
2022年9月15日
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クリティカル・シンキングを習得するには、「型を知る」だけでは不十分。「型を磨く」ための行動が必要だという話をしました。
型を磨くとはどういうことなのか。二つのアプローチがあります。
あるお題に対して、複数の視点から根拠を示し、答えを出す。これがクリティカル・シンキングの「型」です。型はたくさん使われることで磨かれます。型を使うには、上から降ってくる「お題」と、下から積み上げる「根拠」が必要。根拠を支えるのは「事例」です。

つまり、クリティカル・シンキングの思考力を鍛えるには、「お題」と「事例」という2種の材料を要する。
「お題」と「事例」を大量に投入して、実際にこの型を使って思考することが、クリティカル・シンキングの実践力を養うのです。
トレーニングとは何をやればいいのか。僕がやってきた経験をお話しします。
まず「事例」を蓄積する方法から。僕が実際に活用していたノートをお見せします。あくまで自分のためだけの記録で、人前に出すのは初めてなので、お恥ずかしいのですがご覧ください。

これは僕がグロービスで学び始めた頃から10年以上書きためてきたノートの束です。毎日持ち歩いていたので所々擦り切れていますね。中を開くと、こうなっています。

仕事上で気づいた事例や、そこから得られる「だったら次にどんな変化が起こり得るか?」という仮説を、テキストではなく図に整理しながら記録していったものです。
紙1枚につき、一つの図。ランダムに思いついた順に、鉛筆と色ペンを使って書いていました。
例えばこの図は、プラス時代にオフィスの役割やレイアウトのあり方についてメモ書きしたもの。「operation」から「innovation」、「office」から「cafe」、「control their action」から「connecting the dots」など、キーワードを対比させながら書き出しています(ちなみに英語を多用しているのは単に「カッコいいから」です)。

当時はオフィス用品を扱う企業として提案力を高める目的で仮説を整理した図でしたが、今見返すと、働き方そのものの変化を予想したものになっていて面白いですね。

さらにページをめくると、クリティカル・シンキングの型(ピラミッド・ストラクチャー)に近い図解へと展開しています。
「innovative officeとは?」というお題に対し、イコールで結んだ「フリーアドレスでオープンな空間」というキーワードがあります。さらに、この結論を支える根拠として、「自席が消滅へ」「コミュニケーション強化」「個人が気持ちよい」という三つのキーワードが並んでいます(ちなみにこれを考えていたのは、もう10年ほど前になります)。
このように、根拠を固めるためには「事例の集積」が不可欠。それもどこかからコピペした受け売りではなく、自分の目や耳で直接感じて得られた気づきでなければ、人の心を動かす根拠にはならないのです。
すらすらとロジカルに説明する能力は高くても、なぜか人を動かす力に乏しい人がいたとしたら、それは自分の言葉で語っていないから。
自分の言葉は、自力で積み上げた仮説によってのみ生まれるものだと僕は考えています。
受け売りの思考ではなく、自家製の思考へ。根拠につながる仮説の質・量をどれだけ引き上げられるかが、その違いを生むはずです。
仮説を書きためたノートは、手元に残っているものだけでも15冊ほど。最近は、(音声プラットフォームの)「Voicy」の収録も兼ねて音声で記録する習慣へと移行しつつありますが、過去の自分が書いた「仮説ノート」を時々めくって見返すと、新たな発見も多々あります。
「あの頃はこうだった。そして、今はこうなっている。それはつまり、これが起きたということだ」と自分なりの解釈が生まれるわけです。

見ていただいて分かるとおり、仮説ノートはパッと思いつきで走り書きするというより、じっくり腰を据えて後から見返すことを前提にできるだけ丁寧に書いていました。
日常のさまざまなシーンで、脳内をバラバラに浮遊しているいくつもの事象を、1枚の紙の上に二次元化して保存する。そのための時間を定期的に確保していました。
その証拠となる図もあります。1週間の業務スケジュールをいかに生産的にするかを考えたときに書いた図です。
水曜日のAM(午前中)の枠がオレンジ色に強調されて「Think」と書かれているのが分かると思います。

プラス時代の後半は執行役員マーケティング本部長(後にバイスプレジデント)として事業全般をマネジメントする立場にあったので、意思決定の精度を磨く必要がありました。
週5日を曜日ごとに「企画を議論する日」「新規で人に会う日」「現場を回る日」などと決めていたのですが、うち水曜日午前中は「思考の時間」として完全ブロック。静かなカフェやラウンジにこもって、ひたすら仮説ノートに向き合っていたのです。当時は「隔離タイム」なんて呼んでいましたね。
この「集中して思考を組み立てる時間」も、クリティカル・シンキングの実践には欠かせません。
環境設定も大事です。よく行ったのは、六本木ヒルズの49階の六本木ヒルズライブラリー。オープン時刻の朝7時に向かうと誰もいなくて、まだ静かな街を見下ろして妙な優越感に浸ったりして。

文字通り、高い場所から俯瞰することで視座を上げようと、マインドを盛り上げていたのかもしれません。
道具にもこだわりました。特徴あるデザインのノートは、月光荘という文具専門店の商品で、松下幸之助さん(パナソニック創業者)や中村紘子さん(ピアニスト)も愛用していたという由緒あるもの。
当時、テレビか何かで知った、増田宗昭さん(カルチュア・コンビニエンス・クラブ創業者)の企画ノートにも触発されたのを覚えています。

気に入ったノートを選ぶことで、毎日携帯するモチベーションになり、結果として「よく見返す」行動に。すると、「あれとこれは、実は同じ意味なのでは?」と異なる事象同士の関連を発見したり、さらに抽象化したりする思考へと発展しやすくなる。仮説のストックがさらにたまっていくのです。
書きため始めた当初は、これらの紙束がいつ活かされるかなんて想定すらしていませんでした。しかし、自分なりの気づきや仮説を無造作にためておくことが、後に求められる意思決定を支える根拠になり、自分自身を大いに助けてくれました。
繰り返しになりますが、自分で獲得した言葉でなければ、人を動かす力は備わりません。型を磨くとは、オリジナルの思考を磨くことです。
仮説の記録は、誰でもいつからでも始められます。
クリティカル・シンキングの型を使いこなす材料をためるために、ぜひ今日からでも試してみることをおすすめします。
※9月16日公開の第3話・第4話に続きます