
2023年1月26日
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――倉貫さんが社内ベンチャーの経営者としてキャリアの転機を迎えたのは35歳の頃ですね。当時、経営の知識はどの程度あったのでしょうか?
もちろん、まったくありませんでした。とにかく何も分からなかったので猛勉強しました。ドラッカーなどのビジネス本も読みましたし、テレアポも訪問営業も全部自分でやりました。最初は撃沈ばかりで心折れることばかりでしたね。
正直つらかったですが、自分で手足を動かして学ぶことを選びました。当時のチームは数人規模で手が足りなかったという理由もありますが、当初お願いしようとしていた営業支援のコンサルティング会社の社長が、なぜか「自分でやったほうが力がつきますよ」と助言をしてくださって(笑)。

立ち上げ資金として会社から与えられた予算を使うこともできたのですが、あえて自力でやることにしたのは結果として良かったと思っています。
その後、MBOで独立するまでの2年間で経営の猛勉強をした時期で、僕の血は入れ替わったと思います。「これからは経営という役割を担っていこう」と覚悟が決まりました。
――プログラミングに対する強い思い入れがあったのに、気持ちはすぐに切り替えられたのでしょうか。
プログラマーとしての自分を封印しようと決めたんです。なぜなら、僕が本当に到達したいゴールは、プログラマーがずっと幸せに働き続けられる世界をつくることであり、その手段としてのアジャイル開発を事業を通して広げていくこと。
このゴールに最短で近づくためには、一人のプログラマーとしてではなく経営者として事業を成功させることが必須だと考えました。
もちろん、今でもコードを書くのは好きですよ。でも趣味程度に楽しむくらいで、僕の役割は経営だと思っています。
――経営を学んだことで、仕事に対する価値観は変わりましたか?
変わりましたね。今思えば開発者時代には視野が狭くて、「正しい仕様で開発できることが価値」だと考えていました。それが求められていたし、それで評価されていたから、当然かもしれません。
経営者の立場になってからは、それだけでは足りないことを痛感しました。どんなに仕様通りに正しいものを作ったとしても、お客さんに買ってもらえなければ意味がない。

商売とは、お金を払うだけの価値を感じて届いてこそ成り立つもの。頭では分かっていたつもりだったことを身に染みて感じ、開発に対する考え方そのものが180度変わりましたね。
正解どおりにやることが仕事ではなく、正解のない価値を見つけることが仕事なのだと。
――変化に伴う痛みもあったと思います。どう対処しましたか?
やるしかなかったんですよね。自分がやりたいと言い出して、チャンスをもらったわけなので、逃げ道はなかったです。
僕は理解あるトップに恵まれて、「うまくいってもいかなくても、3年は続けなさい」と、結果を出すまでに一定の時間を許されていたんです。そこまで言ってもらえて、自分から音を上げるわけにはいかないですよね。
――実際には、その期限を待たずに2期目に黒字化を達成していますね。なぜそれが可能だったのでしょうか?
早く黒字化できたのには、実はある裏技を使ったんです。コストを大幅に圧縮することで、黒字化するまでに必要な売り上げの規模も下げるという裏技です。
開発の事業は、一般的に「大きくコストをかけて、大きく稼ぐ」ことで利益を出すのですが、僕はその前提を変える戦法に出たんですね。
具体的には、自社のデータセンターを使うと莫大なコストがかかるので、当時出始めだったAWSを使ったり。営業に関しても、コンサルタントの伴走支援で基本の手法を学べたら早めに自立宣言したり。
一生懸命ブログを書くことで、マーケティングコストもゼロにしました。
そうやってあらゆるコストを下げていった結果、コストは人件費くらいになり、収益を出しやすい体質に。そして、この体質をつくっておいたことは、後に大きなプラスとなりました。
――何が起きたのでしょうか?
黒字化のタイミングとほぼ同時に大きな環境変化があったんです。グループ再編によって、僕の事業を全面的に応援してくれた社長が会長になり、直轄の社長が交代になったんです。
当初は「3年経ったら子会社化も選択肢」という話もあったのですが、再編のタイミングで僕らの事業だけ子会社として独立するのは、あまり良い動きではないなと。相談を重ねた結果、MBOという形で買い取らせてもらい、独立した会社として船出することにしたんです。
この時に、「会社のリソースに頼らず、できるだけ自力でまかなう体質」を確立していたことが効きました。開発の基盤も営業も自分たちで開拓していたので、何も切り替えなしでスムーズに事業を継続することができ、お客さんも全社が契約を続けてくれたんです。

これも「3年は赤字でもいい」と深い懐で挑戦させてもらえた環境があったからだと思います。僕たちは会社のリソースにできるだけ頼らない手法を取りましたが、もちろん頼ってもいいわけです。もしも起業を目指したいなら、「社内ベンチャーで修業する」というステップを踏むのはすごくおすすめですよ。
――起業そのものは、若いエンジニアの方々におすすめしたいですか?
やりたいことがあって、その実現のために必要な手段であれば挑戦する価値はあると思います。
特に目標もなく単に「起業したい」というのは、全然おすすめしないです。僕もずっと「エンジニアがもっと幸せに働き続けられる世界に変えたい」という思いを貫いてきた結果として、いつの間にか経営者になっていたという順序なので。
――テック系のビジネス領域で起業を目指す非エンジニアが「起業準備としてエンジニアの仕事を経験する」という考え方についてはどう思いますか?
必ずしもやったほうがいいとは思わないですね。事業の根幹がシステムだったとしても、知識を都度学べばいいですし、職能としてのエンジニア経験は必須ではないのでは。
逆に必要だと思うのは、ボロボロに失敗してもいいから、自分でゼロから企画して立ち上げる経験。大きな事業じゃなくてもいいし、なんなら副業やボランティアでもいいと思います。
僕の独立のスタートも、業務外で始めた社内SNSがきっかけです。ひととおり自分で回して、ユーザーの反応に揉まれる経験は、すごく今に活きています。
※1月27日金曜公開の第3話に続く
