
2022年12月4日
読了目安4分
日本マンガ市場は週刊少年マンガ誌とともに、1990年代半ばをピークとして、それから20年以上にわたって下落を続けた。
これでも雑誌や一般書籍に比べるとマシなほうで、むしろ出版市場全体におけるマンガの割合は長らく25%前後だったが、2020年には40%近くにまで上がってしまった。

これは電子書籍がほとんどマンガ売り上げによって下支えされているからであり、集英社・講談社が直近3年で急激に売り上げを伸ばしたのは、週刊マンガ誌の電子化・アプリ化に成功したからに他ならない。

マンガの電子化は決して容易だったわけではない。そもそも電子出版は古くから希求されてきた。
辞書はSHARPが1979年、新聞は読売新聞が1995年、書籍・コミックも電子書籍コンソーシアムが最初に配信を開始したのは1999年、携帯コミック配信や雑誌も2003年にはスタートしている。
マンガアプリも2013年のcomicoやGANMA!などを皮切りに2014~2015年でジャンプ+やマガポケなど大手出版社のものが乱立するものの、数年間にわたって赤字運営を続けてきた。それらが明確な収益ドライバーになるのはコロナ直後、皆の電子マンガ消費が急騰してからの話なのだ。
ただ2019年に紙の市場を逆転してからその勢いは加速し、すでにマンガ市場の6~7割を電子が占める時代に入った。
つまり「マンガはデジタルで読まれるようになる」ということは、20年も前から言われていた予測し得る未来だったにも関わらず、適したデバイス(iPhoneなどのスマホ端末)と配信サイト、課金システム(無料で読めるが一気見するには課金が必要)、そして消費行動の変化(コロナでの閉店・電子購入の日常化)などがそろって、この2年ほどでようやく出版社にとってメイン市場として輝くようになる。

電子マンガとひとくくりにいっても、実は細分化すると4つの領域がある。
以前からある①ストア型(書店の電子版で多くの作品を個別あるいは定額課金で読み放題)②レンタル型(時間限定で貸し出し)、③サブスク型(月額定額で読み放題)、そこに新規で④メディア型(毎日無料をフックに1話ずつ視聴。広告式やチャージ式などに加え、新人発掘し、マンガライセンスの横展開も行う)という形ができている。
まだ①②③が大半の市場を支えているが、驚くべきは日本のお家芸のマンガ業界において1000億円近い④の新領域は、韓Kakao社の「ピッコマ」と韓Naver社の「LINEマンガ」が大半を握っているのである。
すでにピッコマは134億円(2019)→376億円(2020)→695億円(2021)と急激な売上高とともに、「日本支社だけ」で600億円を調達し、その際の時価総額は8000億円超と言われている。
これはKADOKAWAの時価総額の約2倍の規模にもなる。なぜ韓国のマンガアプリがそんな価値を?という疑問も当然だろう。そのトップ作品『俺だけレベルアップな件』(月2億円という販売額はコミックでいうと40万冊売れていることになる)の聞き覚えのなさも、さらに謎を深くする。

カラーで縦読みを基本とするウェブトゥーンは日本のマンガとは似て非なる市場である。
ウェブトゥーンは作り方から展開方法、売り方に至るまで「デジタル&グローバルに特化した韓国版マンガ市場」である。
韓国でも日本同様に2003~2005年にDAUM(Kakao社)とNaver社の2社がPC・ウェブ上での電子マンガサイトとして展開し、当初は「マンガ家」という職業がなかった韓国で、シナリオライターやイラストレーターが分業で作る作品が、2000年代前半に年数十本、2010年代に入って年数百本、最近では年数千本の作品が作られる一大産業になってきた。
今やアマチュア作家は58万人、プロは1600人、連載作家は350人と、日本のマンガ市場にも迫る勢いで産業が形成されている。
かつ驚くべきはそのビジネスモデルだ。日本もマンガから多くのアニメ・ドラマ作品は生まれているが、それらはあくまで出版社もしくは作家本人が副業の範囲でやっていること。
韓国ウェブトゥーンはむしろ半分近くの作家がドラマ化等での収益を優先し、出版社も映像原作の脚本としてどんどん映像メーカーに売り込む。ピッコマの『梨泰院クラス』がNetflixで一躍世界的なドラマになったことも記憶に新しい。

日本では脚本料一括100万円といった程度だが、韓国作品は数千万や下手すると億といったレベルでライセンス販売できるようになってきている。
ユーザー規模も段違いだ。日本でもユーザー数1000万人に近づくトップアプリのLINEマンガやピッコマ、実は海外全体では8000万人といった規模に育っている。
少年ジャンプ+も果敢に米国・タイなどで展開し、「それなり」のサイズにはなっているが、すでに北米のマンガプラットフォームを5億ドルで買収するようなKakao社の攻勢に比べると、日本の白黒マンガは海賊版でこそ流通したが正規版はまだまだといった具合。
この「2つ目のマンガ市場」にソラジマ、MIXER、コルクなど多くの日本の新興企業が参入しており、国境を越えたマンガ新群雄割拠の時代にすでに足を踏み入れているのである。
*本連載は毎週日曜日に更新します。第40話は12月11日に公開します。