
【深井龍之介】人から評価されるために頑張るのは無意味 では何をするか
取材・構成/古澤誠一郎 撮影/竹井俊晴
日本を変えるイノベーターが仕事の軌跡と半生を語り尽くす新連載「マイヒストリー」。挑戦者たちの原点と未来のビジョンが明かされる。人気のポッドキャスト「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」を配信するCOTENの深井龍之介CEOが、世界の未来と自分史を語り尽くす(全30話)。

COTENの事業をいつか海外で
僕は福岡でCOTENを起業して、今も福岡に住んでいます。電車に乗るのがイヤなので東京では働きたくありません。東京で働く必然性も感じていません。
地元の島根だと仕事がないですが、福岡なら仕事があります。福岡はとにかくQOLが高い都市なので、生活の面でも本当に満足しています。
いつかは海外に移住しようとも考えています。世界史のデータベースを作るには、日本に住んでいる必然性はないので、いつでも海外に出られる状況です。

COTENの事業も日本でしっかり定着させたら海外に持っていこうと思っています。
それはだいぶ先の話になりそうですが、世界史のデータはサービス展開する国が変わっても同じなので、言語をローカライズし、現地のニーズに最適化すれば海外でもアセットを売ることはできるはずです。
月50冊勉強するフェーズは終わった
ここ1年ほどはCOTEN RADIOの収録に向けて月15冊くらい歴史の本を読んでいて、その前は月に50冊は読んでいました。

ただ最近はCOTENもスタートアップとしては組織が大きくなり、業務委託のメンバーも入れると50人ほどになりました。
社長として組織運営にかなりのリソースを割かなくてはならないので、これまでのような勉強量を続けるフェーズはもう終わったと思います。
僕は「COTEN RADIO」の話し手としても徐々に出演を減らしていくことを発表しました。
それでリスナーが離れてしまう事業リスクの怖さはもちろん感じていますが、会社の状況を考えると僕がいつまでも出演を続けることはできないし、その恐怖は超えていくべきだと思っています。

あと僕は、ポッドキャストやメディアで話をしたい欲求はゼロなんです。この連載のために長々と話しておいてこんなことを言うのも変ですが、聞かれなければこんなに話しません。
話したい欲求がゼロだからこそ、完全に目的のための手段として話せるし、ポッドキャストも目的のための手段として機能しなくなったらやめると思います。
「究極的にはいつ死んでもいい」
僕は今、「究極的にはいつ死んでもいい」と思っています。
ただ今死ぬと妻が悲しむし、ほかにも悲しむ人がいるから自ら死ぬようなことはしませんが、「人生の長さでその人の幸せやその人の評価が決まらない」ということは歴史を勉強しているとよく分かります。

僕は人の評価はどうでもいい。明日から誰も僕の話を聞いてくれなくなってもいい。人に評価されるために生きているわけでもなく、人に自分の考えを話すために生きているわけでもないですから。
人間には人間を評価する能力がない
「人からの評価はどうでもいい」と強く思うようになったのは、歴史の勉強や自分の経験から、「人間には人間を評価する能力がないんだな」と気付いてからです。
人間の評価というのは本当に適当なものだと分かったので、評価を気にすることに意味は感じていません。「起業家として有名になりたい」みたいな欲求もゼロです。
もちろん会社の売り上げが上がれば喜びはありますが、それは「売り上げを上げるというゲーム」で勝った喜びであって、ボードゲームのルールでの勝ち負けで一喜一憂しているのと変わりません。僕にとって本質的には意味がありません。

歴史や人文学を学ぶと、自分がいろいろなものに執着していることが分かります。ただし、実際にいろんな痛い目を見ないと執着から解き放たれることは難しいです。
僕も歴史で学んだことが生きてきたのは、みじめな失敗をして、自分のダメさや弱さに気付いてからでした。
そうした経験をする中で、「自分も人に弱みを見せたくなくて強がってたな。すごい人間だと思われたかったんだな」と気付いて、それからは人の評価がどうでもよくなりました。
今の社会の価値観で評価されるのは無意味
千年後の世の中では、孫正義さんよりも今は無名のニートのほうが社会へ大きな影響を与え、その人が高く評価されている可能性もあります。
歴史では実際そういう現象が起きてきました。

「今の社会の決められた価値観の中で、この社会で生きている人たちから評価されるために命をかけて頑張るのは意味がないな」と気付くと、1回やる気がなくなります。
それでも何をするか
そしてやる気がなくなると、何もすることがなくなります。そこで出てくるのが「何もすることはないけど、それでも何をするか」という問いです。
その問いに対する僕の答えは、人文学の勉強でした。人文学の勉強なら、自分がまったく放っておいてもエネルギーが出るからです。
そして僕は、世界史データベースや人文学がこの世の中には必要だと思っていますし、人類がそれを必要とする時代が来ると思っています。
自分はその橋渡しをできそうだと思っているので、これからもCOTENでの仕事を続けていきます。

*本連載 全30話 完。