PIVOT TALK BUSINESS
少年ジャンプ+ デジタル大革命の法則
(26)
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2024年8月29日

『SPY×FAMILY』や『チェンソーマン』など数多くのヒット作を手がけた漫画編集者・林士平氏が登場。紙からデジタルへと変化する時代にヒットを生み出す漫画編集者の思考とは。 <ゲスト> 林 士平|漫画編集者 2006年に集英社に入社。2018年に少年ジャンプ+』編集部に異動。 過去に『青の祓魔師』...
日本最大のヒットメーカーが語る! 漫画の未来と世界戦略
漫画編集者・林士平氏が「スパイファミリー」「チェンソーマン」など数々のヒット作を世に送り出してきた経験から、デジタル時代の漫画ビジネスと才能発掘の秘訣を語る。
Q. ジャンププラスはどのような戦略で成功していますか?
ジャンププラスは現在、幸せな作家と楽しく働く編集部員が多く在籍する編集部になっています。メディアの運用・運営を継続することには難しさがありますが、常に一定以上の危機感を持ち、より面白いものを作ろうとする姿勢が続いています。
漫画を無料で読める戦略は間違っていません。広告であり、顧客を招き込む場所でもあるからです。完全に無料というわけでもなく、端末に広告を表示し、その広告費を還元しています。最初のお客さんを獲得する手段として、読者にとってもプラスであり、作家にとってもプラスです。
例えば100万人が読んで10万人が購入してくれれば十分な収益になるので、基本的には無料で読める戦略に問題はありません。各作品ごとに何話目まで無料にするのか、ポイント制をどう活用するかなどは、編集部でテストしながら数字を分析し、議論しています。
Q. デジタル化によって漫画の読まれ方はどう変わりましたか?
私が中高生の頃は周りがみんな漫画雑誌を当たり前に読んでいる時代でしたが、大学生から社会人になると漫画雑誌を読む人が周りから一気に減りました。紙の雑誌を買う人が減ると、新規作家の作品が広がるチャンスも減ります。
今では、特にオタクでなくても漫画を読むことが当たり前の生活の一部になりつつあります。漫画に触れる心理的ハードルが可能な限り下がった状態で、出版者としてはとても感謝しています。
以前は紙の月刊誌で働いていた頃、新作の読み切りを増刊号で発表しても反応がほとんどありませんでした。今ではそれほど読まれない作品でもコメントがついたり、SNSで反応を見ることができます。ネガティブな反応もありますが、全く反応がなかった頃に比べれば良いと思います。何が面白くないと思われているのか、どうして多くの人に刺さらないのかを知ることができ、作家と話し合って改善する余地があるからです。無視されることが一番辛いのです。
Q. 「ルックバック」のような作品が全て無料公開された理由は?
ジャンププラスは基本的に無料なので、コミックスで後々出版すれば編集部にも作家にも還元があります。多くの人に読まれることを最優先にしています。143ページの読み切りというのはレアでしたが、編集部から特に疑問を抱かれることもありませんでした。
この作品が今ちょうど劇場アニメーションになり、1時間弱の尺で映画として興行収入10億円を超える作品になりました。これまでは2時間、少なくとも90分なければ映画にならないと思われていましたが、100分前後でも観客が満足する可能性があります。150ページ前後の作品でも映画になり得るという新しい尺観を世界に提示できるかもしれません。
Q. 漫画家の才能とは何だと思いますか?
作るものと作家の特質によって適切な才能は異なります。藤本タツキさんには独自の成長の仕方があり、他の作家にはまた別の成長の仕方があります。全ての人が幼い頃から頭の中に雑誌を想像しなければならないわけではありません。
例えば「キングダム」の原泰久さんはサラリーマンを経験してから漫画家になりました。高校卒業後すぐに漫画家になるべきなのかと言えば、その人がそうなりたいのであればそれを選ぶべきです。漫画家の仕事には一つの決まったルートはないと思います。お笑い芸人やアイドルも同様で、同じルートをたどれば必ず成功するという道筋はあまりないのではないでしょうか。
Q. 時代によって漫画の面白さは変わりますか?
私が幼い頃に読んだ漫画で時代に左右されない名作は、今新連載だったとしてもきっと売れると思います。スラムダンクなどは今連載が始まっても大ヒットするでしょう。面白いものは時代を超えて受け入れられる可能性が高いと思います。
もちろん、現在活躍している作家たちは今の時代の読者を考えて作品を書いていますが、本質的に面白い漫画はいつの時代も面白いものです。スラムダンクは私が小学校高学年から中学生の頃に連載されていて夢中で読んでいましたが、今映画化されても大ヒットしました。人間の感覚はそれほど変わらないのかもしれません。
Q. 「漫画アパートメント」プロジェクトについて教えてください
約20年近く漫画編集者として働き、多くの才能ある作家が漫画の夢を諦める瞬間を見てきました。彼らが諦める時は、大体卒業して就職する時や、親からの援助が終わり生活のために定期的な仕事に就く時です。
そうすると、年に3〜4本漫画を描いていた人が年に1本も描けなくなります。賞を取っていたり読み切りを発表していたりしても、次の作品の発表がなく連載までたどり着かずに連絡が途絶えてしまう人も多くいます。「あと1年漫画に集中できたら、プロになれたかもしれない」と感じることがあります。
そういう人たちをサポートできる施設や場所があればいいと考え、サイバーエージェントと協力して企画を進めています。1年なのか2年なのか3年なのか、漫画だけに集中できる環境を用意したら、そういう才能がどのように世の中に広がるのかを見てみたいと思っています。
またコロナ禍以前は、アシスタントが集まって漫画の話やアニメの話、雑談をしたり、連載作家の技を見られる場所がありました。コロナ中に全員リモートに切り替わり、そうした刺激を与え合う場が減ってしまいました。人が集まることで生まれる刺激には確実にポジティブなエネルギーがあると思っています。
Q. 日本の漫画は世界でどう受け入れられていますか?
日本的でなければ世界に届かないとは全く思いません。読者が反応して面白いと感じるものは、正しく多くの人に届くと思います。日本の読者は若い作品もちゃんと見つけて育ててくれます。
現在、日本の印税よりも海外の印税の方が高い作家も多くいます。表現の自由を大事にして、収益を正しく作家や新人に還元し続けられたらいいと思います。多様な作品があることは、読者にとっても面白いことではないでしょうか。