MANAGEMENT SKILL SET
最も危険な上司・メンターの2タイプ Momenter代表取締役・坂井風太(後編)
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2023年12月13日

働き方が多様化する中で「人材育成」「チームビルディング」などマネジメントにおける課題にも大きな変化が生まれつつある。そんな新時代のマネジメントにおいて必要なスキルセットをプロフェッショナルたちから学ぶ。今回のゲストは元DeNA人事育成責任者の坂井風太氏
「優秀だけど嫌な上司」と「ベンチャーだから」という言い訳 - 組織崩壊の危険な兆候とその対処法
組織が成長段階で直面する「崩壊リスク」とは何か?マネジメントの「型」や「流行」に振り回されず、本質的な組織づくりを行うには?有識者たちの深い議論から、組織を健全に保つためのヒントを探ります。

Q. 「雨が降っても自分のせい」という考え方の危険性とは?
ベンチャー企業などでよく見られる「雨が降っても自分のせい」という言葉がある。これは一見、責任感が強いように思えるが、実は非常に危険な考え方だ。
雨が降るのは自然現象であり、個人の責任ではない。重要なのは、雨が降った時にどう対応するかという点だ。「雨が降っても自分のせい」という考えは、コントロールできるものとできないものの区別を曖昧にし、メンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性がある。
心理的柔軟性の概念からすれば、コントロールできないものは受け入れ、コントロールできるものに集中するのが健全なアプローチだ。「雨が降るのは神の仕業だが、傘を持っていくかどうかは自分で決められる」という考え方の方が現実的で健全である。
Q. 「ダークトライアド」とは何か?組織にどのような影響を与えるのか?
ダークトライアド(暗黒三角形)とは、パーソナリティ研究における概念で、ナルシシズム、サイコパシー、マキャベリアニズムという3つの要素から成る。
ナルシシズム:他者から立派な人、優秀な人だと思われたいという強い欲求
サイコパシー:自分の行動が善悪かどうかに無関心で、勝者こそが正義と考える傾向
マキャベリアニズム:目的達成のためなら他者を騙したり操ったりすることを厭わない姿勢
これらの特性を持つ上司は、短期的には成果を出す可能性があるが、長期的には組織に悪影響を及ぼす。出世と相関関係があるとの研究もあり、一見「優秀な上司」として評価されることもあるが、部下の話を聞かず、不正の原因にもなりうる。
自分自身がこれらの特性を持っていないか自覚することが重要だ。
Q. 「かっこつけシャドーボクシング」とはどのような行動パターンか?
「かっこつけシャドーボクシング」とは、上司が部下に対してフィードバックを行う際、実は隣のマネージャーや上司に「自分がいかに優れたフィードバックをし、部下の面倒をよく見ているか」をアピールしている状態を指す。
この行動パターンは、「見て見て」という承認欲求から生まれる。優秀な人材を集める企業の採用ブランディングが加速している現代では、「人より優秀であることを認められたい」という根源的欲求を持つ人材が集まりやすい。
こうした上司の下では、真の成長や組織の健全性は二の次になりがちだ。プロフェッショナリズムを部下に求める一方で、マネージャーとしてのプロフェッショナリズムを欠くという矛盾した状態に陥っている。
Q. ワークマネジメントとピープルマネジメントの違いと、バランスの重要性は?
組織マネジメントには、「ワークマネジメント」と「ピープルマネジメント」という2つの側面がある。
ワークマネジメントは、目標設定、KPI管理、会議体設計などの形式化しやすい部分だ。一方、ピープルマネジメントは人材育成や組織開発など、「愛」や「センス」と表現されがちな部分である。
多くの企業では、成果を出した人材がマネージャーに登用されるため、目標達成機能(ワークマネジメント)は強いが、集団維持機能(ピープルマネジメント)は不足しがちだ。これにより、以下のような問題が生じる:
1. 全員が本来の役割より1段階下の仕事をし始める
2. 最も貴重なリソースである「時間」が、問題対応に費やされる
3. 事業や顧客価値に向かう時間が減少する
本来、マネジメントの目的は「事業と組織の成長の矛盾を解消する」ことであり、バランスが重要だ。ワークマネジメントだけを徹底しても、それを実行するのは「人」であるため、ピープルマネジメントなしでは機能しない。
