MANAGEMENT SKILL SET
大企業・メガベンチャーの衰退要因 Momenter代表取締役・坂井風太(前編)
(156)
1.7万回視聴
2023年12月6日

働き方が多様化する中で「人材育成」「チームビルディング」などマネジメントにおける課題にも大きな変化が生まれつつある。そんな新時代のマネジメントにおいて必要なスキルセットをプロフェッショナルたちから学ぶ。今回のゲストは元DeNA人事育成責任者の坂井風太氏 <ゲスト> 坂井風太(Momenter代表取...
組織崩壊を防ぐ!メガベンチャーやスタートアップが陥りがちな致命的落とし穴とは
「メガベンチャーは優秀な人材しかいない」「我が社は特別」という思い込みが組織を蝕む——企業の衰退メカニズムと生き残りの知恵を、人材論のプロ中のプロ・坂井風太氏に聞いた。


Q. なぜ組織は衰退していくのでしょうか?
ブランド化した企業の衰退パターンには、一定の法則があります。メガベンチャーだけでなく、大企業でも同様のことが起こります。ビジョナリーカンパニー3の「衰退の5段階の法則」に照らし合わせると、「成功から生まれる傲慢」から始まり、「リスクと問題の回避」を経由して、最終的に「凡庸な企業への転落」へと至るプロセスが見られます。
特に注目すべきは、企業の成長に伴い「勝ち馬にする人」ではなく「勝ち馬に乗りたい人」の比率が高まることです。「この企業に入社しておけば履歴書が綺麗になるし、優秀な人材と見られる」という動機で入社する人が増えると、企業文化が変質していきます。
事業基盤の安定は、時に人材の安定に繋がらないこともあります。自分が必死に利益を作らなくても、他の事業部が利益を上げてくれる状況では、利益のレバーがどこにあるかを探る意欲も薄れがちです。「私は新規事業に挑戦したから履歴書は綺麗」といった意識が広がり、本質的な企業価値の創造から乖離していきます。
Q. 「働きやすさ」を重視する風潮は問題なのでしょうか?
深刻な現象として注目すべきは、「なぜその会社にいるのか」という問いに対して、「働きがい」ではなく「働きやすさ」がメインの理由になってしまうことです。表面的には「この会社でしかできないことがあるし、良い仲間がいる」と言いながらも、実際には「楽だから」という本音があります。
2016年以降の働き方改革の推進やリモートワークの普及により、この傾向は加速しています。一定の地位と給与が保証され、自由な働き方も認められている環境では、他の会社に行くよりも「楽」だという理由で留まる人が増えています。
さらに懸念すべきは「本業のベーシックインカム化」です。SNSで同世代の活躍を目にする機会が増え、「隣の芝生が近くて青い」状態になっています。フルリモートで副業が可能な環境では、本業は最低限の収入を得るための「ベーシックインカム」となり、副業が挑戦の場になるという逆転現象が起きています。
この状態は、本業に本気でコミットしようとする人も巻き込みにくくなり、組織全体の求心力を低下させます。特にSNSの影響は大きく、企業の遠心力が高まる一方で、どう求心力を維持するかが現代の課題となっています。
Q. リーダーシップの段階と組織の衰退にはどのような関係がありますか?
成人発達理論の観点から見ると、リーダーシップには段階的な発達があります。レベル1の「利己的段階」では自分の目的達成が最優先され、レベル2の「他者依存段階」では組織に順応し同化する時期、レベル3の「自己主導段階」では自分の信念が強くなるものの他者の意見を取り入れることが苦手な時期、そしてレベル4の「相互発達段階」では自分の不完全さを認めながら他者と協働できる段階へと進みます。
リーダーの成長を妨げる厄介な現象として「リーダー潰し」があります。レベル4だと自認しているリーダー(実際はレベル3)が、レベル3に上がってきた人材に対して「お前も大人になれよ」とレベル2に押し戻す行為です。これにより、意見を言わない方が良いという空気が生まれ、レベル2の人材が大量に滞留する組織になってしまいます。
心理的安全性は誤解されがちですが、本質は全員が意見を出し合うことです。リーダーに心理的柔軟性(自分が本当に正しいのか疑う姿勢)がなければ、下の人材を潰してしまい、「この会社では意見を言わない方が良い」という雰囲気が蔓延します。
