
2022年8月19日
読了目安4分
「インドの1年は、日本で過ごす4年分です」
そう話すのは、Dream Incubator India社長の江藤宗彦さんだ。
8年以上前の2014年ごろから本格的にインドに進出した。既に投資先でユニコーンになった会社は2社、今は現地のインドのトップVC10社すべてと共同で投資ができる存在となっている。

江藤さんが人生を懸けてインドに移住し、ファンドを立ち上げたのが30代後半のタイミング。「自分は、どのような分野で1番になれるのか?」を考えた末の決断だったという。
2014年当時、日本に本社があるDream Incubatorのコンサルタントだった江藤さんは悩んでいた。
それまでは江藤さんは転職を繰り返しながら、戦略コンサル、医療ベンチャーの立ち上げ、東南アジア向けの投融資業務など多様なキャリアを歩んできた。充実していたが、会社として、さらに自分自身のキャリアとして「次の一手」を探る必要性にも迫られていた。
次に何をするか?限られたリソースの中、国内で他のビジネスをやるのか、あるいは海外に展開するのか。どちらが会社や自分にとっての成長につながるのか。
「海外進出はキーであることはわかっていましたが、ヨーロッパは基盤がない日本企業がなかなか入りづらい市場です。アフリカは近年こそ盛り上がっていますが、当時はまだタイミングではないと考えていました」と江藤さんは話す。
一方で、既に多くの企業が進出している米国や中国は「今さら市場に参入しても遅いのではないか」とも思った。
そんな中、有力候補として浮上してきたのがインドだ。アジアの中で数少ない成長フロンティアであり、かつ日系のプレーヤーは限られていた。
「私はもともと海外志向が強かった。そこで、Dream Incubatorの創業経営者で当時会長の堀紘一に『インドはどうか?』という提案をして、出張ベースでインドに行き始めたのです」
初めは出張ベースでインドに行き始めた江藤さん。どのような仕事なら、インドで勝負できるかという問いを自分に課した。考えられる選択肢は以下の3つだった。
①コンサルティング
②M&Aのアドバイザリー
③投資
この3つを片っ端から試してみた。結果として、最もチャレンジングで、伸び代が大きいスタートアップ投資に集中することを決断した。
「2015年はまだインドが今ほど注目されていませんでした。(だから投資をすることが)チャンスだと思いました」
江藤さんの「直感」は当たることになる。投資先はどんどん成長し、ユニコーンになったのが2社。インドで30社ほど投資して、じきにユニコーンになるスタートアップも4社ほどいるという。
投資先の中で勢いがある企業の一つは、ユニコーン企業のPharmEasy。オンライン薬局で、薬(一般薬だけでなく処方薬も)を自宅に配送してくれるサービスを展開する会社で、江藤さんも期待を寄せる。
インドでは、コロナ禍もあって、非対面での診療が増えている。“PharmEasy”はいわば、オンライン薬局。薬をオンラインで注文して家まで配送してもらえるサービスだ。

他にも、化粧品のECを提供する、Purplle社にも江藤さんは、投資をしている。今年、インドで102番目のユニコーンに仲間入りした。インド国内の巨大な内需を背景に、ユーザーを集めたスタートアップだ。


「大体、時価総額が10億、20億円くらいの頃に投資をして、今は40〜50倍になっている会社が5、6社ある」と江藤さんは言う。
なぜそこまでのパフォーマンスを発揮できたのか。
「『波に乗る』ことがすごく大切だと思うんです。自分で波を作るのは難しいかもしれないけれど、波を見つけて、乗ることならできると思いました。日本にも魅力的な業界や企業はたくさんありますが、正直なところ、インドほど大きな波は起きにくいのが現状です。私は日本を旅立ち、インドに移り住んで7年やっていますから、そういう意味では人生を懸けて波に乗ってみたのです」
「そういう時には、大きな波になりそうなところに先回りして乗ることが大切ですね。まだまだこれからではありますが、インドの並み居る強豪VCの中に一応立つことができたと思います。波を見つけて早めに飛び込んでいくのが、今の日本人に一番必要なことかなと思います。そして、それは残念ながら海外になると思いますね」
江藤さんが30代だった2010年代半ば、「インドに移住してファンドを立ち上げる」には、勇気も必要だった。そうした挑戦ができたのは、「どの分野だったら、自分が一番になれるのか?」と江藤さんが常に考えていたからだ。
その当時の江藤さんは、政府系金融機関、コンサル、ベンチャー立ち上げなどの経験があった。そこに、インドでのベンチャーキャピタル投資という仕事を組みわせると、誰にもまねできない「一番」になれると思ったのだという。最後に「勇気」というスパイスが加わった。
「インド人は結構センチメンタルなんです。私がインドに住んで退路を断ってやっています、と言うと、長く付き合ってくれる。インド進出で何とかここまでやってこられた秘訣は、案外、そこが一番大事なのかもしれません」
※第8話に続く。次話では、インドのスピード感の根底にある国民性について話します。