
東洋医学は本当に効くのか
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2024年8月22日
話題書『東洋医学はなぜ効くのか』の著者で島根大学医学部附属病院教授の大野智氏をゲストに迎え、「東洋医学とは何か」に迫る。 <ゲスト> 大野智|島根大学医学部附属病院 教授 博士(医学)。東洋医学を含む統合医療・補完代替療法をテーマに研究。 島根医科大学、島根医科大学大学院修了後、大阪大学特任准教授...
東洋医学はなぜ効くのか?島根大学教授が解説する東洋医学と西洋医学の統合
東洋医学と西洋医学は対立概念ではなく、お互いの良いところを補い合う関係にある。近年、鍼灸や漢方などの東洋医学的アプローチが科学的に検証されつつあり、医療の現場でも徐々に取り入れられている。島根大学の大野智教授に東洋医学の効果やメカニズム、適切な向き合い方について聞いた。
Q. 東洋医学と西洋医学の関係性はどのようなものですか?
東洋医学と西洋医学は対立概念ではなく、互いに補完し合う関係です。西洋医学は要素還元的なアプローチで病気の原因を特定し治療する一方、東洋医学は体全体のバランスを整えることで自然治癒力を高める考え方です。
2012年には厚生労働省が「統合医療」という概念を提唱し、両者の良いところを活かす取り組みが始まりました。統合医療とは、西洋医学と東洋医学、標準的な治療と補完代替療法などが対立するものではなく、お互いに良いところを補い合いながら行くという考え方です。
実際に漢方や鍼灸の臨床試験は2000年頃から右肩上がりに増加しています。特にアメリカでは国立補完代替医療センターが設立され、年間3〜4億ドルの研究費が投じられています。日本でも2001年から医学部でのモデルコアカリキュラムに漢方についての項目が加わり、現在では全国の医学部で漢方の講義が行われるようになりました。
Q. 鍼灸はどのようなメカニズムで効果を発揮するのですか?
鍼灸の効果については、いくつかの科学的メカニズムが解明されつつあります。一つの重要な概念は「炎症のコントロール」です。炎症は本来、体を外敵から守るための免疫反応ですが、長期間続くと正常な細胞にもダメージを与え、認知症や動脈硬化などの原因になることがあります。
東洋医学では、体内のバランスが崩れることで症状が出るという考え方があります。鍼灸はこのバランスを整えることで、体の自然治癒力を高める効果があると考えられています。
また、痛みの伝達経路を遮断する「ゲートコントロール理論」や、脳内物質の分泌促進なども効果の一因として研究されています。さらに、必ずしも強い刺激が必要なわけではなく、皮膚への微弱な刺激だけでも生体反応が起きることが最近の研究で分かってきました。
Q. 漢方薬はどのような特徴がありますか?
漢方薬の特徴は、複数の成分が混合されていることで、体が必要な成分を選んで取り入れる点にあります。例えば「大建中湯」という漢方薬は、便秘の人が飲むとお通じが良くなり、下痢気味の人が飲むと下痢が収まるという、一見矛盾するような効果を示すことがあります。
これは漢方薬が混合物であり、体に足りない成分や過剰な成分をうまく調整して体のバランスを整えるからだと考えられています。最近の研究では、腸内細菌が漢方薬の生薬と相互作用することで様々な成分が生成され、効果を発揮するという知見も出てきています。
現在日本で使われている漢方薬の中には、ランダム化比較試験といった近代的な臨床試験を経ていないものもありますが、中国から伝わった伝統的な古典に基づいて適応が決められているものもあります。現在は漢方薬についても西洋医学的な視点で科学的検証が進められています。
Q. 補完代替療法を選ぶ際に気をつけるべき点は何ですか?
補完代替療法を選ぶ際には、主に三つの点に注意が必要です。
1. 健康被害:食品だから体に安全というわけではありません。例えば、ベニコウジ含有サプリメントによる健康被害の例もあります。
2. 経済的負担:標準的な治療ではないものは健康保険の対象外になるため、経済的負担が大きくなります。長期間使用する際には負担を感じるようであれば、使用を中止する選択肢も考慮すべきです。
3. 機会損失:アメリカの研究では、補完代替療法を使用している患者は標準的な治療の開始が遅れる傾向があり、結果として生存率が低かったという報告があります。これは補完代替療法自体が寿命を縮めたのではなく、適切なタイミングで適切な治療を受けられなかったことが原因とされています。
補完代替療法は病気を治すというより、QOL(生活の質)を高めるためのものと考えるとよいでしょう。厚生労働省も統合医療の位置づけとして、西洋医学が前提であり、様々な療法を組み合わせることで患者のQOLを高めるものと定義しています。
Q. 医療情報を見極めるためのポイントは何ですか?
医療情報を見極めるためには、以下のポイントを意識することが大切です。
1. 人間の頭は騙されやすいということを常に意識する:目の前にある情報をそのまま鵜呑みにせず、「自分は騙されているかもしれない」というブレーキを持つことが重要です。
2. サンタ論法に気をつける:「飲んだ、良くなった、だから効いた」という単純な因果関係の思い込みに注意しましょう。人間は起きた事象に対して理由や原因を見出したがる傾向があります。
3. 信頼できる相談窓口を知っておく:自分で調べると情報の沼にはまりやすいので、信頼できる相談先を知っておくことが大切です。主治医、看護師、薬剤師、栄養士、薬局などが相談窓口になります。図書館の司書さんも医療情報を探す手助けをしてくれます。
日本人のヘルスリテラシー(健康・医療情報を入手・理解・活用する能力)は世界的に見て低いとされています。特に「病気や不安があるときに相談できる窓口を知っている」と答えた人の割合は、EUでは半数以上であるのに対し、日本では1割程度しかいません。
Q. がん患者が標準治療と向き合う際の心理的課題は何ですか?
がん患者が標準治療と向き合う際には、いくつかの心理的課題があります。まず「標準治療」という言葉自体が誤解を招きやすい点です。医療以外の分野では「標準」は「最低限」「基本」という意味合いで使われることが多いため、患者は「標準治療」を「最低限の治療」と誤解し、何かオプションがあるはずだと考えてしまいがちです。
また、がんという命に関わる病気と診断された場合、人は冷静な判断ができなくなります。「死にたくない」という思いから様々な情報を探し求め、時に非合理な選択をしてしまうことがあります。
さらに、医師からのインフォームドコンセントの際に、副作用や合併症について詳しく説明されることで不安が増幅されることもあります。患者は「嘘でもいいから大丈夫と言ってほしい」と思うこともありますが、医師は科学者として誠実であろうとすればするほど、断定的な表現を避けてしまいます。
一方で、補完代替療法を提供する側は断定的な表現を使うことが多いため、患者はそちらに心を動かされることがあります。重要なのは、不安な気持ちを情報で埋めようとしないことです。「不安です」という気持ちをそのまま医療者に伝えることが第一歩となります。