
2022/03/29
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佐々木 今回のゲストは、インキュベイトファンド代表パートナーの赤浦徹さんです。9 questionsへようこそ。

赤浦 よろしくお願いします。
竹下 赤浦さんは、ベンチャーキャピタリストとして30年のキャリアを歩んでこられた、VC(ベンチャー・キャピタル)業界のレジェンドとも呼ばれる存在ですが、この30年を振り返ってみていかがですか?
30年前の日本ではまだ、“ベンチャーキャピタリスト”という職業自体が知られていなかったのではないかと思うのですが。
赤浦 私がジャフコ(旧:日本合同ファイナンス株式会社)に新卒で入社したのが1991年ですから、30年前というとまさに入社したての頃ですね。その頃はおっしゃる通り、VCといっても誰も理解してくれませんでしたね。
竹下 そもそもなぜVC業界に入ろうと思われたんですか?
赤浦 もともとは、起業したかったんですよね。社長になって、会社経営がしたかった。ですが当時はまだ、今のように起業する人があまりいませんでした。
ましてや若くして社長になっている人なんて本当にまれで、ジャフコに入社後、投資先となる会社を探す中でも、50代の社長がいると「やった、若い!」、40代の社長に出会えると「信じられない、ラッキー!」、30代の社長はほぼいない、といった感じでした。
そんな時代でしたから、起業する前にまずは「どうやったら社長に会えるか」と考えてVC業界を選び、当時日本最大のVCだったジャフコに入社をしたわけです。
竹下 当時のVCでは新卒で入社して、最初に担当するのはどんな仕事だったのですか?
赤浦 一般企業と変わらないですよ。名刺の渡し方などを教わる2週間の研修を終えた後で、束になった企業リストを渡されて「行ってこい」と。
そのリストを片手に、中央区のビルに飛び込んでひたすら営業をかけました。「日本合同ファイナンスと申します。◯◯社長いらっしゃいますか? 株式上場のご案内をさせていただきたくて……」というのが定番のせりふでしたね。
ただ、入社してすぐに「このやり方はおかしいんじゃないか」と違和感を抱き始めて。新卒入社の、まだ知識も十分にない若者が飛び込みで突然来て、社長に会ってもらえるものなのかと。
実は意外と会ってもらえるんですけどね。でも、会ってもらえたとして、いきなり「株式上場のご案内がありまして」と切り出すのは少し違うんじゃないかと。
貴重なお時間をいただくからには、こちらも何か価値を提供しなければいけない。同年代の仲間や先輩、新たに入社してくる後輩たちの知的な仕事ぶりを見ながら勉強していました。
当時は流通革命が叫ばれ始めた頃だったので、関連する情報を営業先に持っていきながら仲良くなる。そんなアプローチで関係性をつくろうとしていました。

竹下 いつ頃からVCやベンチャーキャピタリストという仕事への認知度が上がってきたと感じましたか?
赤浦 この10年内くらいでしょうか。それまではずっと地味な存在だったように思います。
佐々木 10年前に何かきっかけとなるようなことがあったんですか?
赤浦 2000年以降、サイバーエージェントの藤田さんなど、華々しく取り上げられる起業家さんがたくさん出てきたことで、「起業して成功するとこうなる」というポジティブなイメージが分かりやすく示され、起業家がどんどん生まれる流れができました。
ただVCに関して言えば、当時もまだそこまでは目立っていなくて、一つのターニングポイントとなったのは、2010年に上映された映画『ソーシャル・ネットワーク』(原題:The Social Network)だったように思います。
Facebook(現Meta)の設立を描いたその映画の中で、Facebook初の外部投資家になったピーター・ティールの存在が描かれていたんですよね。あの映画がヒットしたことで、世の中一般にVCがどういう存在なのかという認知が広まり始めたんじゃないかと。
竹下 映画の中ではピーター・ティールがカッコよく描かれていましたものね。
そうしたVCやベンチャーキャピタリストに対するイメージや人気の度合いも含めて、「世界と日本」のVCの差について考えると、どこが一番違うのでしょうか? 世界というより、アメリカと比べると鮮明かもしれませんが。
赤浦 日米ではVCのあり方や歴史がそもそも違います。
ベンチャーキャピタリストという仕事はもともとがアメリカから始まった職業ですが、シリコンバレー誕生のきっかけとされるフェアチャイルド・セミコンダクター社の創設が1957年、アメリカのVCの起源とされるアメリカン・リサーチ・アンド・デベロップメント社(ARD)の創設はさらに遡って1946年のことでしたので、とても歴史が古い。
『アメリカを創ったベンチャー・キャピタリスト 夢を支えた35人の軌跡』(ウダヤン・グプタ、翔泳社)という書籍も発行されているほどで、アメリカではベンチャーキャピタリストが産業をつくっている、という空気が長い歴史の中で脈々と形成されているんです。
アメリカを代表するベンチャーキャピタリストの1人、ジョン・ドーアの自宅にバラク・オバマやスティーブ・ジョブズ、エリック・シュミットなど、当時のアメリカをつくっているとされる中心人物たちが集まっていたというエピソードからも、アメリカでは経済のど真ん中にVCが位置していることが分かります。
起業するよりもVCに入る方が難しいという空気があるほどで、スタンフォード大学やハーバード大学でMBAを取るような優秀な人材は、皆ベンチャーキャピタリストを目指す。階層の頂点に近いところにVCが存在しているのがアメリカなんです。

竹下 いわば産業プロデューサーですね。映画界でいえば、役者や監督の存在も重要ですが、最終的にはプロデューサーが全てを仕切るように、VCもきっと近い存在なんでしょうね。
赤浦 黒子ですよね。表には出てこない黒子ではあるけれども、大きなきっかけをつくっている存在であるということは、アメリカの歴史が実証しています。