
2022/11/14
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「まさか自分が辞めるとは思っていませんでした。とても恵まれた環境だと分かっていたので」
複雑な表情で語るのは、1週間前まで大手金融機関のファイナンス部門でシニアマネジャーとして働いていた吉田望さん(仮名)。
会計の専門性を金融業界で磨こうと20代から仕事に打ち込み、30代前半で同期より早く課長職に昇進。部下5人と業務委託メンバー数人をまとめるリーダーとしての役割を任されてきました。

年収は1500万円で、福利厚生は申し分ない大企業。しかしながら、プツッと糸が切れたように、吉田さんは退職を決意したと言います。
最大の理由は「ただ煩雑な業務が増えるばかりで、自分の成長を感じられなかったから」。
「もともと金融業界は法令順守に厳格ですが、ここ数年、急激に社内監視が厳しくなったんです。任されたプロジェクトを進めようにも、すべてのプロセスにおいてコンプラチェックに追われ、機動的に業務を進めたいと思っても、『自分で判断するな』と上司に止められてしまうんです。なんのための昇進だったのか……」
外販プロジェクトを任されて受注寸前までいっても、社内調整にとにかく時間がかかり、見積もりを出すだけで1カ月。
マネジャーの醍醐味は裁量が増えることだと思っていたのに、調整に追われて業務改善すら期待されず、部下の勤怠管理と研修管理で一つでも漏れがあると部長会に呼ばれて吊し上げに。
「なんのために自分はここにいるのか、なんのために自分の人生を賭けて頑張っているのか、分からなくなってしまいました」と吉田さんはため息まじりに話します。
吉田さんを悩ませていたもう一つの要因は「世代間ギャップ」です。
50代後半の部門長は、指摘や注意となると大声で怒鳴るタイプ。「残業は美徳」という考えで、子育てのために定時で帰るたびに吉田さんは後ろめたさを募らせてきたと言います。

「それでも頑張ろうと思える成長機会があれば踏ん張れたかもしれませんが……。挑戦できない環境の中で、意欲が日に日にそがれていき、部下に対して夢を語ることができない会社に見切りをつけました」(吉田さん)
見切りをつけたのは吉田さんだけではなく、同じ時期に部門の8人中5人が一気に退職。一時、「管理職不在」となり、社内に激震が走ったと言います。
一方で、吉田さんの声に悲壮感はありません。「辞めた後は起業やスタートアップへの転職を考えている人が多いようです。私も会計の資格を取って、スタートアップで専門性を生かすチャンスを狙っています」と笑顔を見せます。
組織が大きくなるほど、重層的な板挟みに悩まされるミドルマネジャー。それでも「大企業」という好条件を捨てられずにとどまるのが、これまでの“当たり前”でした。

投資環境の変化から厚遇を打ち出すスタートアップが以前より増し、起業のハードルも下がった今、「大企業の外に飛び出すキャリア」を現実的な選択肢として捉える人が増えています。
個人にとっては可能性が開ける半面、組織にとっては「リスク」。「せっかく育てたミドルマネジャーが抜けていなくなる」という事態が頻発すれば、組織崩壊にもつながってしまうからです。
この2年余りで急速に浸透したリモートワークも、ミドルマネジャーの仕事を複雑化しています。
IT業界で人事部門の課長職として働く相川拓哉さん(仮名)は、「とにかくマネジャーが拾う仕事が増えた」と嘆きます。
「出社して皆がお互いの様子を見られる環境なら、“名前のつかない業務”を検知して、助け合うこともできた。リモートだと責任が曖昧で浮いたままのボールが見えづらい。結果、見つけた時点で慌てて自分がカバーするしかない。対面の機会が減って顔が見えないから、メンバーのメンタルケアにも気を使います」(相川さん)
ミドルマネジャーを取り巻く状況について、企業向けに管理職研修を行うCheer Coach代表の齋藤稚亜子さんは、「10年前と比べて、役割が格段に増えている」と指摘します。

「チームの成果を出すための業務管理に加えて、ハラスメント対策を中心としたコンプライアンス管理などさまざまな調整役を求められるのが、今のミドルマネジャー。加えて、部下のキャリア支援など、目の前の業務成果に直接つながらない領域でのリーダーシップの手腕も問われる。1人で2役、3役と担っているのです」(齋藤さん)
何役も背負いながらも、部下に残業を強制させるのは“ご法度”な時代ゆえに、自分でなんでも抱え込み、長時間労働が常態化してしまう。結果、心身ともに疲弊しているミドルマネジャーが増えているのだと言います。
組織を支えるミドルマネジャーをいかに支えたらいいのか。組織として、そしてミドルマネジャー自身が始めたいアクションについて次回から紹介します。
※11月15日(火)公開の第2話に続く
(カバー写真:Nikada/iStock)