
2022年4月22日
読了目安5分
「NVC」(Nonviolent Communication:非暴力コミュニケーション)をご存じですか?
マイクロソフトのサティア・ナデラCEOが経営メンバーの殺伐としたコミュニケーションを解消するために推奨したことでも知られる、新しいコミュニケーション・スキルです。

職場の人間関係の悩み、感情的な対立、自分と相手を傷つけるコミュニケーションを解決するために、アサーティブ・コミュニケーション、アンガーマネジメント、心理的安全性など、さまざまなアプローチがこれまでありました。
しかし、いろいろ試したものの何かしっくりこない、思ったほどにはうまくいかない…。それならコミュニケーションの考え方や視点となる「土台=OS」ごとアップデートしましょう。
NVCのエッセンスを学ぶことで、コミュニケーションの新しいOSをインストールできます。その実用的なスキルを本連載で紹介していきます。

職場でメンバーと一緒に情熱を持って仕事に取り組んでいても、意見が合わない人がいてぶつかり、仕事も人間関係もうまくいかず、チームの雰囲気がギクシャクしてしまう。そんな経験は誰しもあるでしょう。
私たちの人生は人と人との関係性でできています。関係性が豊かであれば人生の質も豊かになる。それを分かっていても、自分と意見が異なるさまざまな相手との関係性を良好に築き、うまくやっていくのは、実際にはなかなか難しいのが実情ではないかと思います。

これからお伝えするNVCは、人と人との関係性にまったく新しい視点をもたらすコミュニケーションの方法です。
ものごとの捉え方、言葉の使い方を変えることで、自分が望むことを大事にしながら、相手のことも大切にし、「妥協」や「痩せ我慢」とは違う次元から、創造的にものごとを進めていく可能性を手にすることができる。いわば、ビジネスパーソンの新しい“必修科目”です。
NVCを提唱したアメリカの心理学者マーシャル・ローゼンバーグ博士は、人が暴力的な言動に出たり相手の人間性を否定したりする背景には、ある共通点があることに気づきました。
それは「何が正しく、何が間違っているか」という捉え方、そしてそれに付随して立ち上がる「べき」「ねばならない」という考え方です。
試しにあなたが体験した、イラッとする出来事を思い浮かべてください。「…すべきなのに」といった気持ちが浮かんできませんか?

神学者ウォルター・ウィンクによると、人類は8000年もの昔から、このロジックのもとに生きてきました。権力者が統治するのに便利な考えだったからです。
私たちの多くは「正しい・間違い」ゲームの影響を少なからず受けて暮らしています。そして、その考えは自分の内側にも影響を及ぼしています。ダメな自分を責める、というように。落ち込みや鬱といった症状は、社会に染みついた「べき・ねばならない」の影響から生まれているのです。
NVCはこれに変わる新たな視点を提案します。「何が人生を豊かにするか(何を大切にしたいのか)」です。
「人生を豊かにする」ゲームのポイントは、とてもシンプルです。それは「何を大事にしたいのだろう」ということに耳を傾けるということです。
私たちは常に、何かしら大切にしたいものがあって行動しています。けれども、そのことを必ずしも自覚できていません。本当は理解し合いたいのに「どうして分かってくれないの?」と相手を責める表現をしてしまったり、「私の説明が下手だからだ」と自分を責めたりしてしまうのです。
では、どうしたら「べき」「ねばならない」の考え方から自分を解放することができるのでしょうか。NVCは、大切にしたいものに気づき、そこから行動するための4つの要素を提案しています。
・観察(解釈や決めつけを持ち込まずに、出来事をありのまま客観的に捉える)
・感情(どう感じているのかに気づく)
・ニーズ(何を大切にしたいのかに気づく)
・リクエスト(その大切なものを大事にするための方法を提案する)
あなたがイラッとした出来事を思い浮かべてください。そして以下のように振り返ってみましょう。
◆例
・観察(実際に起きた出来事を客観的に描写する)
Aさんは、私の提案に「そんな考えは間違っている」と言った。
→これに対して「Aさんは攻撃的で人の話をまったく聞いていない」という考え(解釈)があることに気づく。
・感情:イラッとした・悲しい・悔しい
・ニーズ(大切にしたいこと):聞いてもらうこと、理解し合うこと、分かってもらうこと
このように捉え直してみることで、自分が何を大切にしたいのかを、整理することができます。すると気持ちに少しゆとりができ、状況をより冷静に見ることができるようになるのです。
大事にしたいことが明確になったならば、それを大切にするために役立つ方法を考え、リクエストすることで相手とのよい関係性を築きます。
NVCでは、自分の大切なことに耳を傾けることを「自己共感」と呼んでいます。そして、相手の大切にしていることに耳を傾けることを「他者共感」と呼んでいます。
NVCでいう共感は、「相手に同調する・同意する」こととは違います。「何を大切にしているのかに耳を傾け、そこにつながること」を言うのです。
価値観の違う相手に対しても「何かしら大切なことがあるのだな」と想像することはできます。まずはそう捉えてみるだけでも、捉え方に大きな変化が生じます。
職場では生産性や、組織のロジックが優先されがちです。そこでは「べき」「ねばならない」は便利な言葉ですし、確かにそれで一定の成果は上げられるかもしれません。
でも、そこにいるのは人間です。人の内面を置き去りにした議論をしていては、問題の本質にたどりつくことができず、結局は時間を浪費することになります。人は「大切にしているもの」を受け止め合うことで、つながりを感じ、信頼を築いていけるのです。
「自分は(相手は)何を大切にしているのだろう」。たった一つ、そこで立ち止まることで、関係性に大きな可能性が開けるのです。
<エクササイズ>
・誰かの話を聴く時に「この人は何を大切にしたいのだろう」と考えてみましょう。
・そして、自分の中に何か反応が起こったら「私は何を大切にしたいのだろう」と立ち止まってみましょう。
◆大切にしたいこと(ニーズ)の例
安心 安全 つながり 協力 サポート 選択 自由 本物であること 貢献 成長 自主性 効率性 明確さ 分かってもらうこと 相互理解 現実の共有 価値の承認 誠実さ 思いやり 喜び 気軽さ スペース
(カバーデザイン:武田 雲 写真:Nataliia Prachova/iStock)