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本は読んでも読まれるな
「3割の懐疑」の法則

構成/宮本恵理子 撮影/稲垣純也

各界で活躍するビジョナリーが、人生のターニングポイントにどんな本を読み、その読書体験が思考・行動にどんな影響を与えてきたのかを聞くオムニバスシリーズ。シーズン2は学びデザイン代表の荒木博行さん

「本を読むと愚かになる」?

 2022年1月に『自分の頭で考える読書』(日本実業出版社)という本を上梓しました。本の選び方や読み方をテーマに、僕なりの考えをまとめた本です。

 このタイトルを目にした方のほとんどは、「そんなの当たり前じゃないか」と思うはずです。「自分の頭で考えて読書するなんて、当たり前じゃないか」と。

 果たしてそうでしょうか。

 今の時代に生きる多くの人が、無意識に“他人の頭”で考える読書をしているのではないだろうか?――そんな問いを投げかけたくて、僕はこの本を書きました。そして、この本を書くきっかけとなったのが、2年ほど前に読んだ『読書について』(ショウペンハウワー・光文社古典新訳文庫)です。

 『読書について』(ショウペンハウワー・光文社古典新訳文庫)

 <Amazonページの紹介より>

 「読書は自分で考えることの代わりにしかならない。自分の思索の手綱を他人にゆだねることだ」……。率直さゆえに辛辣に響くアフォリズムの数々。その奥底には、哲学者ショーペンハウアーならではの人生哲学と深いヒューマニズムがあります。それが本書の最大の魅力です。

 読書について、ショウペンハウエルが何を語ったか。一言で表すならば「多読は人を愚かにする」ということです。

 本には他者の思考が書かれている。それをそのまま受け取ることによって、自身が本来持ち合わせている思考を放棄し、他者の思考を上塗りすることになるのだとショウペンハウエルは説いています。

 本は読むべし、読まれるべからず。影響力の強いパワフルな本に出合ったときほど、「読まれる読書」の危険性を自覚しないといけない。内田義彦先生の『読書と社会科学』にも近いことが書かれていますが、僕は今の時代にこそ重要な視点だと感じています。

 新鮮で刺激的な本に出合うと、「そのとおりだ。100%アグリー!」と心酔しがちです。けれど本来、人は一人ひとり異なる経験を重ねて独自の価値観を形成するものであり、他者の考えを100%受け入れられるなんてあり得ないはず。思考停止が「読まれる」状態を生んでしまうのです。

熱狂7割、懐疑3割

 ビジネスでも然り。特に、創業期のスタートアップなど熱量の高い組織では「このプロダクトで世界を変えるぜ」と一丸となってまとまることがよしとされますが、“熱狂10割”では取り返しのつかない失敗へと進むリスクがある。

 これは、自著『世界「失敗」製品図鑑』(日経BP)で紹介した事例でも明らかなことで、僕は「熱狂7割、懐疑3割」がベストだと伝えています。

 懐疑とは、自分なりの異物反応や違和感。モヤモヤとした違和感を封じることなく、大事に保持して、言語化してみる。すると、オリジナルのオピニオンになる。

 SNSが普及した今、影響力のある人の発言はさらに影響力を増し、まるで絶対の真理であるかのように目に耳に届きます。熱狂10割ですべて賛同するほうが、ラクかもしれません。でも、それは思考のアウトソースに他ならない。

 「分からない」部分を明らかにすることで、自分の思考の形を探ることができる。そんなふうに読書を意味づける姿勢が、より大事になってきている気がします。

 ただし、懐疑の割合が多すぎると、素直に吸収できなくなる。だから、「3割の懐疑」くらいがちょうどいい。

 僕にとって「良い読書」とは、モヤモヤが長く残る読書です。

 読後感で比較するなら、「これ、すごいな。自分が思っていたことが全部書かれている。100%同意できる!」と思える本のほうが圧倒的にいいでしょう。けれど、その読書体験は本を閉じた瞬間に終わってしまいます。引っ掛かりがないから、読んだ時点で完了し、何も残らない。

 モヤモヤが残るのは、決して気持ちがいいものではありません。どちらかといえば不快。「あれはどういう意味だったのか……」「あの一節がどうしても腑に落ちないな」と問いを抱え続けることになるからです。

 でも、1週間後か数カ月後か、はたまた十数年後かに、ふと理解できる瞬間が訪れる可能性がある。その瞬間を味わえたときに、ようやくその読書は自分のものになる。そんな長い付き合いになる読書こそ、上質な体験だと僕は思うのです。

読書体験は、問いと答えの掛け合わせ

 あらためて、僕が考える読書体験は3つのカテゴリーに分けられます。前提として、本には必ず「問い」と「答え」があり、その組み合わせによって読書体験の意味は違ってきます。

 まず、僕たちが手に取りやすく、スッと理解できて共感できるのは、問いと答えいずれも自分の考えと一致するものです。「そうそう、これ大事だよね」と、最初から最後まで違和感なく読み進められる読書体験。これが一つ目です。

 二つ目のカテゴリーは、問いは自分の考えどおりだけれど答えは不一致というパターン。「ほお、こう思っていたけれど、そんな考えもあるのか」と新しい発見につながり、それなりに楽しめる読書体験になる。

 でも最高に楽しめるのは、三つ目の「問いそのものが新しい」読書。ハッキリ言って、かなり負荷はかかります。

 でも自分では決して思いつかない問いを受け止めた瞬間に、“自己破壊”が起きて、見たことがない新しい世界が開ける。

 最近の僕が好んで集めるのは、そんな本ばかりです。だいたい週に5〜10冊、仕入れて、隙間時間の5分、10分で少しずつ読み進めるのが習慣になっています。

 書籍要約サービス「フライヤー」の経営に携わっていたり、音声ブログ「Voicy」で1,500回以上にわたって本の紹介をしてきたり。そんな活動の印象からか、「本好き」「読書家」とイメージを持たれることが多い僕ですが、実は“遅咲き”タイプ。

 本をよく読むようになったのは、社会に出てずいぶんたった30歳手前頃からなのです。それも必要に駆られて無理矢理、というきっかけでした。

 次回から、僕の人生の節目を彩った読書体験について振り返ってみようと思います。

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