Q. 流行りのマネジメント手法(コーチングや心理的安全性など)の落とし穴とは?
近年、コーチングや心理的安全性などが流行しているが、これらの手法には落とし穴がある。具体的には:
1. 手段が目的化してしまう
2. 特定の栄養素だけを過剰摂取するように、バランスを欠く
3. マネージャーに「傾聴しなさい」などと伝えるだけで、具体的な実践方法を示さない
これらの手法は理論的背景があり、適切に活用すれば効果的だが、文脈や理論を理解せずに取り入れると、「銀の弾丸」として過信されがちだ。マネージャーは「何をすればいいのか」という具体的なガイダンスを必要としている。
真に必要なのは、事業成長と組織成長の矛盾に向き合い、両立させるための技術だ。単に流行りのワードを追いかけるのではなく、それぞれの手法の背景にある理論と実践を理解し、組織の文脈に合わせて適用することが重要である。
Q. 自社流マネジメント原則の危険性とは?
成長企業でよく見られるのが、「自社らしさを作るためのマネジメント原則策定プロジェクト」だ。しかし、これには以下のような危険性がある:
1. 社内のエースメンバーや人事部門だけで一方的に作られがち
2. 自社の怪しい習慣や誤った考え方も知らず知らずのうちに引き継いでしまう
3. 「本当にそれが正しいのか」という検証なしに原則化されてしまう
言語化には「切り取り効果」があり、一度言語化されたものは「正しい」「正しくない」という基準になりがちだ。これにより、批判的思考や改善の余地が失われる可能性がある。
健全なアプローチは、自社が正しいという前提で進めるのではなく、オープンな議論を促し、理論や実証研究と照らし合わせながら、自社の文脈に適したマネジメント原則を構築することだ。
Q. リーダーだけでなく、フォロワー(部下)も持つべき心得とは?
マネジメントは「リーダーが行うもの」という考え方が一般的だが、実際には組織全体で作り上げるものだ。フォロワーシップ研究によれば、「リーダーが全て悪い」という考え方も一面的である。
新入社員や若手社員であっても、以下のようなことはできる:
1. 自己効力感を高める方法を知る
2. 同僚の良いところを見つけ、感謝を伝える
3. ピープルマネジメントのスキルを自ら学び、実践する
全員参加型のマネジメントの発想が重要で、若い世代ほど新しい概念を理解する速度が速いことも多い。「アンラーニング」(学び直し)のコストがないためだ。
実際、マネジメント的な立ち回りができる人が自然とリーダーに抜擢されるのが理想的な形であり、単に年功序列でマネージャーになるというシステムには限界がある。
Q. 組織崩壊を防ぐために最も重要なことは何か?
組織崩壊を防ぐために最も重要なのは、「事業と組織の成長の矛盾を解消する」という本来の目的を見失わないことだ。
「いい会社を作ること」自体が目的になってしまうと本末転倒である。利益を生み出し続ける事業を作らなければ、社員を守ることはできない。一方で、「売上は全てを癒やす」という考え方も危険だ。
バランスが重要であり、事業や顧客価値に向き合う時間を最大化するための技術として、マネジメントを捉えるべきだ。また、「自社は特別である」「業界注目の成功企業である」という満心(慢心)が、組織崩壊のリスクを高める。
成功者スタンスの自己語りを始めた途端に、批判を受け止められなくなり、自己肯定の罠に陥りがちだ。成功は仮りそめで、失敗は確実化されているという謙虚な姿勢を持ち続けることが、長期的な組織の健全性を保つ鍵となる。