
2022年2月1日
読了目安4分

最初に「民主主義と資本主義のアップデートがなぜ必要なのか」を考えるいくつかのファクトを出したいと思います。
出発点として、民主主義と資本主義は、近現代社会の裏表みたいな存在として機能してきた部分があります。ただ、よくよく考えてみると、この2つを併存させるということ自体がすごく変な仕組みに見えます。
資本主義というのは、賢くて強い存在によって付加価値が作られて、“異常値駆動”で物事が動いていく仕組みです。知恵や資源を持っている人たちが、アイデアや製品や組織や人を占有して、そこに複利をかけていくので、富める者がますます富んでいく。
一部の起業家や資産家、投資家がどんどん勝っていくような構造です。
それに対して、民主主義は資本主義と真逆に見えます。
“異常値駆動”というより“中央値駆動”で、ごくごく普通の人たちが何を考えているかによって駆動されていきます。そのため、日本で民主主義をやると、年金生活者の老人が物事を駆動していくことになります。テレビコンテンツの作られ方と同じですね。
そういう意味で、民主主義とは、どんなに貧乏でもどんなに情弱でも、あらゆる人を包摂していこうという考え方です。嫌な人同士でも共存して、“なあなあ”なところで意思決定を進めていく仕組みです。
資本主義と民主主義は大きく異なるベクトルを向いているように見えます。資本主義は成長の方を向いていて、民主主義は分配の方を向いている。一言で言うと、民主主義と資本主義は水と油のような存在なのだと思います。
過去100~200年、我々の社会は、水と油を無理やり混ぜ合わせることによって、行き過ぎた資本主義の歪みを民主主義で矯正しようとしてきました。
しかし、現状、この2つのバランスがおかしくなっているように見える。それが重要な議論の出発点だと思います。
つまり、車輪の両輪だったはずの民主主義と資本主義のうち、民主主義の側がほぼ故障してしまっているように見える一方で、資本主義はイケイケどんどんで、かつてない黄金期を迎えているように見える。それが現状ではないかと思います。
では、なぜ民主主義が痙攣を起こしているのでしょうか。
それを考えるために、いくつかのデータを見てみたいと思います。これらの分析は私と須藤亜佑美さん(イェール大学の大学生で半熟仮想のメンバー)で行ったものです。
グラフの横軸には、世界中の国々の政治制度がどれくらい民主主義的かを示す、民主主義指数(シンクタンクNGOのV-Dem:Varieties of Democracyが作成)をプロットしています。縦軸には、2020年に人口100万人当たりのコロナで亡くなった人の数を記しています。
そうすると、予想通りではありますが、この2つの間にすごく強い正の相関が見られます。

アメリカ、フランス、ブラジルのように民主主義の代表格といえる国々は右上に位置しており、コロナ死率が高くなっています。ブラジルに至ってはポピュリストの大統領が「コロナは風邪でワクチンは陰謀論だ」と言って、国民にワクチンを打たないように呼びかけたほどです。
他方で、左下を見てみると、中国を筆頭に東南アジア、中東、それからアフリカの専制諸国が並んでおり、コロナの死者数を抑え込むことに成功しています。
さらに興味深いことに、縦軸に2020年のGDP成長率をプロットしてみると、民主主義指数との間にはっきりした負の相関が現れます。

民主主義的な国はコロナ死者率が高く、“命”という意味で苦しんでいるわけですが、同時に“経済”の意味でも苦しんでいるのです。
日本はコロナ死者率が低い国として知られていますが、経済成長率を見てみると、実は北米や欧州諸国と同じぐらいダメージを受けている。そしておそらく2021年については、先進国の中で最悪に近い水準のダメージが見込まれています。
すなわち、最近のデータを分析していくと、経済の面でも、公衆衛生の面でも、民主主義的な国がコロナ禍の最中にはっきり失敗してきているように見えるのです。
コロナ禍の最中に、多くの民主主義国がどんな感じで政策を動かしていたかを振り返ると、立川談志さんのこんな言葉を思い出します。
酒が人間をダメにするんじゃない。人間はもともとダメだということを教えてくれるものだ。
それと同じことが民主主義についても言えるのではないでしょうか。
つまり、民主主義という鏡を通して、政治が世論を映し出すことによって、人間がいかにグダグダな判断をしがちな存在かということが民主主義国で白日の下にさらされた。それが過去2年くらいの経験から言えるのではないかと思います。
もちろん過去2年は非常に特殊な時期であって、コロナ禍での経験だけをもって、「民主主義がダメだ」と語るのは論拠が不十分です。
しかし実は、ここで示した傾向は、コロナ禍だけに限られた話ではありません。平時の普通の時期にも当てはまることなのです。