
SVODと映画館の相乗効果
文/梅津 文
Amazonプライム・ビデオ、Netflix、ディズニープラス……SVOD(定額制動画配信サービス)の台頭は、人々のエンターテインメントの楽しみ方を大きく変えた。エンターテインメント業界のデジタルマーケティングを行うGEM Partners梅津文社長が、この5年間に起きたことをデータをもとに振り返った。
映画公開前後にSVODで予習・復習
『すずめの戸締まり』公開前には、新海誠監督作品をまとめてSVODで見られる機会が設けられました。
新海作品に触れた人が、劇場に行き、その後もSVODでもう一度見るといった、動画配信サービスならではの楽しみ方が、劇場へと人を促している可能性があります。劇場で映画を見るのは、いわばイベントです。
SVODは、劇場公開の前後に「いつでも、どこでも、いつまでも」作品が見られるため、熱量を高める装置として機能しています。
SVODで予習することで劇場鑑賞への熱が高まる一方、劇場鑑賞を通じて復習熱が高まり、SVODで関連作品の視聴意欲が増すこともあります。劇場と動画配信サービスでは、可処分時間の奪い合いがある一方、相乗効果もあるのです。
洋画はまだ市場が戻ってきていませんが、2022年5月末に公開された『トップガン マーヴェリック』の成功は特徴的です。前作『トップガン』(1986年)から30年以上経ちながら、世界で記録的成功を収め、国内でも興行収入130億円を超えました。
ここでもSVODと映画興行の相乗効果が見えてきます。『トップガン マーヴェリック』公開直後となる、6月のSVOD視聴者数ランキングで『トップガン』は7位に浮上。その後、7月、8月にもランキング上位に位置しました。
予習した人ももちろんいるでしょうが、劇場で新作を見たあとに、復習として旧作に触れている人も多いことが分かります。このように、継続して作品の世界観に触れられる環境がある作品は、ファンの熱を維持し、拡大しやすいと言えます。

中規模作品を伸ばすソリューション
ユーザーは、横断的な映像の触れ方に慣れてきているので、過去作品を簡単に見られない作品は機会損失をすることが考えられます。
まだまだ、もっと盛り上げられるのに、と思う作品は多くあり、特にまだ劇場に戻ってきていないシニア層が支持する洋画などで、その手法を使う余地はあります。
映画は、興行収入20億円以上のビッグタイトルが目立つ一方で、10億円台など中規模の作品が育ってきていません。ひとつの作品の成功では市場は形成されず、幅広いバリエーションの作品を同時に盛り上げる必要があるのです。
アニメは、従前からテレビ放送で作品に触れ続けることで、そのIPを好きでいる熱量がキープされる現象が起きていました。その「場が温まる」という現象が、最も極まった形で出たのが『鬼滅の刃』でした。
劇場版の『鬼滅の刃』だけに注目していては、なぜこれほどの巨大ヒットにつながったのか説明がつきません。漫画があり、テレビアニメがあり、動画配信があり、SNSがあり、声優にはまる人もいるなど、IPが複数のプラットフォームを横断して盛り上がる現象に、私は感銘を受けました。
そして、本当に日本のエンターテインメントを盛り上げるためには、ジャンルごとのヒットを分析するだけではなく、横断的にIPの熱量を把握する装置が必要だと考え、新しいサービスの開発に取り組んでいます。
ファンはコンテンツを多面的に楽しむ
昨今エンターテインメント産業においてはアニメビジネス、アニメの人気が注目されています。
映画館でも『劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編』が歴代興行収入記録を塗り替えたことも記憶に新しい中、最近では『ONE PIECE FILM RED』が興行収入197億円を記録し、また『THE FIRST SLAM DUNK』も132億円(4月24日時点)を超えていまだにヒット公開中であるなど、アニメ作品の興行収入が記録的な大成功を収めています。
しかし、アニメの人気は、TVアニメ、劇場版に限らず、原作漫画から始まり、音楽、タレント(声優)、SNS、ゲーム、グッズほか、数多くの形態でファンと接点を持っています。
そのため、いま話題になっているコンテンツがどの程度、そしてどのように人々の心をとらえているのかをつかむ上では、「アニメの視聴率」「映画の興行収入」「漫画の発行部数」というメディアごと、裏を返せば、個々の業界ごとではなく、市場を横断的にとらえる指標が必要となります。
例えば、弊社で行っている月次の「Entertainment Standard調査」の過去3カ月間(2022年12月~2023年2月)のデータから、大人気のエンタメブランド『鬼滅の刃』のファンがどのメディア・形態で楽しんでいるのかを集計した結果が以下となります。

『鬼滅の刃』ファンは、<アニメ>で楽しんでいる割合が圧倒的に高く、これに<マンガ>が続きます。3位の<キャラクター>も24%と、主人公の竈門炭治郎をはじめとした登場人物の人気がうかがえます。声優や主題歌も高い人気を誇っていますが、<タレント>や<音楽>の値をみるに、こうした側面で『鬼滅の刃』に「はまっている」人も全体のファンの中で10%程度存在することが分かります。さらには、SNS、ゲーム、イベントなども、楽しんでいるメディア・形態として挙げられています。
エンタメブランドを“横断”でとらえる
こうした傾向は、エンタメブランドによって異なるのでしょうか。
以下は、3カ月間(2022年12月~2023年2月)のデータから、アニメに関連した大きめのエンタメブランドを7つピックアップし、それぞれのファン度数と、「楽しんでいるメディア・形態」についてファンごとの割合を示して比較した表になります。

多くのエンタメブランドで<アニメ>の形態で楽しんでいる割合が高くなりました。一方で、原作となる<マンガ>と<アニメ>の割合を比べると、エンタメブランドごとにばらつきがあることが分かります。今回挙げたなかでは、『ONE PIECE』が<マンガ>で楽しんでいる人の割合が高くなりました。
<キャラクター>として楽しんでいる人の割合に目を向けると、『ぼっち・ざ・ろっく!』『鬼滅の刃』がやや高め。また、『ぼっち・ざ・ろっく!』は、女子高生のバンド活動を描いていることもあり、<音楽>の割合が高くなっています。
久々の新作が映画として大ヒット中の『SLAM DUNK』は、ファンのなかで<映画>の形態で楽しんでいる人の割合が高いのが特徴です。「スラムダンクブランド」を引っ張っているのは最新映画のヒットだということが分かります。
エンターテインメント・マーケティングでは、いま何がどのように人の心をつかんでいるのかをとらえる上で、「テレビの視聴率」「マンガの発行部数」などでは、各業界内の動きはとらえられるものの横比較が難しいのです。
メディアを横断して幅広くつかむ必要があり、次のヒットを作る企画・制作の過程でも、こうしたデータは有効となります。