Q. メガベンチャーや大企業で起きる「メディアトラップ」とは何ですか?
メディアトラップとは、メディアで映し出される「先進的な企業」という虚像により、自社だけは特別な存在であるという企業ナルシシズムが拡大する現象です。これはビジョナリーカンパニー3の「衰退の5段階」におけるステップ3「リスクの回避」に繋がりやすいです。
PRが強化されると「優秀そうな人が集まっている企業で成長できそうで働きやすそう」というイメージが広がり、自社への過度な自信が生まれます。「弊社は優秀な人材しかいません」という言葉を相対的な視点なく発してしまう企業が増えていますが、特に新卒でずっと同じ会社にいる人がそのように主張しても説得力がありません。
メディアによる自社の挙動の加速が起き、「あの会社は先進的な施策に取り組んでいる」「今だって注目されている」と思い込み、「大企業病やスタートアップの組織崩壊はまだない」と言い切ってしまいます。盲目的な自己愛や自社愛は自社の歪みを覆い隠してしまうのです。
ポジティブさの重要性は語られていますが、現実的な楽観主義と盲目的な楽観主義は別物です。「うちの会社はいつでも大丈夫」と言い続けることが良いのか、それとも「この部分は危ないから足元を見直そう、でも我々ならできる」と現実を受け止めた上での楽観主義を持つのか、その差は重要です。
Q. 組織効力感とは何ですか?なぜ重要なのでしょうか?
組織効力感とは、「自分たちならできる」という集団的な自信のことです。これは個人の「自己効力感(自分ならできる)」とは異なります。組織効力感が重要視される理由は、スターに依存するのではなく、チーム全体で成果を上げる基盤を作れるからです。
自己効力感だけが高い人材は「自分ならできるけど、この会社でやる必要がない」と考えるのに対し、組織効力感もある人材は「自分たちならできるので、この会社でやりたい」と考えます。スポーツ漫画「スラムダンク」のように、一人の選手が諦めても隣の人がまだ諦めていないから再び奮起する、そんな相互作用が組織効力感の本質です。
特に今日のように遠心力が働きやすい時代において、「ここの人たちとだからやれる気がする」という求心力がなければ、メンバーの離脱が始まります。一人の自己効力感が高い先輩が辞めると「あの人が辞めたということは、もうこの会社はダメかも」という連鎖反応が起きやすくなります。
組織効力感を高めるためには、「我々は以前もこういう困難を乗り越えてきた」という集団的な達成経験の自覚が重要です。これにより、困難な状況でも「あの時と同じだから、きっと乗り越えられる」という確信が生まれます。
Q. 組織崩壊を防ぐためには何が必要ですか?
組織崩壊を防ぐには、まず「自社だけは自分だけは特別である」という心理的錯覚から脱却する必要があります。「この企業に入社しておけば履歴書が綺麗になるし、優秀な人に見られる」という理由で入社する人が増えると、根本的な組織の目的から乖離していきます。
重要なのは「赤の女王仮説」を理解することです。これは「不思議の国のアリス」から来た概念で、「走り続けないとその場所に居続けられない」という意味です。自分は常に大丈夫だと思い、走るのをやめると衰退が始まります。自分たちはトップランナーだと思う企業から衰退していくのはこのためです。
組織効力感を重視し、外部目線を積極的に取り入れることも重要です。自社流ではなく、体系的な人材育成が必要です。「なんとかウェイ」「なんとか最強神話」といった内部論理に固執せず、メディアで煽られている自社イメージに引きずられないことが大切です。
また、研修の本当の意味は知識を身につけることよりも、組織全員で共通概念と共通体験を持つことにあります。これにより、「私はこう育ってきた、あなたにはこう育って欲しい」という断絶ではなく、共通の理解の上で成長できる環境が作られます。
最終的には、現実を受け止めた上での楽観主義、つまり「この部分は危ないけれど、我々ならこの部分も伸ばせる」という地に足のついた姿勢が組織の持続的な成長には不可欠です。