EXTREME SCIENCE
今年の猛暑 もう限界だ
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2024年8月15日

今回のテーマは「気候変動・地球に何が起こるのか?」。 東京大学教授の江守正多氏をゲストに、「気候変動とは何か」、「今後、何が起こるのか?」、「進めるべき対策とは何か」を議論。 <ゲスト> 江守正多|気候科学者 東京大学未来ビジョン研究センター教授。博士(学術)。 東京大学教養学部、大学院総合文化研...
「我慢の物語」から転換せよ―気候変動問題の本当の解決策とは
温暖化の現状から原発や再生可能エネルギーの議論まで、東京大学未来ビジョン研究センター教授・江守正多氏が語る気候変動問題の最前線。
Q. 気候変動について科学的には議論の余地がないと言われますが、実際はどうなのでしょうか?
人間活動が気候変動の主な原因であることは疑う余地がありません。IPCCの最新報告書でも明確に示されています。ただ、対策については様々な立場や価値観があるため、議論が必要な点も多くあります。
気候変動の現象そのものについては科学的に決着がついていますが、政治とサイエンスが最も交差する領域であるため、常に論争が起きる印象があります。特にアメリカでは保守とリベラルに社会が分断され、フロリダ州などでは州知事が気候変動対策に否定的な姿勢を示しています。そのため、気候科学者が「ヘイトメール」を受けることもあります。
Q. グレタ・トゥーンベリさんの活動をどう評価していますか?
グレタさんの登場は、世代間の公平性という観点から必然的な出来事でした。彼女が主導した学校ストライキが世界中に広がった現象は非常に重要です。
特に注目すべきは、彼女が船で大西洋を横断した行動の真の意味です。これは「皆さんも飛行機に乗るのを我慢してください」というメッセージではなく、「今の世界で持続可能に生きるのは不可能」という問題提起でした。つまり、個人の我慢や突発的な行動を促すのではなく、システム自体を変えるべきだという主張なのです。
気候変動に対してアクションを起こしたい人は、自分一人分のCO2削減に満足するのではなく、システムをどう変えていくかというメッセージになるよう行動すべきでしょう。
Q. 「ストップオイル」などの過激な抗議活動についてはどう思いますか?
美術館の絵画に物を投げるなどの行為が反感を買うのは当然ですが、彼らがなぜそのような行動に出るのかを考える必要があります。
グレタさんの言葉「Our House is on Fire(私たちの家が燃えている)」が示すように、もし本当にビルが燃えているのに誰も気づいていないとしたら、気づいた人はどんな手段を使っても知らせようとするでしょう。彼らは多くの人よりも気候科学のことをよく知った上で、何かを伝えようとしています。その気持ちにもっと目を向けるべきではないでしょうか。
日本では政治参加の手段としての抗議行動自体があまり認められていない傾向がありますが、彼らの行動の背景にある危機感は理解する必要があります。
Q. なぜ日本では気候変動対策が「我慢」と結びつけられることが多いのでしょうか?
日本と世界では気候変動対策への認識に大きな違いがあります。ある調査では「気候変動対策は生活の質を脅かすものだ」と考える人の割合が、世界では26.7%なのに対し、日本では60%に上ります。
これは日本では気候変動対策が「エアコンの使用を控える」「車に乗るのを我慢する」など、快適な生活を犠牲にするものと捉えられているためです。テレビ番組でも「今日は少し節約しましょう」「クーラーの温度は少し上げましょう」といった「我慢のナラティブ」で伝えられることが多いのが現状です。
