
2023年1月27日
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――若いエンジニアに向けて、キャリアの可能性を広げるためのアドバイスをお願いします。
目の前の仕事に一生懸命取り組む。結局は、この一言に尽きるのかなと思います。
まずは与えられた役割に対して、期待にしっかり応えていくことが力をつけていくことになるし、将来の自分を助けるものだと感じます。
――「目の前の仕事に一生懸命取り組む」について、さらに詳しく教えていただけますか。単に「こなす」のではなく、どういう行動を意味しますか?
おっしゃるように、単に同じ業務を黙々と繰り返して慣れるという意味ではありません。なぜその仕事が必要なのかという意味を解釈した上で、その価値を最大化するための工夫を自分なりに重ねる行動だと思います。
「楽をするための苦労はいとわない」のが、優秀なエンジニアの共通点。例えば100個の何かをチェックする仕事が与えられたときに、100回手動でチェックするよりも、パターンを抽象化してコードを書いて自動化することを選ぶ。
仮に費やす時間の総量は同じだったとしても、コードを書く苦労を選んだことで他の仕事にも応用可能な技術が手に入るわけです。
楽になる仕組みをつくれたら、また新しい仕事に挑戦できる。そうやって熟達していくのがエンジニアのスキルだと僕は思っています。
すると、自信もついてきて、起業に限らず何か新しいことにチャレンジしようとするときに踏み出す勇気も湧いてくる。「失敗したとしても、またエンジニアとしてやり直せばいい」と“無敵”の精神になれると強いですよね。

今、エンジニアは売り手市場ですし、やりたいことがあったらためらわずに強気でチャレンジしたらいいと思いますよ。チャンスを広げるために、社外のネットワークを広げておくこともおすすめします。
――ご自身のように、プログラマー出身の経営者が増えることは社会にどんなインパクトを与えると思いますか。
まさに今、そんなテーマの本を書いているところなんです。
ソフトウェアはハードウェアのような実体がない概念を意味しますが、会社経営はまさにソフトウェア。
設立時に法人登記したとき、証明書として出される紙やオフィスという箱はありますが、会社そのものの実体はどこにもない。頭の中に描かれるソフトウェアです。
そしてプログラマーは、形のない概念の本質を見極めて仕組み化することが非常に得意。それを「モデリング」と言いますが、構造を整理して合理的なルートを発見するのが重要な仕事です。
新しい常識をつくることに長けているともいえて、例えばUberやAirbnbやiPhoneもすべてソフトウェア思考で生まれた製品・サービスです。
「移動は、ホテルは、電話はこういうもの」という既成概念を取り払って、今ある技術を活用した最適解を導き出したという点で共通しています。
こうした発想の仕組みを「ソフトウェア思考」としてまとめて、経営に活かせるノウハウを紹介して、世の中に役立てるとうれしいです。

――楽しみです。倉貫さんご自身のこれからの目標を教えてください。
毎年1月の仕事始めの日に、会社のメンバー全員で「書初め」をして抱負を発表するのですが、僕が今年「昇」と書いたんです。
「経営者としての視座を上げたい」という決意を込めました。
社員数が50人を超えて昨年から新卒も多く採用するようになって、親方的なマネジャー職も新設したことで、僕が組織のすべてを等しく見ることは難しくなったんですよね。
現場の問題が見えたところで、エンジニア組織では各人の技術で仕事が進むので直接フォローすることは実質的にできない。問題に気付きながら祈るしかないというのは精神的にもつらいなぁと思っていた時に「メタ認知」を学んだんです。

少し引いた距離から会社全体を俯瞰して観察するメタ認知が進むと、細かな社内の問題が気にならなくなり、「今後どういうパートナーと組むと、この会社の成長につながるか」といった外部連携も含めた中長期の見通しを描きやすくなりました。
同時に気づいたのは、メタ認知は視座を上げるほどに視野が広がり、成長に限界がないなということ。僕は今48歳なのですが、体力は衰えていったとしても、メタ認知を磨けば経営者として成長を続けられるんじゃないか。そんな希望を持てたんです。
こうした抽象と具体を行き来する思考を磨けたのも、エンジニアとしての実務を重ねた経験があったからこそ。「目の前の仕事」という一見“足元”にあるものに力を注ぐことが、将来の視座を高くするメタ認知にもつながるのかもしれませんね。
引退したら? その日はまだまだ先になりそうですが、学生時代に作って公開したことがあるゲームをもう一度作って、こっそりリリースしてみたいですね。
