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大企業のソーシャルシフトなぜ今、加速しているのか

読了時間5分 (2,836文字)

構成/宮本恵理子 撮影/竹井俊晴

企業内ソーシャルビジネス創出の伴走支援を行うボーダレス・ジャパン。その知見から、「大企業の中でソーシャルビジネスを生み出すには?」の解を探す。

増える企業のソーシャルシフト

 「わが社でソーシャルビジネスを始めるには、どうしたらいいのでしょうか?」

 企業からそんな相談を受けることが年々増えています。

 私が副社長を務めるボーダレス・ジャパンは、2007年に創業して以来、社会起業家を支援するプラットフォームとして事業を広げてきました。

 社会問題やその解決への関心が高まり、講演依頼などをいただくことも多くありましたが、最近では“企業内の新規事業創出”に関するアドバイザリーの依頼も増えてきました。企業内で社会的事業を担うリーダー、「ソーシャルイントレプレナー」を育成したいというニーズです。

(写真:Cecilie_Arcurs/iStock)

  かつて、社会貢献を目的とした活動と、企業の営利活動は「相反するもの」として位置づけられていました。しかしながら、急速にその距離が縮まってきています。

 なぜ今、大企業のソーシャルシフトが進んでいるのか。それは「やらなきゃいけない理由」が生まれているからです。

SDGsネイティブ世代に選ばれるために

 世の中全体で「SDGs」という言葉が頻繁に叫ばれるようになり、企業の社会貢献活動に対する注目は高まっています。

 特に上場企業に対しては、ESG(Environment, Social, Government)の施策を監視する目は厳しくなるばかり。「稼いで利益を出していればいい」という時代は終わりを告げ、「よりよい社会の実現に貢献できる」姿勢が企業に求められています。

 企業が気にしているのは、投資家の目だけではありません。“SDGsネイティブ”の感覚を持つ若い世代に選ばれる企業になるためにも、ソーシャルシフトは欠かせないテーマです。

(写真:maroke/iStock)

 中でも、企業の人事担当者が頭を抱えているのは、人材流出の課題。20〜30代のSDGsネイティブ世代には、会社の知名度や給料の高さよりも、ソーシャルインパクトに価値を置く人が多いと言われています。私たちの実感としても、その傾向は間違いありません。

 つまり、将来にわたっての会社の発展を考えたときに、ソーシャルシフトは重点項目になるというわけです。

 一方で、企業にとって「ソーシャルビジネスを始める」という挑戦は、非常にハードルが高いもの。まさに難題だらけです。

 なぜなら、これまで資本主義社会でよしとされてきた企業活動は、ソーシャルビジネスの根幹と矛盾する部分が多々あるからです。

効率化の中で置いていったもの

 例えば、あなたは衣料メーカーの経営者だとします。町の小さな縫製工場から商品を仕入れて販売している会社です。今年は業績が悪く、赤字に転落しそうです。経営者としてどんな対策をしますか? 直感で答えてみてください。

 これは私がビジネスパーソンや学生に向けて話す講演でよく問いかける質問なのですが、返ってくる答えは大体同じです。「まず、仕入れや家賃のコストを下げます。人件費を下げるのは最後の手段にします」。その理由を聞くと、「人を大事にしたいから」とおっしゃいます。

 仕入れのコストを下げることが、取引先の零細企業で働く従業員の方々の生活を苦しくする可能性もあるのですが、優先するのは自分が直接関わっている「目の前にいる人」なのですね。決してそのつもりはなくても、誰かを置いてきぼりにしてしまう。そんな選択が、ビジネスの世界では日常的に起きています。

 あるいは、仕入れ先を決めるとき、小規模縫製工場30社と取り引きするか、大手商社2社と取り引きするか、どっちを選ぶか?と聞かれたらどうでしょうか。おそらく、ほとんどの方が後者を選ぶと思います。30社と同時に連絡するのは手間がかかって非効率だからです。

 また、中途採用をしようとするとき、直近で実務経験がある人と、3年ブランクのあるシングルマザーが同時に応募してきたら? おそらく実務経験者に採用通知を出す人が多いはずです。これも、そのほうがはるかに効率がいいから。

バリューチェーンを根本から見直す

 このように、利益を早く大きく得るために専門化・集約化・画一化に向かう「ビジネスの当たり前」が、悪気なく「置いてきぼりになる人たち」を生み出してしています。

 この「置いてきぼりになる人たち」を意図的に巻き込んでいくのが、ソーシャルビジネスです。つまり、バリューチェーンを根本から組み直す。

(ボーダレス・ジャパン資料より作成)

 効率化の裏で取り残されてきた人たちにも、チャンスを共有し、ビジネスの仲間として手を取り合い、助け合いながら得られるプロフィットとベネフィットを共有していくという挑戦です。

 「でも、それではビジネスが成り立たなくなってしまうのでは?」と首をかしげたくなりますよね。それがまさに、大企業がソーシャルビジネスを始めることが難しい理由です。しかし、方法はあるので、後ほど詳述します。

働き方を見つめ直す

 一方で、ソーシャルビジネスは、「取り残される側」の人たちだけに益をもたらすものではありません。この社会のすべての人たちに行き渡るものです。

 産業資本主義でスピードを増してきた効率の渦の中、ビジネスのど真ん中で働く人たちが心からの幸せを感じられているのかというと、果たしてそうでしょうか。

 オーバーワークが理由で家族や友人と語らう時間を十分に持てなかったり、目標必達のプレッシャーで心を病んだり。大量生産大量消費の時代を経て、社会が成熟期を迎えた今、「こんな働き方でいいんだっけ?」と立ち止まって考え始める人が増えています。

 人と人がつながり、顔が見える関係性の中で働きがいを感じられる日々へ。人間性を取り戻す働き方へと、少しずつ社会全体が向かおうとしている。「効率と非効率の分断」を解消する転換期を、私たちは迎えているのです。

企業は新しい「コモンズ」になれる

 「企業がソーシャルビジネスを始める難しさ」から語ってしまいましたが、私が強調したいのはここから先。企業には社会を変える大きな可能性があるということです。

 企業が持つリソースは強力です。効率化によって発展した流通網や社会的影響力を生かして、ちょっとした施策と工夫を取り組むだけでも、大きなソーシャルインパクトを生むことができます。

(写真:metamorworks/iStock)

 「私」でもなく「公」でもない、「共(commons、コモンズ)」の役割を果たせるのは、ビジネスというパワフルな仕組みを持つ企業。

 社会問題の当事者を巻き込みながら、みんなで助け合って、それぞれが自立しながら幸せを感じられる社会をつくる。そんな「新しいビジネス」を構築する要となれるのが、企業。

 そのパワーを発揮していくための方法について、次回から話を進めていきます。

 (カバーデザイン:仲尾香織)

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