しかし実際には、再生可能エネルギーの普及によって化石燃料の購入量が減り、経済的にもプラスになる面があります。この認識転換が日本では十分進んでいないのです。
Q. 再生可能エネルギーについて、メガソーラーの乱開発など問題もあると言われますが?
確かに初期の買取価格が高かった時期に、環境アセスメントなどの制度が整わないまま、様々な業者が参入して問題が起きた面はありました。ただ、これは業者だけの問題ではなく、地方で土地を持っている人がブローカーに売却するといった構造的な問題もあります。
重要なのは、乱開発から、地域の人々が合意でき、利益も還元される形での再生可能エネルギー開発へと転換していくことです。生物多様性の観点からも、気候変動が進むこと自体が生態系にダメージを与えるため、再生可能エネルギーの推進と生態系保全を両立させる必要があります。
例えば、風力発電でコウモリへの影響が懸念されるなど、環境負荷はゼロにはなりませんが、設置場所の選定や代替生息地の確保など、上手に対応していくしかないでしょう。
Q. 電気自動車への移行は本当に環境に良いのでしょうか?
電気自動車については様々な議論がありますが、最終的に排出ゼロを目指すなら、再生可能エネルギーで発電した電気で走る電気自動車が必要になります。
現状では、普通の系統から電気を買っても、長く乗り続ければガソリン車よりもライフサイクルでのCO2排出量は少なくなります。また、電気自動車を購入した後も、電力の脱炭素化が進めば、さらに環境負荷は低減していきます。
水素という選択肢もありますが、都心部に水素ステーションを作ることは難しいため、電気自動車の方が現実的です。一方で、中国のEVメーカーが東南アジアなど日本車が強かった市場に進出している現状もあり、産業政策としての側面も考慮する必要があります。
Q. 原子力発電についてはどのようにお考えですか?
原子力発電については、賛成派と反対派の対立がデータの問題ではなく、価値観の部分で大きいと思います。反対派は福島の事故もあり、電力業界や政府への不信感が強いため、賛成できない立場です。
一方で、既に投資済みの停止中の原発については、規制庁の審査を通り、住民合意が得られれば再稼働してもよいのではないかという考えもあります。
ただし、世代間の公平性の観点から見ると、放射性廃棄物の最終処分問題が解決していない点は大きな課題です。文献調査が始まっている自治体はあるものの、実際の受け入れ可否や、そもそも特定の地域に負担を押し付けてよいのかという議論は十分されていません。
将来的に核融合などのCO2を出さず、資源も少なく済み、制御も容易な技術が実現すれば、CO2という制約条件が本質的でなくなる可能性もあります。
Q. 気候工学(ジオエンジニアリング)による対策は現実的なのでしょうか?
太陽光を一部遮ることで温度を下げる「気候工学」には様々なアイデアがあります。例えば、成層圏にエアロゾル(微粒子)を注入する方法は、火山噴火によって自然に起こる現象を人為的に再現するものです。
しかし、これには多くの問題があります。気候操作によって災害が起きた場合の責任問題、平均気温は制御できても降雨パターンの変化、CO2排出を続ければ海洋酸性化が進むこと、そして「終端効果」(微粒子の散布を止めると急激な温暖化が起きる)などの課題があります。
「人類生存の最後の手段として研究は必要」という意見もありますが、ガバナンスの問題など慎重な議論が必要です。簡単に手を出せる技術ではありません。
Q. 気候変動問題の解決に向けて、希望はありますか?
パリ協定の合意は非常に重要な一歩でした。世界の平均気温上昇を産業革命前比で2度より十分低く、できれば1.5度に抑えるという目標に、ほぼすべての国が合意したことは画期的です。これは実質的にCO2排出量を今世紀中にゼロにすることを意味します。
気候変動は全ての国が協力しないと解決できない問題であり、進行すれば全ての国が被害を受けるという認識が共有されたのです。アメリカと中国は多くの問題で対立していますが、気候変動については協力する姿勢を示しています。
懸念されるのは、温暖化による難民増加がナショナリズムを高め、国際協調を阻害するリスクです。そうなると各国は資源確保と難民排除を優先し、気候変動対策の協力が困難になる可能性があります。
これからは科学者、政治家、企業家など様々な立場の人々の協力が必要です。また、自治体レベルでの取り組みも重要で、無作為抽出の市民が議論して気候変動対策を提案する「気候市民会議」などの取り組みが日本でも広がりつつあります。
異なる価値観を持つ人々の対話を通じて、相互理解を深めていくことが課題解決の鍵となるでしょう。