのデータを国内に留め、海外からも預けてもらえるかを考える必要がある。
今後は民主主義国家と権威主義国家、そしてグローバルなテック企業という三つ巴の戦いになるだろう。我々は誰にデータを預けたいと思うか?Apple、Meta、Microsoft、あるいは日本政府、どちらがあなたのデータを安全に、確実に、使いやすく管理してくれると思うか?この問いの答えが、次の時代の覇者を決めることになる。
日本はこれまで「データは自由に流通すべき」という立場をとってきたが、少なくとも安全保障に関わるデータや健康・医療に関するデータは、日本国内で管理すべき時代になってきている。
インターネットを物理的に理解することで、その見方が変わる。ネットは空を飛んでいるように見えるが、実際には物理的なインフラに支えられていることを忘れてはならない。